愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

水無瀬 蒼

文字の大きさ
66 / 106

君のことを考える3

しおりを挟む
「今日はクラス会だから夕食はいらない」

 土曜日の夕方、千景にそう伝える。
 お互い干渉ナシでと言ったのは俺だ。だからわざわざ言う必要はないかとも思ったが、なんとなく伝えた。いつも作って貰う夕食が必要ないのもあったし。

「そうですか。わかりました。楽しんで来て下さいね」

 俺が言ったことで千景は小さく微笑むとそう言う。最近は千景のその顔を見るとなんだか落ち着かない気持ちになる。それがなんだかはわからない。

「行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 千景は行ってらっしゃいとは言うが、玄関まで見送りに来たりはしない。帰ってきたときも玄関までは来ない。それが俺と千景の距離だ。
 家を出てタクシーに乗り、クラス会の開かれるホテルへと行く。ホテルへ着き、会場へ行くと既に結構な人数が集まっていて、その中には仲の良かった戸ノ崎や一条の姿もあった。

「陸! こっち」

 戸ノ崎がいち早く俺に気づく。そしてその声で一条がこちらを見る。途中でシャンパンを受け取り、2人のところへと歩いて行く。戸ノ崎は手にワイングラスを、一条はシャンパングラスを手に持っていることから、もう飲んでいることがわかる。

「久しぶりだな。会うのって陸の結婚式以来か」
「そうだな」
「で、どうなの結婚生活は。政略結婚とはいえ上手くやってるのか」
「上手くというのがどういうことかはわからないけど、結婚生活は続いてるよ」

 戸ノ崎の言う”上手く”がどんな状態なのかわからなかったのでそう返した。

「相手の千景くんだっけ、可愛かったじゃん」
「可愛かったな。でも、陸はまだその気になれないのか?」

 2人とも和真のことを知っている。和真は同じ学校ではなかったが、2人に紹介したことがあった。当然、和真が死んだことも言ってある。和真が死んで2人に慰めて貰ったくらいだ。

「和真が死んでまだ1年しか経ってない」
「そうだけど、新しい恋をしたら忘れられるっていうのもあるぞ。それが結婚相手ならいいだろ」
「一条の言う通りだぞ。確かに簡単には忘れられないと思うけど、新しい恋をするのもありだぞ。それが結婚相手なら浮気にもならないしな。それにあの子なら可愛いしいいんじゃないか。それにオメガだろう。番になるのに不服はないだろ」

 千景と新しい恋か。もし俺が千景とそういう仲になったら、きっと母さんや友子さんは喜ぶのだろう。それはきっと番にもなるだろうから。
 そう考えて千景を思い出す。リビングで見送られた。今、なにをしているだろうか。今夜は夕食はいらないと言ったから1人で食べるのだろうか。たまには食べに行けばいい。と言っても、そんなことなにも言わずに出てきたけれど、言わなければそんなこともしないだろう。いや、言ったってしないだろう。最近は外食もしていなかったし、今度どこかに連れて行くか。千景の好きな元町のあのフレンチの店がいいだろうか。

「おい、陸!」
「……え?」

 戸ノ崎の声に我に返る。千景のことを言われ、千景のことを考えていた。

「なに考えてたんだよ。千景くんのこと?」

 にやにやしている戸ノ崎を軽く睨む。一条はシャンパンを飲みながら俺と戸ノ崎の会話を聞いている。

「……」
「え? 正解? なんだ、陸。進んでんじゃん。心配しなくて良かったみたいだな」
「お前が考えているようなのじゃない。最近外食をしてないから、千景の好きな元町に連れて行こうか考えただけだ」

 俺がそう言うと一条は驚いたように目を見開いた。なにか驚かせるようなことは言っただろうか。そう思ったところで担任だった広池先生に声をかけられた。

「久しぶりだな」
「先生。お久しぶりです」
「3人とも飲んでるみたいだな」

 そう言う先生も手にワイングラスを持っている。
 
「さすが一流ホテルだけあって食事も美味いな。食べたか?」
「いや、まだです」
「酒を飲むならしっかり食べろ。酔うぞ」
「はい」

 先生に促され、料理の並んでいるテーブルへと行こうとしたところで先生に言われる。
 
「宮村。結婚おめでとう」
「ありがとうございます」

 結婚式には先生も出席してくれた。そして会うのも結婚式以来だ。

「相手を思いやって温かい家庭を作れ」
「……はい」

 温かい家庭か。千景と作れるのだろうか。その前に俺は千景を思いやっているだろうか? 千景の顔を思い出してそんなことを考えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭

クローゼットは宝箱

織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。 初めてのオメガバースです。 前後編8000文字強のSS。  ◇ ◇ ◇  番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。  美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。  年下わんこアルファ×年上美人オメガ。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

生き急ぐオメガの献身

雨宮里玖
BL
美貌オメガのシノンは、辺境の副将軍ヘリオスのもとに嫁ぐことになった。 実はヘリオスは、昔、番になろうと約束したアルファだ。その約束を果たすべく求婚したのだが、ヘリオスはシノンのことなどまったく相手にしてくれない。 こうなることは最初からわかっていた。 それでもあなたのそばにいさせてほしい。どうせすぐにいなくなる。それまでの間、一緒にいられたら充分だ——。 健気オメガの切ない献身愛ストーリー!

処理中です...