【完結】W婚約破棄された伯爵令嬢はクーデレ王太子から愛されていることに気づかない

雨宮羽那

文字の大きさ
56 / 56
エピローグ

51・伯爵令嬢は王太子に愛されている②(最終話)

しおりを挟む

 陛下の話にエリオットが身を乗り出して入ってきた。
 
「執務補佐官ならば、殿下と自然に時間を過ごすことが出来ますし、ついでに俺もいるのでお二人の関係をサポート出来ますし!」

「……わらわもそう思ってエリオットにサポートを頼んだのだが、こやつ、微妙にぽんこつでなぁ……。結果的にちゃんとくっついたから良いものの」

「すみません! 心当たりしかありません!」
 
 エリオットのサポート、と言われて今までの事を思い返してみれば、確かにそれらしきことをされた覚えがあった。

 中庭で昼寝をするウィリアム様を探してきてほしいと、エリオットから頼まれたこと。
 フェルゼン領の視察でエリオットが一人だけはぐれたこと。
 エリオットの代わりに私がウィリアム様の公務・オペラ鑑賞へ同行したこと。
 ことある事に相談に乗ってくれたこと。

 どこまでがエリオットの意図的な行動なのか私には判別できない。だが、思い当たるものはどれもウィリアム様と私の距離が近づくきっかけとなったものだった。

 ――それにしても、私の周りの人たちが、こんなにも色々画策して動いていたとは知らなかったわ。
 
 陛下に平謝りするエリオットを眺めながら、私は今まで疑問に思っていたことが一気に解決していくのを感じていた。

 以前疑問に思ったことはあったのだ。
 未婚の王族には、色恋沙汰に発展させない為に基本的には同性の執務補佐官がつけられる。それなのになぜ私が――と。

 ――それがまさか、意図的だったとわね……。

 はなからくっつくける目的で執務補佐官に任命されていたのなら、もう納得でしかない。
 
「まぁ、そういうわけだ。だから、お前は胸を張ってウィリアムの隣に立ってくれ。お前に文句を言うものがいれば、わらわが受けて立とう」

「……はい。ありがとうございます、陛下」

 私はなんと心強い言葉を陛下から頂いたのだろう。ずっと私が抱いていた、ウィリアム様の隣にいていいのか、という不安が溶けて消えていく。

「それから、二人きりの時はわらわのことはお義母かあ様と呼ぶように! わらわは娘も欲しかったのだよ!」

 ――ひええええ……!

 陛下は嬉しそうに私の片手を握った。満面の笑みでぎゅうと握りしめてくる。憧れの陛下からのありがたいお言葉に、嬉しいやら戸惑うやらで私は困ってしまった。
 そのとき、今まで黙って話を聞いていたウィリアム様が席を立ち上がった。

「ソフィ。母さんの相手は適当でも大丈夫だから」

「え、そういうわけには……」

 陛下は一国の主で、将来的に私の義理の母になる方だ。適当に相手をするわけにはいかないだろう。
 
「行こう。ここにいたら母さんのおもちゃにされる」

 しかし、ウィリアム様は私の手を引いて立ち上がらせた。陛下に握られていた片手はするりと解けていく。

「ふふふ。いいよ、いっておいで。またなソフィリア」

「殿下ー! 暗くならないうちに戻ってきてくださいねー!」

 そんな陛下とエリオットに見送られ、私とウィリアム様は庭園から移動することになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ウィリアム様は黙ったまま、私の手を引いて城内を歩いていく。

 ――もしかして中庭に行こうとしているのかしら。
 
 進んでいるのは、私にとってすでに馴染みとなった道だった。大広間へ向かって、廊下を真っ直ぐに進む道。

 私の予想した通り中庭へたどり着くと、ウィリアム様はいつもの大木の下へ座り込んだ。
 大木の葉はすっかり落ちて、秋の終わりを告げようとしている。
 私はウィリアム様の隣にそっと腰を下ろした。
  
「ごめん、無理やり連れ出して」

「いいえ。大丈夫ですよ」

「あのままあそこにいたら、母さんにからかわれる気がして……」

 ――まぁ、確かに……。

 陛下は息子であるウィリアム様の成長が嬉しいのか、やたらとご機嫌だった。
 あのままだと、延々と私たちのことを話のネタにしてくる可能性は高かっただろう。

「……でも、嬉しかったですよ。ウィリアム様がずっと前から私のことを気にかけてくれていたってわかって!」

 すべての始まりは、ウィリアム様が私のことを気にかけてくれたからだった。
 
 あの日、ウィリアム様が私のことを気にかけ無かったら。エリオットや陛下、父の協力がなかったら。
 私とウィリアム様の今の関係は、きっとありえないものだっただろう。

「ソフィ……」
 
 私が素直な気持ちを伝えると、ウィリアム様は一瞬目を見開いた。それから幸せそうに瞳を細める。
 
「ここで君と初めて会ったあの日、俺は君の瞳から目が離せなくなったんだ」

 ウィリアム様は愛おしげな仕草で私の頬へ触れた。そのままそっと顔を引き寄せられる。
 額が触れ合う距離でウィリアム様に見つめられて、私の身体が一気に熱を持つ。

 ――……やっぱり、綺麗。

 私だって、ウィリアム様と同じだ。
 私もウィリアム様と初めて会ったあの日、澄んだセレストブルーの瞳から目を逸らせなくなったのだ。

 ――私もきっとあの日から、ウィリアム様に惹かれていたんだわ。
 
「あの日からずっと、俺は君を愛している」

「……私も、お慕いしております。ウィリアム様」

 優しい口付けを落としてくるウィリアム様の体を抱きしめたくて、私は彼に手を伸ばした。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!

ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」 「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」 王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。 しかし、それは「契約終了」の合図だった。 実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。 彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、 「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。 王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。 さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、 「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。 「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」 痛快すぎる契約婚約劇、開幕!

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...