愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

水無瀬 蒼

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小さな幸せ5

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 週末の夕食を陸さんと食べるようになって3週間ほど経ち、会話は相変わらずないけれど、陸さんが仕事に行くときはリビングから見送り、帰ってきたときは電気をつけて、まだまだ外は暑いからエアコンでリビングを涼しくしておく。
 陸さんときちんと顔を見合わせるのは、僕が朝食を食べる前、ちょうど陸さんの出勤時間と週末くらいだ。ほんとは朝ご飯を一緒に食べたいし、夜だって出迎えたいけど、仕事で疲れて帰ってきて僕の顔を見たら余計に疲れちゃうかな、と思って基本的には顔を見せないようにしている。
 週末は陸さんが出かけて、食事がいらないときもあるけれど、基本的に2日のうちのどちらかは僕の作ったものを食べてくれる。これがどれだけ嬉しいかなんて陸さんはわからないだろうな。今の僕の生活は週末を中心に回っている。
 そして今日は待ちに待った土曜日! 陸さんにご飯を食べて貰える日だ。陸さんはお昼頃出かけて行った。それって、もしかしてお昼ご飯を食べにじゃないかと思う。そうだよね。僕が作るのは夕食だけ。朝はいつもと同じようにシリアルとヨーグルトとフルーツを食べているけれど、お昼は僕は作っていないし、陸さんがキッチンに立つことはない。ということは外に食べに行くということだろう。
 うわ、僕ってなんて気が利かないんだろう。そう思うと凹んでしまう。夕食を作れることに浮かれすぎた。後で帰ってきたらお昼も作っていいか訊いてみようか。もしかしたらお昼くらい好きなものを食べたいとかあるかもしれないから、そういうときはひっこめばいいし、食べてくれるのなら喜んで作る。
 とりあえず今日は土曜日だから陸さんに夕食を食べて貰う日だ。今日は何にしようかな。何にするか決めてから足りないものを買いに行かなきゃ。よく、スーパーに行って、物を見てから何を作るか決める主婦の方がいるけど、僕にはまだそれができない。何を作るかを決めてからじゃないとスーパーに行けないのだ。いつかスーパーに行ってから決める、っていうことできるようになるのかな?
 陸さんが出かけた家の中で、ぼんやりとテレビを見ながら頭の中では何を作るか考える。そうだ。今日は麻婆茄子にしよう。それとサラダとして棒々鶏をつけて、ご飯は白米そのままでもいいけれど、なんだか炒飯が食べたくなったので炒飯にすることにした。
 豆板醤はないし、茄子も挽肉もないからスーパーに行こうとお財布を取りに部屋に行こうと立ち上がったところでクラッとめまいがした。しばらくじっとしていると落ち着いたけれど、なんだか体が熱いような気がする。
 そこで思い出す。そうだ、そろそろヒートが来る頃だ。嫌だな、せっかくの週末なのに。今晩の夕食は大丈夫だろう。でも、明日は大丈夫だろうか? この様子だと今晩遅くか明日の朝くらいにヒートが来るだろう。そうしたら週末のお昼も作れるにしたって、明日は作れない気がする。そうしたら陸さんはいつも通り外食するだろうけれど、せっかくの週末なのに陸さんと一緒にいられる時間が取れないのはすっごく辛い。
 でも、僕たちの両親としては僕のヒート時に陸さんに項を噛んで貰って番になることを望まれているんだよね。だけど、番になる云々の前に一緒に食事をするのが今のところ週末の夜だけなんて状態では番になる前にもう少し顔を見る時間を増やさないとダメだと思う。
 番だなんだはまだまだ先の話だ。とりあえず今は、今夜の夕食の材料を買いに行こう。
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