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第19章 投書と作家と担当。
3 姉弟の霊。
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恩師から聞いた話です。
寺の参道に、姉弟の霊が居た。
けれど、お互いを認識出来ず、お互いを探している状態だったらしい。
可哀想に思った恩師は、先ずは寺に向かい、事情を聞く事に。
《あぁ、可哀想に》
泣き出した尼によると、もう何十年も前の事。
片方は婚約を断られ、もう片方も、双方共に自死したらしい。
『ご供養はやってらっしゃるかとは思いますが』
《はい、ですが、どうした因縁か騒動を起こした女は、生きておりますから》
『では、ご両親は』
《はい、亡くなっており、片方も自死なのです》
罪の意識からの自死だろう。
尼はそう言いながらも、僅かに渋い顔をしたらしい。
『あぁ、恨みをぶつける場所を無くしてしまったんですね』
《せめて、子の憂さ晴らしの為にも、もう少し生きていれば良いものをと》
そうして母親は、長女、夫、長男を亡くし。
耐えていたものの、早くに亡くなる事に。
『では、皆さんも、さぞお辛かったでしょう』
《はい、ですが、一体、どうすれば良かったのかと》
その尼は、長女の婚約する筈だった者の、御母堂だった。
『そうでしたか』
《あの子も、結局は仏門へと入りました》
そして厳しい修行ばかりを行い、寺を破門になると、次は修験者へ。
それ以来、音沙汰は無いと。
『では、旦那様は』
《甥に継がせ、更に山奥へ、元気にしているそうです》
『お辛かったでしょう、見えずとも、感じてらっしゃったでしょう』
《ぅうっ》
周囲からは責め立てられ、けれど誰にも真相を言えず、ずっと苦しんでいた。
だが、考えてもみて欲しい。
真相を言ってしまっては、四方八方に傷が付く。
その尼は、ずっと、抱え続けていた。
最も悪くないだろう者が、最も苦しんでいる。
『私は歩き巫女の新米ですが、どうかお手伝いをさせて下さい』
《はい、どうか、宜しくお願い致します》
何故、どうして、見える者が供養出来るのか。
何故、どうして、見えぬ者には簡単に払えないのか。
コレは非常に簡単な事。
分かっているかどうか、だ。
見えずとも、感じ取れていたなら、恨みが有るかどうかが分かる。
だが、その程度では何故、どう恨んでいるかまでは分からない。
『では、始める前に1つ』
《はい、なんなりと》
『この子達は、アナタを全く恨んではいませんよ』
《ぁあ、ああっ》
正しく理解する事が、先ずは1つ。
『この子達は良い子だったのでしょう』
《っはいっ》
『罪の意識が有るんです、死んでしまったものの、やはり申し訳無い事をしてしまった。そう後悔しているんです』
《ぅう、はぃ》
『自分は地獄行きだ、けれどもせめて姉は、弟は。そうやって互いを思いやっていても、自死した事が許せない。互いが互いに、自死した事を許せないんですよ』
《ぅうっ》
『アナタも、許しましょう、アナタを。子供達が責めているのは、親、両親です』
《ですが、私が》
『アナタも、この子達も、恨む先を間違えている。唆された方も確かに悪い、けれど唆し、剰え脅した者は誰か』
《あの女は、確かに悪い女です、ですが》
『悪しき育ちでも、真っ直ぐ育つ子は育ちます。血筋だけでも育ちだけでも無い、それら全てが悪かった、そう開き直る者は善ですか』
《いいえ、ですが》
『罪を憎んで人を憎まず、コレはあくまでも裁く立場からの事、公の場で裁く場合のみの事なのですよ』
《ですが憎しみは》
『何も生まない。そう思い、捨てるべき事、捨てれる様に目指すべき。ですが、それは生者の理です、死者が恨む事は苦しみに嗚咽する事と同義。だからこそ、恨まれぬように生きるべき、そうは思いませんか』
《もう、恨むしか無いのですか》
『息を吸ったまま、吐かずにいられますか』
《いいえ、ですが》
『その後を、アナタに頼みます、あの子達が地獄から早く抜け出せる様に』
《はい》
そうして恩師は姉弟の波長を合わせ、その先で余る力を、件の女へと向けた。
直ぐに手応えが有ったらしい。
そう直ぐに結果が出る事は滅多に無いらしいんだが、何が味方したのか、その直ぐ後に亡くなったらしい。
『はい、終わりました』
《あの子達は》
『再会を喜んでいますが、もうじき、また離れ離れになるでしょう』
《せめて、どうにか》
『願ってやって下さい、もう、この子達を思う人は僅かですから』
《はい、はい》
どうしようも無くなっている霊の大半は、何枚もの分厚い覆いが被さり。
ただ覆いから抜け出したいと思うように、ただ憎らしい、悲しい辛いとの思いで手一杯になっている。
そうした膜を剥がし、1つの方向へ向け、思いを遂げさせる。
正しい恨みなら、閻魔様だって何も思わない筈だ。
その恨みを買った上での寿命を把握している筈、殺される事も含めた寿命の筈なんだからな。
それに、良く考えて欲しい。
逆恨みならまだしも、恨んで殺されたくないなら、そんな事をしなきゃ良い。
『じゃあ、もう行くよ、達者でね』
《はい、本当に、ありがとうございました》
以前に掲載されていた事に関し、お手紙を出させて頂きました。
彼女の婚約する筈だった者です。
彼女は、最後に会いに来てくれました。
親を説得出来無かった私を、支えてやれなかった私を、最初から許していたと。
夢枕に現れただけですが。
親も、私自身も、許そうと思います。
あの人を救って下さり、本当にありがとうございました。
『コレで5通目、か』
あの物語の掲載後、こうしたお手紙が全国から来ており。
正直、この事が1番堪えます。
こうした事が、方々で起きているのかと思うと。
《林檎君、コレは偽物だよ》
「神宮寺さん、分かるんですか?」
《この字は、前にも見た事が有る気がするんだ。特に、ココとココ》
『あぁ、言われてみれば』
《確かにそうですね》
「神霊での事では無いんですね」
《どうだろうね、もしかすれば天神様のお陰かも知れない。そう思うと、くず餅が食べたくなってきた様な》
《あ、今の時期はかき氷が有るそうですよ》
『あぁ、1度食ったけれど美味かったよ、先生にお渡しするついでに行ってきなさい』
「はい、ありがとうございます」
理不尽で不条理は嫌いです。
天網恢恢で有って欲しいですし、出来れば天罰覿面で、信賞必罰の世で有って欲しい。
それこそが秩序と平穏を齎す。
僕はそう思っているんですが。
そうであっては困るのか、僕の様に考える者を批難する、そうした方が居るのも事実で。
《くず餅氷が食えると言うのに、君は浮かれていないね》
「すみません、僕は当たり前の事を考えている筈なのに、それらを批難する方が居て」
《脛に傷を持つか、偉ぶりたいか、馬鹿で阿呆か。浮遊霊の事を教えよう、何故そこらに居るか》
「あぁ、何故地縛霊でも何でも無いのか、ですか?」
《そうした者が、大概はそうなると言う事だよ》
「本当に言ってます?」
《どう証明すれば信じるだろうか》
「やっぱり、僕に見せるしか無いかと」
《あの少年は、君を土台にしているせいで、そう沈んでしまうんだろうか》
「そうなんでしょうか。ただ僕に、もっと何か出来無いのか、と」
《しているじゃないか、悪しき見本を知らしめ、良き見本で夢を与える。僕がする事より遥かに多くへ影響を与え、道を示しているじゃないか》
「でも、それが、正しく伝わらない事が悔しくて」
《それが叶うなら、事件はもっと少ない筈、だろう》
「確かに、ですけど」
《そも分野が違う、悪人を捕まえるのは警察だ、そして悪人を突き出すのは目撃した一市民。君は中庸であり続け、悪人を見付けたら突き出す、当たり前の事を当たり前に続ける事が1番だと思うよ》
「今は、何でも良いので突き出したいです」
《君の周りは運が良いからね、それも含め感謝し、同じ日々を生きるしか無い》
「あ、こうしてでっち上げが出来るんですね、成程」
《そうだね、余った正義感が歪み、果ては発露する》
「それでも余り、でっち上げか、批難か」
《そうそう》
「成程」
《あぁ、来た来た、凄いねコレは》
「ですねぇ、頂きましょう」
《では、頂きます》
寺の参道に、姉弟の霊が居た。
けれど、お互いを認識出来ず、お互いを探している状態だったらしい。
可哀想に思った恩師は、先ずは寺に向かい、事情を聞く事に。
《あぁ、可哀想に》
泣き出した尼によると、もう何十年も前の事。
片方は婚約を断られ、もう片方も、双方共に自死したらしい。
『ご供養はやってらっしゃるかとは思いますが』
《はい、ですが、どうした因縁か騒動を起こした女は、生きておりますから》
『では、ご両親は』
《はい、亡くなっており、片方も自死なのです》
罪の意識からの自死だろう。
尼はそう言いながらも、僅かに渋い顔をしたらしい。
『あぁ、恨みをぶつける場所を無くしてしまったんですね』
《せめて、子の憂さ晴らしの為にも、もう少し生きていれば良いものをと》
そうして母親は、長女、夫、長男を亡くし。
耐えていたものの、早くに亡くなる事に。
『では、皆さんも、さぞお辛かったでしょう』
《はい、ですが、一体、どうすれば良かったのかと》
その尼は、長女の婚約する筈だった者の、御母堂だった。
『そうでしたか』
《あの子も、結局は仏門へと入りました》
そして厳しい修行ばかりを行い、寺を破門になると、次は修験者へ。
それ以来、音沙汰は無いと。
『では、旦那様は』
《甥に継がせ、更に山奥へ、元気にしているそうです》
『お辛かったでしょう、見えずとも、感じてらっしゃったでしょう』
《ぅうっ》
周囲からは責め立てられ、けれど誰にも真相を言えず、ずっと苦しんでいた。
だが、考えてもみて欲しい。
真相を言ってしまっては、四方八方に傷が付く。
その尼は、ずっと、抱え続けていた。
最も悪くないだろう者が、最も苦しんでいる。
『私は歩き巫女の新米ですが、どうかお手伝いをさせて下さい』
《はい、どうか、宜しくお願い致します》
何故、どうして、見える者が供養出来るのか。
何故、どうして、見えぬ者には簡単に払えないのか。
コレは非常に簡単な事。
分かっているかどうか、だ。
見えずとも、感じ取れていたなら、恨みが有るかどうかが分かる。
だが、その程度では何故、どう恨んでいるかまでは分からない。
『では、始める前に1つ』
《はい、なんなりと》
『この子達は、アナタを全く恨んではいませんよ』
《ぁあ、ああっ》
正しく理解する事が、先ずは1つ。
『この子達は良い子だったのでしょう』
《っはいっ》
『罪の意識が有るんです、死んでしまったものの、やはり申し訳無い事をしてしまった。そう後悔しているんです』
《ぅう、はぃ》
『自分は地獄行きだ、けれどもせめて姉は、弟は。そうやって互いを思いやっていても、自死した事が許せない。互いが互いに、自死した事を許せないんですよ』
《ぅうっ》
『アナタも、許しましょう、アナタを。子供達が責めているのは、親、両親です』
《ですが、私が》
『アナタも、この子達も、恨む先を間違えている。唆された方も確かに悪い、けれど唆し、剰え脅した者は誰か』
《あの女は、確かに悪い女です、ですが》
『悪しき育ちでも、真っ直ぐ育つ子は育ちます。血筋だけでも育ちだけでも無い、それら全てが悪かった、そう開き直る者は善ですか』
《いいえ、ですが》
『罪を憎んで人を憎まず、コレはあくまでも裁く立場からの事、公の場で裁く場合のみの事なのですよ』
《ですが憎しみは》
『何も生まない。そう思い、捨てるべき事、捨てれる様に目指すべき。ですが、それは生者の理です、死者が恨む事は苦しみに嗚咽する事と同義。だからこそ、恨まれぬように生きるべき、そうは思いませんか』
《もう、恨むしか無いのですか》
『息を吸ったまま、吐かずにいられますか』
《いいえ、ですが》
『その後を、アナタに頼みます、あの子達が地獄から早く抜け出せる様に』
《はい》
そうして恩師は姉弟の波長を合わせ、その先で余る力を、件の女へと向けた。
直ぐに手応えが有ったらしい。
そう直ぐに結果が出る事は滅多に無いらしいんだが、何が味方したのか、その直ぐ後に亡くなったらしい。
『はい、終わりました』
《あの子達は》
『再会を喜んでいますが、もうじき、また離れ離れになるでしょう』
《せめて、どうにか》
『願ってやって下さい、もう、この子達を思う人は僅かですから』
《はい、はい》
どうしようも無くなっている霊の大半は、何枚もの分厚い覆いが被さり。
ただ覆いから抜け出したいと思うように、ただ憎らしい、悲しい辛いとの思いで手一杯になっている。
そうした膜を剥がし、1つの方向へ向け、思いを遂げさせる。
正しい恨みなら、閻魔様だって何も思わない筈だ。
その恨みを買った上での寿命を把握している筈、殺される事も含めた寿命の筈なんだからな。
それに、良く考えて欲しい。
逆恨みならまだしも、恨んで殺されたくないなら、そんな事をしなきゃ良い。
『じゃあ、もう行くよ、達者でね』
《はい、本当に、ありがとうございました》
以前に掲載されていた事に関し、お手紙を出させて頂きました。
彼女の婚約する筈だった者です。
彼女は、最後に会いに来てくれました。
親を説得出来無かった私を、支えてやれなかった私を、最初から許していたと。
夢枕に現れただけですが。
親も、私自身も、許そうと思います。
あの人を救って下さり、本当にありがとうございました。
『コレで5通目、か』
あの物語の掲載後、こうしたお手紙が全国から来ており。
正直、この事が1番堪えます。
こうした事が、方々で起きているのかと思うと。
《林檎君、コレは偽物だよ》
「神宮寺さん、分かるんですか?」
《この字は、前にも見た事が有る気がするんだ。特に、ココとココ》
『あぁ、言われてみれば』
《確かにそうですね》
「神霊での事では無いんですね」
《どうだろうね、もしかすれば天神様のお陰かも知れない。そう思うと、くず餅が食べたくなってきた様な》
《あ、今の時期はかき氷が有るそうですよ》
『あぁ、1度食ったけれど美味かったよ、先生にお渡しするついでに行ってきなさい』
「はい、ありがとうございます」
理不尽で不条理は嫌いです。
天網恢恢で有って欲しいですし、出来れば天罰覿面で、信賞必罰の世で有って欲しい。
それこそが秩序と平穏を齎す。
僕はそう思っているんですが。
そうであっては困るのか、僕の様に考える者を批難する、そうした方が居るのも事実で。
《くず餅氷が食えると言うのに、君は浮かれていないね》
「すみません、僕は当たり前の事を考えている筈なのに、それらを批難する方が居て」
《脛に傷を持つか、偉ぶりたいか、馬鹿で阿呆か。浮遊霊の事を教えよう、何故そこらに居るか》
「あぁ、何故地縛霊でも何でも無いのか、ですか?」
《そうした者が、大概はそうなると言う事だよ》
「本当に言ってます?」
《どう証明すれば信じるだろうか》
「やっぱり、僕に見せるしか無いかと」
《あの少年は、君を土台にしているせいで、そう沈んでしまうんだろうか》
「そうなんでしょうか。ただ僕に、もっと何か出来無いのか、と」
《しているじゃないか、悪しき見本を知らしめ、良き見本で夢を与える。僕がする事より遥かに多くへ影響を与え、道を示しているじゃないか》
「でも、それが、正しく伝わらない事が悔しくて」
《それが叶うなら、事件はもっと少ない筈、だろう》
「確かに、ですけど」
《そも分野が違う、悪人を捕まえるのは警察だ、そして悪人を突き出すのは目撃した一市民。君は中庸であり続け、悪人を見付けたら突き出す、当たり前の事を当たり前に続ける事が1番だと思うよ》
「今は、何でも良いので突き出したいです」
《君の周りは運が良いからね、それも含め感謝し、同じ日々を生きるしか無い》
「あ、こうしてでっち上げが出来るんですね、成程」
《そうだね、余った正義感が歪み、果ては発露する》
「それでも余り、でっち上げか、批難か」
《そうそう》
「成程」
《あぁ、来た来た、凄いねコレは》
「ですねぇ、頂きましょう」
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