独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

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透見ルートに突入……出来るかな? その3

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 でも考えてみればそうかもしれない。棗ちゃんのおかげでこうやって二人で図書館に来ることは出来たけど、まだ特にこれといって透見の好感度アップするような努力を、わたし何一つしてないんだもん。

 うん、そうだよ。どうにか透見との距離を縮めなきゃ。

 そうは思うものの、困った。ゲームだと選択肢が出て好感度高そうなの選べば良いだけの話だけど、夢とはいえさすがにポンと選択肢が出る訳じゃない。

 かといって現実でカレシとかなんとか面倒くさいから別にいらなーいと思ってるわたしには、どうしたら男の人の気を引けるのかなんて事も分かんない。

 あ、でも待てよ。これ夢なんだから無理にわたしが行動起こさなくても何かイベントが起こるかも? だったらその時に頑張って好感度上げれば良いのか?

 そういう事にしとこう。

 あんまり変に悩んでも夢なんだから、と自分を納得させて、わたしはもう一度本へと目をやった。

 しばらくしてふと透見の方の調べ物はどうなんだろうと思って尋ねてみた。

「残念ながら今のところ目新しい記述は見つかりませんね」

 透見は中学生の頃からずっとこの伝承を調べてたんだから、どこを見てももう何度も読んでるんだろう。

「そっか。……図書館の本じゃ限界があるのかな」

 透見の読んでる本は以前は神社に納めてあったという古文書だ。だとしたら本以外にも何か神社に残ってるんじゃないかな。

 けど二度も小鬼に襲われた神社に行くのはちょっと怖い。それにたぶん、反対される。

 それでも行こうと思ったら、きっとみんなついて来る事になるよね。

 むむっと眉を寄せていると、申し訳なさそうに透見が頭を下げた。

「お役に立てなくて、すみません」

「いや。いやいや。役に立ってないのはわたしの方だよ?」

 慌てて言う。実際古文書関係が一切読めないわたしは役に立ってるとは思えない。

 だけどそこはそれ、透見は優しいから否定してくれる。

「とんでもない。姫君は魔術の掛かったページの解読で一歩前進されたではないですか。比べ私は何一つ新しい発見をしていないのです」

 溜め息をつき、しゅんと沈み込む透見。そんな透見を見てると、元気づけたくなった。

「き、気晴らしにちょっと外でも歩こうか?」

 上手に元気づけるのは苦手だけど、それでも言ってみる。透見はわたしの提案にちょっと驚いたような顔をした。

「しかし……」

「大丈夫だよ。ちょこっとだけだし。根を詰めたって良い事ないし?」

 透見が小鬼に会うのを警戒しているのは分かっていたけど、図書館に来るまでの間だって外に出るんだし、ちょっとの間くらい図書館から出たって平気だと思う。

 わたしの気持ちが通じたのか、透見は少し考えた後、にこりと笑って頷いてくれた。



 この島の図書館はちょっと小高い丘の上にある。とはいっても神社のある場所ほど高くはないし、街が一望できるわけじゃない。

 それでも少しは高い場所にあるから、ちょっと気持ちイイ。

「あ、ねぇ透見。あれ何?」

 図書館の敷地内にある、策で囲われた場所を指さして尋ねる。そんなに広くない、児童公園の遊具がひとつ置けるか置けないかのその策の中は、こんもりとした小山になっていてただ草が生えている。隅に看板がたっていて何か説明が書いてあるんだけど、目の悪いわたしにはここからじゃ読めない。

「ああ、あれは古墳ですよ」

 さすがは地元民というか、何度も図書館へと足を運んでいるからか、透見は説明を読むまでもなく答えてくれた。

「古墳ってあの前方後円墳とかの?」

 むかーしむかしに習った教科書の写真がボンヤリと頭に浮かぶ。

「はい。ここのはただの小さな円墳ですが」

 興味をひかれ、近づくわたしの後を透見も追って来てくれる。

「古墳ってもっと大きいものかと思ってた」

 というか、教科書に載ってるようなのは本当に大きいよね?

「有名な物は大きいですよね。けどこれは名前も残っていないような豪族のお墓でしょうから」

 近くでよく見ると、草の陰に入り口らしい小さな穴がある。

「へぇ。ロマンだね。大きい古墳はたぶん、見たら感動するんだろうけど。こんな小さいの、よく壊れずに現代まで残ってたなってそこにロマン感じちゃうよ」

 心が震えるような感動はないけれど、なんていうかほんわかしたゆるい感動を感じてしまった。

「透見はどう思う?」

 地元民で見慣れてるから感動なんてないのかもしれないけど、意見を聞いてみたかった。

「私は姫君にロマンを感じていますよ」

 いつもの優しいだけじゃない、とてもとても嬉しそうな瞳をして透見が呟く。

「伝承は誰もが知っていて信じてはいますが、自分の時代にしかも自らの手で召還しお守り出来るのはとても光栄で、ロマンを感じています」

 その愛おしそうともとれる瞳に、ついドキドキしてしまう。うん、透見を選んで正解だったかも。

 けど、わたしの方だけがドキドキしてもダメじゃん。透見にもドキドキしてもらわなくちゃ。

 足りない頭をフル回転してどうすれば透見に意識してもらえるか考える。けど、受動的にゲームで選択肢選ぶのと違って現実で能動的ではなかったわたしはあきらかに経験不足。どうすれば良いのかさっぱり分からない。

 頭の中グルグル回って結局何も言えないままだ。

 すると口をパクパクさせるばかりで何も言わないわたしを心配して透見が声をかけてくれる。

「どうかされましたか、姫君?」

 わたしの顔を覗き込むようにして尋ねてくる透見。

 顔が赤くなるのを感じながら、わたしは顔をぶんぶんと振った。

「なんでもないよ、大丈夫。うん、ロマン。そういう事ならわたしも透見にロマン、感じるよ。魔術使える人なんて初めて見たし、すごいと思う」

 わたしが照れたせいなのか、それともロマンを感じるって言ったせいなのか、透見の顔がぱっと赤くなった。それを見てついわたしもますます顔に血が上る。

「あ、あの、ありがとうございます。そう言っていただけると姫君の為に努力したかいがありました」

 赤い顔のままにこりと笑う透見がかわいくて、ついわたしもへらりと笑ってしまう。

「努力……そっか。召還する魔術とか習ったんだよね。他にも色々。大変だったんじゃない?」

 漫画だの小説だので魔法やら魔術やらを知ってはいるけど、でもそれって実際に知ってるわけじゃない。だからここの魔術がどういう仕組みでどうやって修得するものなのか、さっぱり分からない。

 それでも中学の自由研究からこの伝承を調べ始めたって言ってたから、魔術を習い始めたのは更に後だろう。どんな習い事も早い方が良いってよく言うから、そう考えると透見が魔術を習い始めたのって結構遅かったんじゃないかと思う。

 なのにこんな風に召還の魔術だけじゃなく小鬼に姿を見えなくしたりとか、障壁を張ったりとか、すごいと思う。

 だけど透見は笑顔のまま「いえ」と答えた。

「簡単に修得したとは言いません。けれど姫君を召還し、お守りする事がずっと私の夢でしたから、一度も大変だと思った事はありません」

 透見が〈救いの姫〉に心酔してるって言ったのは誰だったっけ。

 こんな風に嬉しそうに言う彼を見てると、本当に〈救いの姫〉に心酔してるんだなぁって思う。けどそれってあくまで〈救いの姫〉にであって、わたしにではないんだよね。

 そう思うと軽く落ち込む。

 いやいや、落ち込んでる場合じゃない。わたしだろうと〈救いの姫〉だろうと、とにかく好感度上げなきゃだし?

 だけど元々口下手なわたしは上手く言葉が紡げない。

「大変な事を大変と思わないのはうん、すごいよ」

 そんなわたしの言葉に透見はにこりと微笑んだ。


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