オペラ、貴婦人と踊る

貴婦人のドレス

貴婦人は、あるひ突然あらわれた。

ねぇ、あんた、なにもわからないの?

よくみてみなさいよ。

わかるはずよ。

ぼくは、みないようにしていた。

いつも、みないようにしていた。

だから、そう言われても、何もわからなかった。

翻ったドレスを、呆然とみていた。

じゃあ、ひとつだけ、本をあげましょうね、

貴婦人は言った。

それはボディランゲージの本だった。

意味がわからなかった。

読んでみたけど、すぐに読みたくなくなった。

ぼくは、返した。

むずかしかったよ。

そう言った。

みたくないんだ、とは言わなかった。

しりたくもない、とも言わなかった。

でも、みんなが知ってるかもしれない、とは思いもしなかった。


貴婦人が笑った。

小首をかしげて、あらそうなの。と言った。


ぼくは、意味がわからなかった。いまも分からない。

でも、彼女は小首をかしげている。

もしも、すべてに意味があったなら、を考え出すと、あたまがおかしくなる。


ぼくは、あたまがおかしいんだ、そう思った。

みんながみんなボディランゲージをつかっているのかもしれないなんてそんなはずはない。

だってそんなのピアノを毎日弾いてるみたいなものだ。

片方だけでも大変なのに。もう片方もバラバラに動かさなきゃなんて。


きっとそんなこと、だれもしてやいない。


貴婦人のせいだ。

貴婦人のせいで、ぼくはこんなことになっている。



だが、椅子は言った。

そんなことはないんだよ

ぼくたちは、君をサポートするために君のもとにやってきた。

君が死ぬまで、ぼくらはいるよ。

それからは、しらない。

でも、君もぼくらに利益をあたえないといけない。

これは真理だからだ。