ちいさな恋

雪戸紬糸

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頭の中に住む

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好きな人がいる。

と、思っていた。

なにもしらないまま、過ごせたなら。

きっと、ぼくは、幸せだった。





ぼくには、とても大切な先生がいた。


でも、ぼくは薄汚れている。

汚れていたのだ、と気づいた。

とてもじゃないけれど、先生の顔をみれない。

先生の声をきけない。

なにもしらないままいられたなら、ずっと幸せでいられたのに。


でも、ぼくは決めた。

知らないことにしよう。と決めた。

たぶん、薄々気づいていたけれど、笑われていることに、間違いに、気づいてしまったけれど、ぼくにはどうすることもできない。

先生に笑われていたのだとしても、ぼくはまだ先生の患者でいたい。

ずっと、ずっと患者でいたい。


そんなぼくの願いはきっと叶わないかもしれない。

でも、そっと祈る。

寒い日の朝に、赤くなった頬を隠しもせず、笑う。

そんな日がまた、ぼくに訪れて。

ちいさな声がいつの日か掻き消されて。


すべてが、なくなって。


消えてしまって。


それでも、彼がそこにいたのだと、分かる。

先生が、ずっと、そこにいたのだと、分かる。

母が、父が、妹が、かつて、ぼくの家族だったこともあったかもしれないと思う。


そんな、毎日。


そんな自分に、またいつか会いたい。

だからぼくは、知らないことにしよう。

いままでどおり、すべてを知らないことにしよう。


ほかにはもう、なにもしようが無いのだから。
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