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第19章 投書と作家と担当。
盲人と侍女。
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どうして男児に侍女を付けてはいけないか、簡単だ、惚れてしまうからだ。
「宜しくお願い致します、坊ちゃま」
『君の顔は、不美人だそうだね』
「はい、ですのでお坊ちゃまの目が見えなくて助かります、アナタ様はとても良い顔でらっしゃいますから」
そこそこ良い家が没落した、親同士は知り合い、同情心も有りそこの娘を息子の世話係にと侍女にした。
そこの男児は目が弱く、既に殆ど見えていない。
「似た年の子女を置けば、惚れるに決まっているだろうに」
《それはそれで構わない、穏便に目をくれるんなら、寧ろその方が良いだろう》
「君は、姉妹の怖さを知らないから」
《従姉妹を抱くなんて無理だろう、君も俺も、そう躾ければ良いだけだ》
当主の目論見通り、侍女は直ぐに子息へ懐き。
そして子息へは距離を置く様にと、あらゆる手を使い、侍女に興味を抱かせぬ様にさせた。
『お兄様、どうして』
《お前もいつか分かる筈だ、じゃあな》
兄は男色家になってしまったから、と家を追い出され、山奥へと追いやられた。
家の為に、炭職人に無理矢理弟子入りさせられ、もう一生会う事は無いだろうと。
『本当に、そうなってしまったんだろうか』
「原因も無しに、そうなる方も居らっしゃるそうです」
『君には、分からなかったのか』
「どなたにも興味を向けられない顔ですから、もしかすれば、それが原因かも知れませんね」
『なら、君のせいか』
「そこまででも無いですよ、平凡よりも少し下、何の変哲もない顔ですから」
『古今東西、顔より中身だろうに』
「中身も、平凡そのものですから」
『ただ読み物は奇抜だろう』
「今月号をお読みしましょうか?」
『いや、今は無理だ。どの作家にも、逆恨みしてしまいそうだ』
「ご本に影響力が有るのなら、他も読まれてらっしゃいました。きっと、その中から、正しい道を選ばれただけなのでしょう」
『君は離れないでくれ、酷く困ってしまう』
「お坊ちゃまのお嫁様が許す限り、お傍で仕えさせて頂きます」
侍女はそう言ってくれたが。
『アレを、結婚後も傍に置くとなったら、君はどうする』
《私がお傍に参ります、ですので、どうかあの娘は嫁に出して下さい》
『アレとは恋仲ですら無いのに、君は僕に不便を強いるのか』
《ですが》
『選べる立場では無いとは分かっているが、この話は無かった事にしてくれ』
他の使用人にも世話をされているが、あの侍女程、居心地の良い者は居ないんだ。
アレを排除する等とは、僕に不便を強いるも同義だ。
《分かるだろう、惚れているなら、どうか息子の為に目をくれないか》
「はい、どうぞ」
《良く言ってくれた、お前の身の回りの世話はしっかりさせてやる、心配するな》
そうして私はお坊ちゃまに挨拶も出来ぬまま、何処かへと運ばれ。
《お前も捨てられたのか》
この声は、ご長男様。
「どうやら、その様で」
《泣くな、まだ術後間もないのだろう》
「出るのでしょうかね、全てを失ってしまったのに」
いつか、こうなるだろうと思っていた。
私が目を捧げたら、すっかり用無しになってしまう事も、お傍に居られなくなる事も。
全て分かっていた。
《俺の世話がそんなに嫌か》
「いえ、ご長男様こそ、申し訳御座いません」
もう少し顔が良ければ、妾として置いて貰えたかも知れない。
もっと他の使い道が有ったかも知れない。
けれど私は不美人。
お坊ちゃまだけのお世話をしていただけの、単なる無能。
《世話をし慣れていない、何か有れば言ってくれ》
「はい、宜しくお願い致します」
泣き暮らしていて欲しかった。
僕の傍に居られなくなり、悲嘆に暮れていて欲しかった。
けれど彼女は、お兄様の傍で微笑んでいる。
初めて彼女を見て、初めて笑顔を見たと言うのに。
嬉しさと嫉妬心で、頭が可笑しくなってしまいそうだった。
いや、多分、少し壊れてしまったのだと思う。
彼女と兄を不幸にしてしまいたくなった、彼女達は何も悪くないのに、苦しめたい。
『お邪魔するよ、お兄様』
「あ、え、お坊ちゃま」
僕は、彼女を抱く事にした。
『君にお礼がしたかったんだ、ずっとね』
「いえ、十分にお給金も頂いておりましたし」
『僕からのお礼だよ』
「待って下さい、そうした事は」
『それとも、金品が欲しいのかな』
「いえ、何も」
『なら僕からのお礼をさせておくれ、君が今までしてくれた事への、お礼だよ』
そこそこ良い家が没落した、親同士は知り合い、同情心も有りそこの娘を息子の世話係にと侍女にした。
そこの男児は目が弱く、既に殆ど見えていない。
本音としては、侍女から目を頂こうとも企んでいた。
僕は反対したのだけれど、そいつは姉妹が居ないもんで軽く考えていた。
子が身内と思えば、何事も無いだろう、と。
「だから言っただろうに、似た年の子女を置けば、惚れるに決まっている、と」
《だが、誰の子か》
「産ませてみたら良いんだよ、損は無い筈だ、家としては特にね。長男に似ていれば男色家疑惑が消せ、しかも家に呼び戻せる、次男に似ていれば。似ていても、もう、どちらでも構わない様にすれば良いだけだろう」
侍女は兄弟どちらの子か分からぬ子を宿した、兄は男色家だとして絶縁された筈。
家としては僥倖だろうに。
《だが、家柄も何も》
「アナタは家柄と睦み合う事が出来るのかも知れないが、彼らは違う、子はアナタの分身では無いのですよ」
《子の居ない君に》
「あぁ、そうですか、では失礼します」
《いや、待ってくれ、すまなかった》
「謝罪は後日で、失礼致します」
彼らは欲張りだ。
何でもかんでも思い通りにしないと気が済まない、そうした類の愚か者、彼らにはさぞ窮屈だったろう。
《お兄様、あの家って、お義姉様の家として相応しく無いと思うの》
「お義姉様、まぁ、従姉妹になるとと言えばそうだけれど」
《ふふふ、きっと男色家も偽装だったのよ、そう優しく賢い従兄弟に早く継いで貰いたいわ》
「そうだね、そうして貰おうか」
《穏便にお願いね》
そして彼らは無事、生家に戻れる事となった。
《今回も、投書案件だったんですね》
「さぁ、どうでしょう?」
《僕にも、言えませんか》
「はい、例え神宮寺さんでも、それは無理なご相談ですから」
それに、もしコレに事実が混ざっているとなれば、探られる事になってしまう。
ココに載る全ては創作物だ、そう一応は巻末に大々的に載せているんですが。
やれ自分の事が書かれた、やれ有りもしない事を書いて儲けているだ。
一般人の皮を被った暇人の、何と多い事か。
《あ、今日も?》
「内緒でーす」
《はぁ、まぁ、守る為ですからね》
「はい、では、失礼致しますね」
コレは身内案件と言えば身内案件ですから、より内々にしないといけませんからね。
「宜しくお願い致します、坊ちゃま」
『君の顔は、不美人だそうだね』
「はい、ですのでお坊ちゃまの目が見えなくて助かります、アナタ様はとても良い顔でらっしゃいますから」
そこそこ良い家が没落した、親同士は知り合い、同情心も有りそこの娘を息子の世話係にと侍女にした。
そこの男児は目が弱く、既に殆ど見えていない。
「似た年の子女を置けば、惚れるに決まっているだろうに」
《それはそれで構わない、穏便に目をくれるんなら、寧ろその方が良いだろう》
「君は、姉妹の怖さを知らないから」
《従姉妹を抱くなんて無理だろう、君も俺も、そう躾ければ良いだけだ》
当主の目論見通り、侍女は直ぐに子息へ懐き。
そして子息へは距離を置く様にと、あらゆる手を使い、侍女に興味を抱かせぬ様にさせた。
『お兄様、どうして』
《お前もいつか分かる筈だ、じゃあな》
兄は男色家になってしまったから、と家を追い出され、山奥へと追いやられた。
家の為に、炭職人に無理矢理弟子入りさせられ、もう一生会う事は無いだろうと。
『本当に、そうなってしまったんだろうか』
「原因も無しに、そうなる方も居らっしゃるそうです」
『君には、分からなかったのか』
「どなたにも興味を向けられない顔ですから、もしかすれば、それが原因かも知れませんね」
『なら、君のせいか』
「そこまででも無いですよ、平凡よりも少し下、何の変哲もない顔ですから」
『古今東西、顔より中身だろうに』
「中身も、平凡そのものですから」
『ただ読み物は奇抜だろう』
「今月号をお読みしましょうか?」
『いや、今は無理だ。どの作家にも、逆恨みしてしまいそうだ』
「ご本に影響力が有るのなら、他も読まれてらっしゃいました。きっと、その中から、正しい道を選ばれただけなのでしょう」
『君は離れないでくれ、酷く困ってしまう』
「お坊ちゃまのお嫁様が許す限り、お傍で仕えさせて頂きます」
侍女はそう言ってくれたが。
『アレを、結婚後も傍に置くとなったら、君はどうする』
《私がお傍に参ります、ですので、どうかあの娘は嫁に出して下さい》
『アレとは恋仲ですら無いのに、君は僕に不便を強いるのか』
《ですが》
『選べる立場では無いとは分かっているが、この話は無かった事にしてくれ』
他の使用人にも世話をされているが、あの侍女程、居心地の良い者は居ないんだ。
アレを排除する等とは、僕に不便を強いるも同義だ。
《分かるだろう、惚れているなら、どうか息子の為に目をくれないか》
「はい、どうぞ」
《良く言ってくれた、お前の身の回りの世話はしっかりさせてやる、心配するな》
そうして私はお坊ちゃまに挨拶も出来ぬまま、何処かへと運ばれ。
《お前も捨てられたのか》
この声は、ご長男様。
「どうやら、その様で」
《泣くな、まだ術後間もないのだろう》
「出るのでしょうかね、全てを失ってしまったのに」
いつか、こうなるだろうと思っていた。
私が目を捧げたら、すっかり用無しになってしまう事も、お傍に居られなくなる事も。
全て分かっていた。
《俺の世話がそんなに嫌か》
「いえ、ご長男様こそ、申し訳御座いません」
もう少し顔が良ければ、妾として置いて貰えたかも知れない。
もっと他の使い道が有ったかも知れない。
けれど私は不美人。
お坊ちゃまだけのお世話をしていただけの、単なる無能。
《世話をし慣れていない、何か有れば言ってくれ》
「はい、宜しくお願い致します」
泣き暮らしていて欲しかった。
僕の傍に居られなくなり、悲嘆に暮れていて欲しかった。
けれど彼女は、お兄様の傍で微笑んでいる。
初めて彼女を見て、初めて笑顔を見たと言うのに。
嬉しさと嫉妬心で、頭が可笑しくなってしまいそうだった。
いや、多分、少し壊れてしまったのだと思う。
彼女と兄を不幸にしてしまいたくなった、彼女達は何も悪くないのに、苦しめたい。
『お邪魔するよ、お兄様』
「あ、え、お坊ちゃま」
僕は、彼女を抱く事にした。
『君にお礼がしたかったんだ、ずっとね』
「いえ、十分にお給金も頂いておりましたし」
『僕からのお礼だよ』
「待って下さい、そうした事は」
『それとも、金品が欲しいのかな』
「いえ、何も」
『なら僕からのお礼をさせておくれ、君が今までしてくれた事への、お礼だよ』
そこそこ良い家が没落した、親同士は知り合い、同情心も有りそこの娘を息子の世話係にと侍女にした。
そこの男児は目が弱く、既に殆ど見えていない。
本音としては、侍女から目を頂こうとも企んでいた。
僕は反対したのだけれど、そいつは姉妹が居ないもんで軽く考えていた。
子が身内と思えば、何事も無いだろう、と。
「だから言っただろうに、似た年の子女を置けば、惚れるに決まっている、と」
《だが、誰の子か》
「産ませてみたら良いんだよ、損は無い筈だ、家としては特にね。長男に似ていれば男色家疑惑が消せ、しかも家に呼び戻せる、次男に似ていれば。似ていても、もう、どちらでも構わない様にすれば良いだけだろう」
侍女は兄弟どちらの子か分からぬ子を宿した、兄は男色家だとして絶縁された筈。
家としては僥倖だろうに。
《だが、家柄も何も》
「アナタは家柄と睦み合う事が出来るのかも知れないが、彼らは違う、子はアナタの分身では無いのですよ」
《子の居ない君に》
「あぁ、そうですか、では失礼します」
《いや、待ってくれ、すまなかった》
「謝罪は後日で、失礼致します」
彼らは欲張りだ。
何でもかんでも思い通りにしないと気が済まない、そうした類の愚か者、彼らにはさぞ窮屈だったろう。
《お兄様、あの家って、お義姉様の家として相応しく無いと思うの》
「お義姉様、まぁ、従姉妹になるとと言えばそうだけれど」
《ふふふ、きっと男色家も偽装だったのよ、そう優しく賢い従兄弟に早く継いで貰いたいわ》
「そうだね、そうして貰おうか」
《穏便にお願いね》
そして彼らは無事、生家に戻れる事となった。
《今回も、投書案件だったんですね》
「さぁ、どうでしょう?」
《僕にも、言えませんか》
「はい、例え神宮寺さんでも、それは無理なご相談ですから」
それに、もしコレに事実が混ざっているとなれば、探られる事になってしまう。
ココに載る全ては創作物だ、そう一応は巻末に大々的に載せているんですが。
やれ自分の事が書かれた、やれ有りもしない事を書いて儲けているだ。
一般人の皮を被った暇人の、何と多い事か。
《あ、今日も?》
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