28 / 215
第7章 元囚人と霊能者。
1 元囚人と霊能者。
しおりを挟む
「神宮寺さんは、神様とか竜って見えるんでしょうか」
《残念ながら、見えないんです、また違う世界に居るんだそうですよ》
「あぁ、現世と幽世が有るんですしね、成程。コレって、大丈夫ですかね?」
今回、共作だったんです。
幽霊画の絵師で有り、女医先生の旦那さんでも有る、緊縛絵師の小夢 怜子先生と恋愛作家先生の共作。
竜の太い胴体に捻り潰されそうになりながらも、顔が半分隠れつつも悦んでいる表情の女性の絵を、恋愛小説の後に掲載したのですが。
少し、不安になってしまって。
《気に入る龍神様も、気に入らない龍神様も居ると思いますし、嘗て人だった神様もいらっしゃいますし。多分、大丈夫だと思いますけど、ご心配なら近くの龍神様にお参りに行ってみては?》
「あぁ、ですよね、そうしてみますね。事後ですけど」
《珍しいですね、事前にお参りに行きそうなものですけど》
「忙しくて」
《案内しましょうか、龍神様のお祀りされている神社》
「お願いします」
そして案内の道すがら、どうして僕が忙しかったのか、と。
《囚人の遺品、ですか》
「はぃ、ご本人のご事情が書かれた原稿が、届きまして」
《死刑囚、なんですか?》
「いえ、ご病気で、お若い方だと聞いています」
《あぁ、全く面識が無い方だったんですね》
「はい。正直、亡くなられたからこそ、出せるんです。奇抜さは、そこまで無いですから」
《では、何が出版になる理由に》
「悪しき見本です、そう、出して欲しいと。正式な遺言付きで」
《ですけど、出版するか否かは》
「会長が許可したので、はい」
《しかも担当は、君に》
「はい」
僕は、あまり酷い内容のモノは好みません。
その酷い、と言うのは、あまりに理不尽で不条理なだけの物語や事実。
何の救いも見い出せない、ただ理不尽と不条理だけが有る、酷な世界。
《それで、君が救いとなる、ワケですね》
「コレが、本当に救いとなるのか。僕は、多分、確認したくないのだと思います」
教訓とせず、今日も平然と人を傷付ける者、裏切ったり哀しませたりする者。
そんな人間達が、出版後も減らない、そうした事実が存在するのも嫌なんです。
《成程、どうして君が怪談実話の担当なのか分かった気がします、何処かに必ず救いが有りますもんね》
「会長が決めた約束事なんです、全く救いが無い物は、この雑誌には載せるな。そう決まりは多くは無いんですが、はい」
《僕にも読ませて貰えますか?きっと修正で悩んでいるんですよね?》
「お願いします」
《貸し1つですね》
お参り後、共に出版社に赴き、件の原稿を読ませて貰ったが。
林檎君を凹ませるには、十分だった。
家族が事件に巻き込まれ被害者家族となった筈の一家は、ガセネタにより加害者を煽ったのかも知れない、とされ取材合戦に巻き込まれた。
件の出版社は3ヶ月の発行停止処分となり、事態を重く受け止めた警察は、風説の流布でガセネタを提供した者を逮捕。
それは、彼女の親友だった。
取材に来た記者に、何か彼女にも悪い部分が有ったのでは無いのか、そう尋ねられ捻り出しただけだと供述。
未成年の為、保護観察処分、以降は関連事項の掲載禁止措置が取られた。
そうして数年が経ち。
彼女は、当時の恋人と偶然の再会を果たしてしまう。
『Y子』
「T君」
『あ、あの時はごめん、親に止められていたんだ』
「そう、よね、騒動が騒動だったから」
『出来ればちゃんと話し合いたい、コレから仕事なんだけれど。連絡先を、貰えないだろうか』
「はい」
彼女は連絡先を渡し、それから良く会う様になり。
『もう少し、長く一緒に居たい』
「でも、居るでしょう、恋人が」
『一体、何の事なのか』
「警察の方が買い出しに同行してくれて、見たの、M屋の前で抱き合っている所を」
彼女は彼を責めている様で、顔を見れなかった、と。
『いや、アレは抱き着かれただけなんだ、なのに襲われたと言うと脅されて』
「なら今、お付き合いしてる方って」
『居ないよ、ずっと君の事を探してたんだ』
一家は騒動の時期、警察からの保護を受けていた。
そして、その代償に知り合いとの連絡を絶つ事が義務付けられていた、何処から漏れるか分からないからと。
「本当に?」
『君こそ、俺に何も連絡しなかったのは、その女の事を怒ってなのか?』
「もう、捨てられたのかと」
『違うんだ、本当に許してくれ、今でも君を好いたままなんだ』
そして彼女は、婚前交渉を行ってしまった。
「あの、改めてご両親に」
『もう少しだけ待ってくれないか、青二才だからと、また前の様に邪魔されたくないんだ』
「うん、分かったわ」
私は、待った。
彼の家で、押し入れの天井から入れる屋根裏で。
段々と素っ気無くなり、会える日も減り。
彼の浮気を疑った私は、隠れて待った。
『あぁ、あの女ね。久し振りに会ったら意外と可愛らしくなって、まぁ他の女の事も見られていたらしいんだけど、何とか誤魔化せたからさ』
《で、今でも食って遊んでるのか、悪い男だなぁ》
『まぁ、親に反対されたと言えば引き下がるだろうからね。今でも事件の事を気にしているんだ、もう、世間はとっくに忘れているのに。ずっと忘れられなかった、と、全く粘着質な女で困るよ』
《そんなに具合いが良いのかよ》
『いや、そうでも、試すかい?』
《おぉ、良いね、お前が捨てたのを拾うかな》
『面倒は嫌なんでね、宜しく、悪友』
彼は私の事をずっと思っていたワケでは無い、私が見た女は、結局は彼の遊び相手。
私の光はそこで失われました。
だから壊したんです、私と同じ様に壊そうと思ったんです。
でも、私は念願を果たせなかった。
《地獄って言うのは、アンタが最も嫌だった事を繰り返される場所らしい。それでも良いなら、ソイツに手渡してやる》
どうせ彼も地獄行き、宜しくお願いします。
《分かった》
僕がお茶を淹れ、戻って来る寸前。
神宮寺さんの声が。
誰か部屋を訪ねて来たのだろうかと、戸を叩いてから、部屋に入ると。
「神宮寺さん、今何か仰って」
《彼女がね、この原稿に宿っていたんですけど、もう解放されました》
「そう、なんですね」
《ただ、頼み事をされてしまったんですよ、コレを知り合いに渡して欲しいって。この、件の彼に、見せて欲しいんだそうです》
彼女は天井裏に潜み、彼らが眠り込んだ後、1人を殺害。
もう1人は逃げ無事なんですが。
「到底、悔いる様な方では無いですよ、既にご結婚されてますから」
《もしかすれば、結婚をし、子を成すとなった時に悔いてくれるかも知れませんし。お願いします、例え読まなくても、彼が手に取るだけで十分ですから》
「分かりました」
そして弁護士や会長に相談し。
出版日当日、僕は神宮寺さんと共に、嘗て彼女の恋人だった者の家へと向かいました。
《残念ながら、見えないんです、また違う世界に居るんだそうですよ》
「あぁ、現世と幽世が有るんですしね、成程。コレって、大丈夫ですかね?」
今回、共作だったんです。
幽霊画の絵師で有り、女医先生の旦那さんでも有る、緊縛絵師の小夢 怜子先生と恋愛作家先生の共作。
竜の太い胴体に捻り潰されそうになりながらも、顔が半分隠れつつも悦んでいる表情の女性の絵を、恋愛小説の後に掲載したのですが。
少し、不安になってしまって。
《気に入る龍神様も、気に入らない龍神様も居ると思いますし、嘗て人だった神様もいらっしゃいますし。多分、大丈夫だと思いますけど、ご心配なら近くの龍神様にお参りに行ってみては?》
「あぁ、ですよね、そうしてみますね。事後ですけど」
《珍しいですね、事前にお参りに行きそうなものですけど》
「忙しくて」
《案内しましょうか、龍神様のお祀りされている神社》
「お願いします」
そして案内の道すがら、どうして僕が忙しかったのか、と。
《囚人の遺品、ですか》
「はぃ、ご本人のご事情が書かれた原稿が、届きまして」
《死刑囚、なんですか?》
「いえ、ご病気で、お若い方だと聞いています」
《あぁ、全く面識が無い方だったんですね》
「はい。正直、亡くなられたからこそ、出せるんです。奇抜さは、そこまで無いですから」
《では、何が出版になる理由に》
「悪しき見本です、そう、出して欲しいと。正式な遺言付きで」
《ですけど、出版するか否かは》
「会長が許可したので、はい」
《しかも担当は、君に》
「はい」
僕は、あまり酷い内容のモノは好みません。
その酷い、と言うのは、あまりに理不尽で不条理なだけの物語や事実。
何の救いも見い出せない、ただ理不尽と不条理だけが有る、酷な世界。
《それで、君が救いとなる、ワケですね》
「コレが、本当に救いとなるのか。僕は、多分、確認したくないのだと思います」
教訓とせず、今日も平然と人を傷付ける者、裏切ったり哀しませたりする者。
そんな人間達が、出版後も減らない、そうした事実が存在するのも嫌なんです。
《成程、どうして君が怪談実話の担当なのか分かった気がします、何処かに必ず救いが有りますもんね》
「会長が決めた約束事なんです、全く救いが無い物は、この雑誌には載せるな。そう決まりは多くは無いんですが、はい」
《僕にも読ませて貰えますか?きっと修正で悩んでいるんですよね?》
「お願いします」
《貸し1つですね》
お参り後、共に出版社に赴き、件の原稿を読ませて貰ったが。
林檎君を凹ませるには、十分だった。
家族が事件に巻き込まれ被害者家族となった筈の一家は、ガセネタにより加害者を煽ったのかも知れない、とされ取材合戦に巻き込まれた。
件の出版社は3ヶ月の発行停止処分となり、事態を重く受け止めた警察は、風説の流布でガセネタを提供した者を逮捕。
それは、彼女の親友だった。
取材に来た記者に、何か彼女にも悪い部分が有ったのでは無いのか、そう尋ねられ捻り出しただけだと供述。
未成年の為、保護観察処分、以降は関連事項の掲載禁止措置が取られた。
そうして数年が経ち。
彼女は、当時の恋人と偶然の再会を果たしてしまう。
『Y子』
「T君」
『あ、あの時はごめん、親に止められていたんだ』
「そう、よね、騒動が騒動だったから」
『出来ればちゃんと話し合いたい、コレから仕事なんだけれど。連絡先を、貰えないだろうか』
「はい」
彼女は連絡先を渡し、それから良く会う様になり。
『もう少し、長く一緒に居たい』
「でも、居るでしょう、恋人が」
『一体、何の事なのか』
「警察の方が買い出しに同行してくれて、見たの、M屋の前で抱き合っている所を」
彼女は彼を責めている様で、顔を見れなかった、と。
『いや、アレは抱き着かれただけなんだ、なのに襲われたと言うと脅されて』
「なら今、お付き合いしてる方って」
『居ないよ、ずっと君の事を探してたんだ』
一家は騒動の時期、警察からの保護を受けていた。
そして、その代償に知り合いとの連絡を絶つ事が義務付けられていた、何処から漏れるか分からないからと。
「本当に?」
『君こそ、俺に何も連絡しなかったのは、その女の事を怒ってなのか?』
「もう、捨てられたのかと」
『違うんだ、本当に許してくれ、今でも君を好いたままなんだ』
そして彼女は、婚前交渉を行ってしまった。
「あの、改めてご両親に」
『もう少しだけ待ってくれないか、青二才だからと、また前の様に邪魔されたくないんだ』
「うん、分かったわ」
私は、待った。
彼の家で、押し入れの天井から入れる屋根裏で。
段々と素っ気無くなり、会える日も減り。
彼の浮気を疑った私は、隠れて待った。
『あぁ、あの女ね。久し振りに会ったら意外と可愛らしくなって、まぁ他の女の事も見られていたらしいんだけど、何とか誤魔化せたからさ』
《で、今でも食って遊んでるのか、悪い男だなぁ》
『まぁ、親に反対されたと言えば引き下がるだろうからね。今でも事件の事を気にしているんだ、もう、世間はとっくに忘れているのに。ずっと忘れられなかった、と、全く粘着質な女で困るよ』
《そんなに具合いが良いのかよ》
『いや、そうでも、試すかい?』
《おぉ、良いね、お前が捨てたのを拾うかな》
『面倒は嫌なんでね、宜しく、悪友』
彼は私の事をずっと思っていたワケでは無い、私が見た女は、結局は彼の遊び相手。
私の光はそこで失われました。
だから壊したんです、私と同じ様に壊そうと思ったんです。
でも、私は念願を果たせなかった。
《地獄って言うのは、アンタが最も嫌だった事を繰り返される場所らしい。それでも良いなら、ソイツに手渡してやる》
どうせ彼も地獄行き、宜しくお願いします。
《分かった》
僕がお茶を淹れ、戻って来る寸前。
神宮寺さんの声が。
誰か部屋を訪ねて来たのだろうかと、戸を叩いてから、部屋に入ると。
「神宮寺さん、今何か仰って」
《彼女がね、この原稿に宿っていたんですけど、もう解放されました》
「そう、なんですね」
《ただ、頼み事をされてしまったんですよ、コレを知り合いに渡して欲しいって。この、件の彼に、見せて欲しいんだそうです》
彼女は天井裏に潜み、彼らが眠り込んだ後、1人を殺害。
もう1人は逃げ無事なんですが。
「到底、悔いる様な方では無いですよ、既にご結婚されてますから」
《もしかすれば、結婚をし、子を成すとなった時に悔いてくれるかも知れませんし。お願いします、例え読まなくても、彼が手に取るだけで十分ですから》
「分かりました」
そして弁護士や会長に相談し。
出版日当日、僕は神宮寺さんと共に、嘗て彼女の恋人だった者の家へと向かいました。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる