【完結】俺が一目惚れをした人は、血の繋がった父親でした。

モカ

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【番外編】緻密な暴露

【小話】 兄様とのお茶会

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兄様が去った後、余韻に浸っている僕に静かに近寄ってきた側近を従えて王太子として与えられた執務室へ戻る。


「戻った」


執務室の扉を開けると、中でまだ仕事をしていた側近たちが機敏な動きで頭を下げ、僕が何を言うでもなく切り上げて執務室を出ていく。

そして最後の一人が恭しく頭を下げた後、扉を閉めたのを確認してから椅子に腰をかけ、天を仰いだ。




「………あ"ー…兄様尊い…………………」




人前ではおよそできないような体勢で脱力し、先程の兄様の言葉を頭の中で反芻する。

兄様の笑みと体温、僕を気遣う言葉。それを一頻り思い出して堪能したあと、椅子に座り直し溜め息を吐いた。


「………兄様は、変わらないなぁ」


歳の割に可愛げのない僕を『弟』として可愛がってくれた、とてもとても優しい兄様。


ーー父上と母上は、まごうことなき政略結婚だ。

物心ついたときにはそうと理解できた両親に『愛』を求めたことはなかったけれど、恐らく『ぬくもり』には飢えていた。

父上と母上以外に許しもなく触れられる者がいないのに、どちらとも僕より優先するべきものがあるが故に、触れ合う機会なんて片手で数えられるほどでしかなかった。

僕が無意識に『ぬくもり』を求めて、でもどうしようも出来なくて、目に映る世界が色褪せ始めた頃、兄様が王城へ来た。


『初めまして、サディア。こんなところにいたら、身体が冷えてしまうよ』


2歳から3歳になったばかりの僕に、初めて声をかけてくれたときもそう言って気遣ってくれた。

それから兄様の名前を教えてくれて、自分が腹違いの兄であること、本当は公式に顔合わせの時間が取られていたけれど、寒空の下で微動だにしない僕が気になって、つい声をかけてしまったと、言ってくれて。

とりあえず部屋に入ろう、と当たり前のように手を引かれた。僕が驚いてされるがままになっていると、兄様は振り返り微笑んで。

そしてそのまま繋がれた掌は、兄様の人柄を表すかのようにとても暖かかった。


「………はぁ、」


…………今思い出しても、兄様が尊すぎてしんどいな。


僕よりも5つ年上だという兄様は、当時から可愛げのない冷めた子供だった僕から見ても、気遣いの出来るとてもかっこいい『兄』になった。

だから、あるとき何気なく聞いた兄様の生い立ちは、正直不憫すぎて言葉が出なかった。

実の父親を知らず、生活の為に幼い頃から働き、それなのに母親は生活苦を理由に兄様を残して自殺。それから王城へ連れてこられて、王族なのだからと相応しい教養と立ち振る舞いを強制された。

周りから『市井育ち』という色眼鏡で見られて、『王族』という自分で望んだわけでもない立場、当時は陰湿な嫌がらせもあったと、数年後に父上から聞いた。

ーーそれでも、兄様は誰を恨むわけでもなく、襲いくるその全てを受け流して真っ直ぐに立っていた。

僕はそんな理不尽に屈しない兄様に、敬愛を抱いた。

世界から色を、生きる意味を失いかけた僕を救ってくださった兄様。きっと、兄様だって自分の置かれた現状に振り回されていただろうに。僕と一緒にいるときは、そんなことを微塵も感じさせずに『兄』でいてくれた。


……僕に唯一、心から寄り添ってくれた人。


だから僕は、兄様が幸せになれるのなら相手は誰だって良かった。それこそ実の父親が相手だと分かったって、男の趣味が悪いな、とは思うが、ただそれだけだった。

2人の想いが通じ合うまで父上が定期的に僕を牽制してくるのは正直に言えば苛ついたし、僕の兄様に対する純粋な想いを父上の欲に塗れた想いと同じ物だと邪推されるのも腹立たしかった。

けど、あの機械仕掛けの陛下と言われていた父上の感情を動かしたのが兄様だと言うのも、納得ではある。


………認めたくはないけど、結局のところ似たもの同士なのだろうと、思う。




ーーコンコンコン、と扉を叩く音に意識が浮上する。許可を出せば、音もなく入ってきた側近の一人が紅茶の入った茶器を目の前の執務机に置いた。


「ありがとう」

「とんでもございません」


僕が落ち着いた頃合いを見計らって紅茶まで持ってくるこの側近とは付き合いが長い。それ故に、僕が兄様第一主義だということにも理解がある。…それは他の側近にも言えることだが。

まぁ、兄様に敵意や侮るような態度と心持ちのあるものを近くに置きたくなくて、徹底的に排除した結果なのだから当然だけれども。


「…ふぅ」


一口飲んで、反射のように息が漏れた。もうすぐ日も沈みだすし、少し身体が冷えていたようで暖かい紅茶が胃に染みるのを感じながらゆっくりと一つ頷くと、すっとお辞儀をした側近が一度部屋を出て他の側近を従えて戻ってくる。

そのまま何も言わずに僕の執務机の前に整列した側近たちを見て、ゆったりと立ち上がった。


「仕事を中断させて悪かったな。今日はもう定時だし、キリの良いところで上がってくれ。

ーーそれと、これはまだ公式には発表されていないが、兄様……テオン殿下が陛下の補佐になる準備が進められている」


さわっと、微かに動揺が走る側近たちを見回し、重々しく頷いて言葉を続ける。


「私が王太子を拝命し、テオン殿下は位を下げる形になったが、補佐のことが公表されれば私はもちろん、テオン殿下の身辺もまた騒がしくなるだろう。陛下が掌握されている王城で、下手なことを考える奴は少ないが…どこにでも馬鹿はいる。お前たちも変なところで足を掬われないよう、更に注意するように。


…それと、いつも言っているがテオン殿下について何かあれば必ず私へ報告を上げること。以上だ」


僕が椅子に座り直せば、側近たちはお辞儀のあと各々の仕事へ戻っていく。特に異論がなさそうな反応に満足して思わず口角が上がる。

兄様の為に、王位がどちらに転がっても問題ないよう周りを固めていて良かった。面倒が少なくて済む。




「………明日のお茶会の茶菓子はどうしようかな…」




明日の至福の時間へと想いを馳せながら、僕も定時で上がれるように仕事を再開した。








***



補足のような何か。


サディアは、テオンと話すととてもテンションが上がってしまうので、テオンとの用事があったあとはテンションを落ち着かせる為の時間が元から予定に組まれています。
(側近が何も指示がないのに動いていたのも、いつものことだからです)

今回はハグして頭をなでなでしてもらったのを、付き合いの長い側近がしっかり把握していました。
その為、いつもよりも少し長めに落ち着くための時間を取ったところ、定時に近くなってしまったのでキリの良いところで上がって良いよと言っています。


本編で、サディアとテオンの関係についての描写はほとんどなかったので、分かりづらかったかもと思ったので補足させてもらいました。蛇足でしたらすいません。

こんなサディアの一人語りも読んでくださり、ありがとうございます。



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