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犬
しおりを挟むぼくは、この家の。犬だ。
彼の。話をしようと思う。
彼は、ちいさなころ、この家にやってきた。
しらない女につれられて、やってきた。
それは、男の恋人のモノだった。
ぼくからみたら、彼は彼だった。
人間からみたら、彼女かもしれなかった。
それくらい、彼は彼女であり、彼女は彼だった。
ちいさな歪が、大きな渦をよび、ぼくらは翻弄されるまま、毎日を生きた。
それでも、世話をしてくれたのは、彼だけだった。
みんな、そっぽをむいて、だれひとりとして、自主的にぼくに関わろうとはしてくれなかった。
べつに、愛してほしいと思ったわけじゃない。
でも、ぼくには、彼だけだった。
うんこの世話も、おしっこの世話も、してくれた。
ぼくは、彼が幸せではないように必死に祈った。
あまりにも、可愛げがなかったから。
なにもしらない、しにたがりの、くそみたいな女だった。
男のようで女のようで、気味が悪い。
いつも戦っているかのような目をしているのも、気に食わない。
だから、走った。
サンダルを加えて、近所の家にはいって、いっぱい悪戯をした。
でも、忘れるんだ。
あいつはいつも、忘れている。
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