暴れん坊小町

クライングフリーマン

文字の大きさ
57 / 67

57.汚された納涼床(のうりょうゆか)

しおりを挟む
 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
 島代子・・・芸者ネットワーク代表。
 中町巡査・・・茂原の交代要員だったが、そのまま勤務している巡査。
 奥山玄馬・・・鑑識課長。
 弓矢哲夫・・・京都府警4課刑事。警部。ひげ面で有名。
 大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。
 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。


 =====================================

 ※鴨川の納涼床は、歴史も古く、桃山時代に始まると伝えられています。鴨川西岸、二条から五条の間の料亭・旅館など約100店余りが、河原に「床」を組んで営業。

 午前9時半。東山署。会議室。
 電話を終えた署長は皆に言った。
「鴨川納涼床で遺体発見。外国人や。アメリカ人らしい。チエ。府警から応援要請や。現場は、二条大橋の近くの『川端や』さんや。例の『腐れガイドブック』を持ってる。茂原、中町を連れて行け。」
 言うが早いか、チエは駈け出していた。
 チエは、「デジャブ」を感じた。
 二条大橋の近くの『川端や』事件は、もう先月に終っているのだ。
 遺体で発見されたアメリカ人、トーマス・ウイルソン氏はガイドブックを元に納涼床に侵入、事故で亡くなったのだ。
 午前10時半。『川端や』
 主人は、しょんぼりしていた。確かに被害者はアメリカ人だった。
 だが、先に到着した機動隊と共に調べていた鑑識課長がチエに言った。
「警視。明らかに殺人です。揉み合った形跡がある。店が閉まった後、被害者と被疑者が侵入、揉み合いになった後凶器を捨てて逃走した。」
「奥山さん、凶器は?」
「警視、それ、見えます?」「視力は2.0や。あ。仰山、刃物の箱が・・・。」
「納涼床は、ゴミ捨て場ちゃうのに。」楠田が思わず呟いた。
「ばらさん、ダイバー要請して。ご主人、昨日の客でアメリカ人は?」
「殆ど、日本人の、毎年来られるお馴染みさんばっかりで。そや。小雪ちゃんのお客さんで、ご一行を案内してはったんです。」
「殆ど?」「殆ど?」
「那珂国人のお客さんで、小雪ちゃんらが帰った後来たお客さんで、『旅の恥はかきすて』かも知れんけど、ゴミ捨てて。それも、お断りしてる『持ち込み』の食べ物で。途中でしたけど、精算して帰って貰いました。予約の時に注意してたのに。それで、掃除して、安心してたら、朝、こんなことに。」
「ご主人、悪いけど、今日の営業は・・・。」
「はい。予約のお客さんは午前だけで、振替して貰いました。午後から雨予報やから、屋内の営業だけですけど・・・やっぱり振替て貰いますわ。」
「お願いします。応援と違ったんかいな。」
「お嬢。ダイバーは午後から作業に入ります。それから、市内の刃物屋ですが、六角署に盗難届が出ています。夜中に強盗に入られています。」と、茂原が言って来た。
「店は?」「飛来屋刃物店です。寺町六角の。そこの強盗犯が来たんですかね?」
「さ、どうかな?暴れん坊小町、心強いな。白鳥が羨ましいな。」と、ひげ面の弓矢は笑った。
「弓矢さん、あんた、マルボウ担当ちゃうん?」
「イジメか?警視殿。夕べ、そのマルボウの取引がある、ってタレコミ来ててね、で、二条署引き揚げさせた。六角署からも資料は送らせてある。」
「ほな、さいなら。ばらさん、楠田、後は任せよう。後は『ひげのオッチャン』が解決するやろ。」
「つれないなあ。白鳥、未来のダーリンから何か言って。」
 遅れて入って来た白鳥が言った。
「父さんの、本部長の命令。二条大橋の向こうのマンション。『送り火』がよく見える、ということで、那珂国人が、日本人の反社の組織を通じて数件買ったのが先月、先々月。この事件に関与しているかも知れないから、四課が『噛む』ことになった。取引は、二条筋者会と那珂国マフィア系のアメリカのマフイア。チエちゃんが必須だよね。」
 白鳥の言葉に、チエは思わず「ダーリンのいけずぅ。」と言い、「ダーリンのいけずぅ。」と、弓矢が真似したので、チエは、向こうずねを蹴った。
「たた。」
 茂原と楠田と白鳥が笑いを堪えた。
 午後2時。
 会議室替わりに借りた、客室に、鑑識課長の奥山が報告に来た。
 飛来屋刃物店のナイフからは、血痕や指紋は検出出来なかったが、一緒に出てきた登山ナイフからは血痕も指紋も検出出来た。刃物の箱は揉み合っている内に川に落ちた。
 襲われたアメリカ人は、咄嗟に和紙に登山ナイフに包んで川に捨てたのだ。
 雨が降り出した。小雨である。
 午後3時。
 チエに、芸者ネットワークにいる小雪から電話があった。
「チエちゃん、何か、私らが帰った後で事件があったみたいで。ごめんやで。今、ねえさんと替わるし。」
 電話は、代子に替わった。
「チエちゃん、はばかりさん。どこでも『いちびり』は、いるもんやな。反社の取引は、午後5時半。二条公園。おきばりやす。」
 チエは、警察官達を付近に待避させ、二条公園石碑に佇む、反社の幹部とアメリカ人数人に近づいた。
 "Would you like to hear an explanation of the stone monument?"  (石碑の説明を聞きたいですか?)
 ぎょっとした、日米の反社10人を、チエは『素手』で倒した。
 雨が本降りになったこともチエに味方した。
 男達や、男達から離れていた部下達は、武器を取り出す暇もなく逮捕された。
 逮捕連行されて行く者達を見送った弓矢が、チエに手を出した。
 握手の要求をしたのだ。
「ウチは、ダーリン以外の男と握手はせえへん。」とチエは言った。本当は、ダーリンと父親以外なのだが、それは言わなかった。
 午後6時。東山署。取り調べ室外。
 大きな声が聞こえるので、離れた場所の運転免許更新受付の市民がビビった。
 日本人の取り調べは府警に任せ、チエはアメリカ人のみを取り調べした。
 その、1時間半に及ぶ取り調べは、やっと終った。
 茂原と中町は慌てて取り調べ室にオムツを持って入った。
「携帯自動翻訳機だけで足りへんから、こんなんも使ってみた。」
 副署長が、「あ、その為やったん?お嬢。」と驚いた。
 チエが持っているのは、アメリカスラング辞典だった。
「チエちゃんは、勉強熱心だから。」と言いながら、白鳥は楠田と副署長とチエに缶コーヒーを渡した。
「まあ、手加減しといたけどな。」と、チエは涼しい声で言った。
 ―完―


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

処理中です...