愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

水無瀬 蒼

文字の大きさ
78 / 106

重なる気持ち2

しおりを挟む
「まあでも真面目な話し、和真くんのことはまだ完全には忘れられないと思うよ。まだ1年半くらいだろ。それは無理だよ。でもさ、千景くんのことを好きなのなら打ち明けた方がいいぞ。でなきゃ、いつか愛想つかされるぞ」
「戸ノ崎の言う通りだな。愛想つかされるというより、このままだと余計に距離があいてしまうと思うぞ。それが嫌なら、はっきりさせろ」

 戸ノ崎も一条も気持ちを打ち明けろという。自分でもそうだよなとは思う。でも、干渉なしでと言った人間がどんな顔して告げたらいいのかがわからない。俺が千景なら、からかわれていると思うから。
 だけど言わなくては、いつか失うかもしれない。大体、今日の次に必ず明日があるとは限らないのだ。それは和真のときで痛いほどわかっている。だから千景に伝えろと言うのも当然だ。

「でも、伝えるタイミングが……。まさかいきなり言うわけにもいかないし」
「一緒に住んでて伝えるタイミングがないとか言うなよ?」
「いや、ないよ。そもそもあまり話さないというか……」

 俺がそう言うと戸ノ崎も一条も呆れはてた顔をする。それはそうだろう。一緒に住んでて話さないとか考えられないだろう。それもこれも干渉なしと言ったことが響いてる。
 結婚した当初はこんなことになるとは思わなかったから干渉なしでと簡単に言ったけれど、それが将来自分の首を絞めるとは思わなかった。自分が言った言葉だけどタイムスリップできるのなら、その言葉は言うのはやめろと言うのだけれど、タイムスリップなんてできないから自分で苦しむしかない。

「全く話さないのか?」

 一条に訊かれるので首を横に振る。

「いや。最近は少し話すようにはなったけど、なにもないのにいきなり話しかけるなんてことはできない」
「じゃあ話しかけてもおかしくないことを作ればいい」

 話しかけてもおかしくないことを? どんなことだろう?

「どこかへ出かけるとかいいんじゃないか? どこか食事に行くとか、ドライブに行くのでもいいし」

 一条がアドバイスをくれる。
 出かけるか……。外出先でさらりというのもありか? 食事に行ってその最中というのもありかもしれない。ドライブもいいかもしれないけれど、フラれてしまって気まずくなるのもいやだな。食事ならそんなに長時間じゃないからなんとかなるかもしれないと思うけれど、帰るのは同じ家だ。

「でもさ、和真くんのときはどうしたの。陸が告ったんだろ」

 そうだ。和真には俺から告げた。でも、そんなに悩まなかった。別に一緒に住んでるわけじゃないから、フラれたらもう会わなければいいだけだ。だけど千景は違うから。

「まぁ、千景くんに直接会ったことはないから迂闊には言えないけど、期待が全く持てないっていうことはないと思うけど。週末の食事だって千景くんから言ってくれたんだろ? 嫌なやつにはそんなこと言わないだろ」
「戸ノ崎の言う通りだな」

 そうなのか。それならいいけど。問題は、俺の今までの行いだよな。それが一番の問題だ。どの面さげて好きだなんて言うんだ。干渉なしでというだけでなく、冷たい態度を取ってきた俺だ。

「でも、どの面さげて」
「それはまぁ仕方ないな。自分が悪いんだから」

 一条にぴしゃりと言われ、なにも言い返すことができない。それでも、言うしかないよな。和真みたいに突然失うことだってある。

 「もうすぐシルバーウィークだし、どこかドライブでも行ったっていいんじゃないか?」

 戸ノ崎が助け船を出してくれる。どこか出かけるか。フラれた場合のことを考えると気が重いけど仕方ない。まぁ、告白だなんてことがなくてもいつも家事をやって貰っているから、どこかへ連れて行くのはいいだろう。たまには家事を休ませてあげたい。

「頑張ってみるよ」

 グチグチと言っていたって仕方ない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭

クローゼットは宝箱

織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。 初めてのオメガバースです。 前後編8000文字強のSS。  ◇ ◇ ◇  番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。  美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。  年下わんこアルファ×年上美人オメガ。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

生き急ぐオメガの献身

雨宮里玖
BL
美貌オメガのシノンは、辺境の副将軍ヘリオスのもとに嫁ぐことになった。 実はヘリオスは、昔、番になろうと約束したアルファだ。その約束を果たすべく求婚したのだが、ヘリオスはシノンのことなどまったく相手にしてくれない。 こうなることは最初からわかっていた。 それでもあなたのそばにいさせてほしい。どうせすぐにいなくなる。それまでの間、一緒にいられたら充分だ——。 健気オメガの切ない献身愛ストーリー!

処理中です...