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53.納涼床(のうりょうゆか)
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========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
島代子・・・芸者ネットワーク代表。
中町巡査・・・茂原の交代要員だったが、そのまま勤務している巡査。
=====================================
※「夏の兆しが感じられる5月。鴨の河原(鴨川)の水辺には“京の夏の風物詩 ― 納涼床”が早くも始まります。鴨川の納涼床は、歴史も古く、桃山時代に始まると伝えられています。鴨川西岸、二条から五条の間の料亭・旅館など約100店余りが、河原に「床」を組んで営業。
午前9時半。東山署。会議室。
電話を終えた署長は皆に言った。
「鴨川納涼床で遺体発見。外国人や。アメリカ人らしい。チエ。府警から応援要請や。現場は、二条大橋の近くの『川端や』さんや。例の『腐れガイドブック』を持ってる。茂原、中町を連れて行け。」
言うが早いか、チエは駈け出していた。
表に出ると、楠田がエンジンをかけて待機していた。
「楠田。避妊具くらい片づけときや。」
「先輩と違いますわ。」そう言って、ミニパトを発進させた。
「お。楠田も言うようになったな。」茂原は笑った。
「お嬢。夕べは大分降ってたから、迷い込んで足滑らしたかもしれませんね。」
「予断は禁物や。しかし、応援かなあ。ウチらだけのような気がする。」
午前10時。二条。『川端や』。
チエ達が到着すると、機動隊は引き揚げ、鑑識が到着した。
「チエちゃん・・・やなかった、警視。今日は、営業中止した方がよろしいか?」
店の主人とチエは子供の頃から顔なじみだ。
「ゴメンやで。今日一日だけ我慢して。予約客はキャンセルして。」
チエは、主人に拝んだ。
「ほな。明日は大丈夫やな。」主人は、従業員に首で合図した。
「目撃者は?」「さあなあ。夕べ、しもうた時は誰もおらんかったし、侵入しようとしたら、方法は幾らでもあるやろうし。」
「警視。ガイドブックには血は無かったらしいですが、ページに折った後があります。この写真ですね。」
中町は、鑑識から預かったガイドブックを開いて見せた。
「川端さん。この写真、ここですね。」
「ほんに。記念撮影とか広報用に撮影した記憶がないから、お客さんが撮ったんやろうな。あ、ここに署名がある。これ、チエちゃん、カメラマンの署名ちゃうかな?」
「町ヤン。西ノ京銅駝町に写真家協会がある。そこに問い合わせてみて。このガイドブックに写真を提供した人がおるかどうか。」
「了解しました。」
「警視。断定は出来ませんが、心不全かも。揉み合った形跡はないようですし、店のご主人が言われたように、勝手に侵入して、足を滑らしたのかも。あ、済みません。つい癖で。」
「成程。このガイドブックの写真の場所に行ってみたかったか。」
「何も、夕べでのうてもええのに。」と、楠田は言った。
一行は、鑑識に後を任せて、署で報告をした。
午後1時。東山署。会議室。
「写真家協会によると、撮影したのは、北山治氏。当時53歳。撮影後、渡米し、向こうで亡くなっています。遺体で発見されたアメリカ人、トーマス・ウイルソン氏は、ビザが明日で切れる予定だったそうです。宿泊先のおいでやすホテルには、心臓の薬があったので、飲み忘れたか持参し忘れたものと思われます。」
「中町。1人で来てたんか?」副署長の船越が確認をした。
「いえ。奥様と来日されていたようですが、まだホテルにお戻られていません。」
「事件やとしたら、手配した方がええかも。多分、トーマスさんが、あの床に侵入した時、遠くない所にいたはずや。」と、チエは言った。
その時、芸者ネットワークのホットラインが鳴った。
チエが受話器を取ると、「迎えに来て」と代子が言った。
午後3時。取り調べ室。
廊下で、小町、チエ、白鳥、楠田、茂原が待っていると、副署長が出てきた。
「やっぱりお嬢は慧眼やな。奥さんのベッツイさんは、二条大橋から声をかけたらしい。で、濡れた床でトーマスさんはコケた。ベッツイさんはパニックになって、あちこち行って、清水寺から飛び降りようとした所を小雪チャンの仲間の芸者に助けられた。で、芸者ネットワーク経由で、警察に連絡した、ということや。だーれも、犯人はなし。強いて言えば、雨かな。今日も昼から暑いで。」
「ありがとう、小雪ちゃん。」
「ううん。ウチのお客さんが『フリーズ』って叫んだから。『ストップ』は、アカンらしいわ。」
茂原が3人に缶コーヒーを配った。
「しかし、ここのコーヒー、値上げせえへんなあ。」
「それはな、ばらさん。ウチが『圧力』かけたから。」
3人は、黙って頷いた。冗談とは思えないからだった。
―完―
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
島代子・・・芸者ネットワーク代表。
中町巡査・・・茂原の交代要員だったが、そのまま勤務している巡査。
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※「夏の兆しが感じられる5月。鴨の河原(鴨川)の水辺には“京の夏の風物詩 ― 納涼床”が早くも始まります。鴨川の納涼床は、歴史も古く、桃山時代に始まると伝えられています。鴨川西岸、二条から五条の間の料亭・旅館など約100店余りが、河原に「床」を組んで営業。
午前9時半。東山署。会議室。
電話を終えた署長は皆に言った。
「鴨川納涼床で遺体発見。外国人や。アメリカ人らしい。チエ。府警から応援要請や。現場は、二条大橋の近くの『川端や』さんや。例の『腐れガイドブック』を持ってる。茂原、中町を連れて行け。」
言うが早いか、チエは駈け出していた。
表に出ると、楠田がエンジンをかけて待機していた。
「楠田。避妊具くらい片づけときや。」
「先輩と違いますわ。」そう言って、ミニパトを発進させた。
「お。楠田も言うようになったな。」茂原は笑った。
「お嬢。夕べは大分降ってたから、迷い込んで足滑らしたかもしれませんね。」
「予断は禁物や。しかし、応援かなあ。ウチらだけのような気がする。」
午前10時。二条。『川端や』。
チエ達が到着すると、機動隊は引き揚げ、鑑識が到着した。
「チエちゃん・・・やなかった、警視。今日は、営業中止した方がよろしいか?」
店の主人とチエは子供の頃から顔なじみだ。
「ゴメンやで。今日一日だけ我慢して。予約客はキャンセルして。」
チエは、主人に拝んだ。
「ほな。明日は大丈夫やな。」主人は、従業員に首で合図した。
「目撃者は?」「さあなあ。夕べ、しもうた時は誰もおらんかったし、侵入しようとしたら、方法は幾らでもあるやろうし。」
「警視。ガイドブックには血は無かったらしいですが、ページに折った後があります。この写真ですね。」
中町は、鑑識から預かったガイドブックを開いて見せた。
「川端さん。この写真、ここですね。」
「ほんに。記念撮影とか広報用に撮影した記憶がないから、お客さんが撮ったんやろうな。あ、ここに署名がある。これ、チエちゃん、カメラマンの署名ちゃうかな?」
「町ヤン。西ノ京銅駝町に写真家協会がある。そこに問い合わせてみて。このガイドブックに写真を提供した人がおるかどうか。」
「了解しました。」
「警視。断定は出来ませんが、心不全かも。揉み合った形跡はないようですし、店のご主人が言われたように、勝手に侵入して、足を滑らしたのかも。あ、済みません。つい癖で。」
「成程。このガイドブックの写真の場所に行ってみたかったか。」
「何も、夕べでのうてもええのに。」と、楠田は言った。
一行は、鑑識に後を任せて、署で報告をした。
午後1時。東山署。会議室。
「写真家協会によると、撮影したのは、北山治氏。当時53歳。撮影後、渡米し、向こうで亡くなっています。遺体で発見されたアメリカ人、トーマス・ウイルソン氏は、ビザが明日で切れる予定だったそうです。宿泊先のおいでやすホテルには、心臓の薬があったので、飲み忘れたか持参し忘れたものと思われます。」
「中町。1人で来てたんか?」副署長の船越が確認をした。
「いえ。奥様と来日されていたようですが、まだホテルにお戻られていません。」
「事件やとしたら、手配した方がええかも。多分、トーマスさんが、あの床に侵入した時、遠くない所にいたはずや。」と、チエは言った。
その時、芸者ネットワークのホットラインが鳴った。
チエが受話器を取ると、「迎えに来て」と代子が言った。
午後3時。取り調べ室。
廊下で、小町、チエ、白鳥、楠田、茂原が待っていると、副署長が出てきた。
「やっぱりお嬢は慧眼やな。奥さんのベッツイさんは、二条大橋から声をかけたらしい。で、濡れた床でトーマスさんはコケた。ベッツイさんはパニックになって、あちこち行って、清水寺から飛び降りようとした所を小雪チャンの仲間の芸者に助けられた。で、芸者ネットワーク経由で、警察に連絡した、ということや。だーれも、犯人はなし。強いて言えば、雨かな。今日も昼から暑いで。」
「ありがとう、小雪ちゃん。」
「ううん。ウチのお客さんが『フリーズ』って叫んだから。『ストップ』は、アカンらしいわ。」
茂原が3人に缶コーヒーを配った。
「しかし、ここのコーヒー、値上げせえへんなあ。」
「それはな、ばらさん。ウチが『圧力』かけたから。」
3人は、黙って頷いた。冗談とは思えないからだった。
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