ルーシェ・M・Kの旅立ち

椿木ガラシャ

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討伐編

15

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「ガルはここで待っててくれ!俺が行ってくる」
「ルー!」
 太刀を握り、腕に奔った痛みにガルシアが眉をひそめていると、ルーシェが真っ先に掛けだす。
「ケーシー、すぐに討伐隊に知らせに行ってくれ」
「はっ」
 今日討伐に出ているのは、ルーシェの父・ボルドとSSS級のヴァンディアたちだ。
 村に近い所に野営地をおいていたため、魔獣は襲ってはくるまいと手薄になっていた。
 くっと奥歯を噛みしめると、太刀を背負い、テントをでる。
 ガルシアはルーシェの背を追う。身長差があるため、すぐに追いつくが、ルーシェの視線は先に向けられたままだ。
 野営地の湖岸に駆け付けたガルシアとルーシェの目に映ったのは小型のホワイトドラゴンであった。
 おそらく、まだ成獣になりきる前なのだろう。
 七色の鱗は若ければ若いほど、七色に透き通っているのだ。まだ半透明の部分が多くあり、間違って冬眠から起きてきたものと思われた。古龍であればあるほど、人との戦いを避ける性質がある。人のいる場所にやってきたこのホワイトドラゴンは血気盛んな若い龍ということだ。
 とはいえ、ホワイトドラゴンだ。ガルシアの2倍ほどはある背丈で、鼻息荒く地を踏んでいる。
「シュリ!!」
 ルーシェが叫ぶ。
 湖岸にはシュリアーノの他に、小さな子どもたちが5人ほどいた。みな泣き声を上げている。
 それが若いホワイトドラゴンには癪に障るようだ。口を開けて、ぎゃああと叫んでいる。
「くるな!」
 小さな勇敢な声があたりに響く。
「おれはじきこうていのむすこ・シュリアーノ!おれがおまえをたおす」
 シュリは健気にも木の棒を持ち、子どもたちや使用人たちの前に立ちふさがる。
 幼子の精一杯の虚勢だ。だがそれでも、果敢な姿は立派な狩人だった。
「くっ」
 利き手は負傷している。ならば…左手で、ガルシアの目の前にはルーシェの手に握られたレイピアがあった。
「ルーシェ、借りるぞ!」
 ルーシェが振り向く間もなく、レイピアを奪い取ったガルシアはホワイトドラゴンに向かって素早く投げた。
 硬い鱗を持つドラゴンでも、急所は弱い。逆鱗にガルシアが投げたルーシェのレイピアが突き刺さる。
 ――ギャアアアア!
 台地が震えるほどの咆哮。
 騒ぎを聞きつけたまもなく駆け付けたヴァンディアとキロエ、クロエ姉妹がシュリアーノと他の子どもたちを抱き上げ、素早くホワイトドラゴンの前から下がる。
 不審な動きに、ぎょろりと目玉を向けたホワイトドラゴンであるが、次々に狩人たちが襲い掛かる。
 15分ほど、ホワイトドラゴンと狩人たちの激しい攻防が続く。
 ホワイトドラゴンは激しく首を振り逆鱗に刺さったレイピアが取ろうとするが、深く刺さり抜けようがなかった。
 その隙に、北の辺境伯であるボルドが飛び出た。
「よくも孫を危険な目に合わせたなっ」
 眉間に鈍く重い音をたてて、ハンマーが沈み込む。
 ホワイトドラゴンは白目をむいて、ゆっくりと雪上に倒れ込んだ。
 ――レイピアを投げた後、片膝をついたガルシアの前にシュリアーノが届けられた。
「かあちゃん!こわかったああ!!」
 わあああんと大声で泣くシュリアーノをルーシェは抱きあげる。
「すごいぞ、シュリ!みんなを守ろうと立ちはだかるなんて!」
 母の首に縋り付き、わんわん泣いていたシュリアーノであるが、
「父ちゃんにお礼を言おうな」
 と促され、父を見やる。そこにいたのは、大きくてかっこいいシュリアーノの父であった。
「とうちゃん…あ、ありがとう、とうちゃんっ」
 しゃくり上げながら胸元に抱き着く。その息子を片腕でしっかりと抱き留めた。
「立派だシュリ。それでこそ、俺の息子だ」
 抱き上げたシュリアーノは数日前よりもしっかりとした重みがあった。こうして子は育っていくのだ。
 大事に仕舞ってばかりではいけない。それをガルシアは感じ取った。




∞∞

あっさりとした討伐シーンですみませぬ…
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