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第24章 家政婦と庭師。
1 家政婦と庭師。
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どうも、林檎です。
少し前に巷で噂になったツバキ姫は、ありとあらゆる虐めをなさっていた証拠、証人が次々と現れ引き籠っていらっしゃったそうで。
ですがどうしたワケか、いやに着飾り出た所で、精製されたアルコールを掛けられマッチで。
それから再び引き籠り、果ては身投げ。
世間では怨恨、男を奪われた女の恨み、とされていますが。
その実は、黒木家の家政婦が主導した、と。
この事を知った会長自らお伝えしに行き、花山家と黒木家から表沙汰にしないで欲しいと告げられたそうで、直ぐにも呑んだそうです。
コレ以上騒動を広げては、花山家の長女様が満足に生きられなくなってしまうから、と。
幸いにも、情を欠く行いをしたのは、相変わらず低俗な事ばかりを書き立てるゴシップ誌のみ。
なんですが、世間は怨恨説を囁やき始め、黒木家が裁判を起こすぞと。
慌ててゴシップ誌は訂正記事と謝罪文を掲載を提案。
ですが、それは同時に再び噂を広げる事になってしまう。
なので、世間を騒がせ無実の人を追い込んだとして、提訴。
裁判は速やかに執り行われ、ゴシップ誌は暫く休刊となりました。
適当なネタを載せ、謝罪文の掲載で再び世間の注目を浴びる、そしあたデマを掲載。
なんて卑劣な愚行を止めるには、これらが1番ですからね。
言論の自由は害さない場合にのみ、許さえる事。
流言飛語がお金になってはいけません、表現や言論の自由は誰かの苦痛の上に成り立たせるべきでは無いんですから。
さて、こうして完全に幕を閉じ様としていた黒木家の問題ですが。
実は、裏で物事が進んでいました。
黒木家元当主です、療養されているので見舞い行け、と会長からのご指示が有り。
黒木家からも許可を貰い、向かったのですが。
「松書房の林檎です、覚えてらっしゃいますか?」
『あぁ、林檎の匂いの林檎君だね』
「はい、療養の見舞いにと、林檎をお持ちしました」
『ありがとう、目で楽しめないのが残念だけれど、君の林檎は妻も美味しいと言っていたんだ。僕も気に入っているんだよ、ありがとう』
「いえいえ、喜んで頂けて光栄です」
『剥いてくれるかい』
《はい、ただいま》
小柄で可愛らしい若い女性、せめてもの慰めにと、雇って頂いたのでしょうか。
『ずっと、君の雑誌を追っていたんだけれど、病からこうして目が不自由になってしまってね。読んで貰っているのだけれど、やっぱり絵が恋しくなるね』
「すみません、力不足で、目の不自由な方にももっと何か」
『ココには庭師も居てね、もし作中に出る様なら、そうした草木を添えて欲しいそうだ』
「成程、素晴らしい案ですね。そっかー、本に匂いが付けられれば良いんですけど」
『それも少し試して貰ったんだけれど、本全体が香ってしまうんだ。それにもし薔薇の特集だったとしても、薔薇にも様々な香りが有るからね』
「確かに、個別に匂いを付けられたら最高ですね」
『まだまだ、先の事だとは思うけれど、草木を添えて楽しめる企画をお願い出来るかな』
「はい、是非実行できる様に案を煮詰めますね」
『妻は、居なくなってしまったんだ』
僕が避けていた、避けたかった話題が。
「あの、いつ、一体何処へ」
『僕の目が見えなくなって、暫くして、回復してね』
「すみません、会長からはお見舞いとだけで」
『いや、良いんだ。内々には単に離縁した、とだけに留めて貰っているし。良いんだ、ありがとう』
いつか矛盾から破綻をきたすんじゃないのかと心配していたのですが、コレで暫くは、自死も無さそうですね。
ただ、佐藤先生の本を読み上げられてしまっては、また不安定になってしまうのでは。
いえ、あの状態だったからこそ、黒木家の方も。
いや、もしかして彼の目が見えなくなってしまったのは。
もしかして、黒木家の。
奥様の事に関して言えば最低な方ですが、有能で真面目な方。
根は優しい方だからこそ、元家政婦の方がツバキ姫の顔を焼いたワケですし。
え、コレ、どうしろって言うんですか会長。
《失礼します》
『ありがとう、彼女は可愛らしい子だろう』
「そうですね、ご結婚なさっているのか気になってしまいますね」
《ふふ、ありがとうございます、庭師が夫なんです》
「そうなんですね、お2人が居れば安心ですね」
『そうなんだ、本当に』
「庭木を、ご案内頂いても良いですか?」
『勿論』
「では先ず、じっくり眺めたいので厠へ行っても」
《ご案内致します》
心配事の約半分は、杞憂で終わった。
佐藤先生の例の作品は既に読んでいて、自分と似た者も居るのだなと泣いた程度で、他の作品も問題無いとの事。
「そうでしたか」
《境遇は似てらっしゃいますが、全く同じでは無いそうですし、他にもそうした作品は御座いますから》
「そうなんですけど、偶に自分の事が書かれている、と手紙や電話が来るんですよね」
《あぁ、本当にいらっしゃるんですね、そうした方》
「だけなら良いんですけど。俺が考えた話が載ってた、俺の脳味噌を盗んだな、返せーって」
《凄い、そんな作家先生がいらっしゃるんですね》
「いえいえ、皆さん相応の苦労をなさってるので、盗んでるとは思えませんけどね」
《ふふ、だと良いですね》
少し面白い女性だなと思いました。
大概の可愛らしい女性はエログロナンセンスだと言わなければ死ぬ呪いにでも掛かっているのか、同じような感想、同じような服を着て右向け左向けと。
「お待たせしました、さ、スッキリ張り切って参りましょう」
『ふふ、そうだね』
目が白濁してらっしゃっても、美丈夫は美丈夫。
憑き物が落ちた黒木さんは、寧ろ逆に何処か儚げで、色気が有ると言うか何と言うか。
人はこうまで、更に変わるのか、と。
いや、アレですかね、寡婦の色気的な何かが出ているのかも知れません。
なんせ黒木さんは、愛する奥様とお別れしたのですから。
《アナタ》
「どうも、林檎と申します」
「名字なんですかね」
「そうなんですよぉ、しかも実家は林檎農家でして、少しばかり持って来たので後でお食べになって下さい」
「はい、ありがとうございます」
《ふふふ、すみません人見知りで。お花のご案内をお願いね》
「分かった」
コチラもまた、美青年でらっしゃる。
黒木さんとは違い、薄い色素の髪色と瞳、立ち並ぶとまさに百合と薔薇。
いや、絵になりますね、うん。
「本当にありがとうございました、草木の企画、頑張りますね」
『コチラこそ、見舞いに来てくれてありがとう、また庭を見に来るだけでも来てくれて構わないよ』
「次は具体的な企画案か、新刊を持って来ますね」
『あまり無理をしないでくれ、僕より作家を、良いモノを作り出せる先生方を頼むよ』
「はい、ありがとうございました」
『じゃあ、また会おう、林檎君』
「はい、失礼します」
彼の声は、聞き慣れているからこそなのか、快活なのにも関わらず安心する事が出来た。
悪意は全く無く、無邪気だけれど慎重で、優しさが有る。
以前の印象のせいなのか、貰った林檎のお陰なのか。
「随分と馴れ馴れしい方ですね」
いや、彼への印象は彼らのせいかも知れない。
『いや、アレは人懐っこいと言うんだよ』
《ヤキモチね、ふふふ》
「あぁ、それだと思う」
《大丈夫。黒木様は逃げ出せない、誰にも取られないもの、ね》
彼女達が妻と過ごす家に来たのは、目が見えなくなる前、家政婦が騒動を起こす前だった。
少し前に巷で噂になったツバキ姫は、ありとあらゆる虐めをなさっていた証拠、証人が次々と現れ引き籠っていらっしゃったそうで。
ですがどうしたワケか、いやに着飾り出た所で、精製されたアルコールを掛けられマッチで。
それから再び引き籠り、果ては身投げ。
世間では怨恨、男を奪われた女の恨み、とされていますが。
その実は、黒木家の家政婦が主導した、と。
この事を知った会長自らお伝えしに行き、花山家と黒木家から表沙汰にしないで欲しいと告げられたそうで、直ぐにも呑んだそうです。
コレ以上騒動を広げては、花山家の長女様が満足に生きられなくなってしまうから、と。
幸いにも、情を欠く行いをしたのは、相変わらず低俗な事ばかりを書き立てるゴシップ誌のみ。
なんですが、世間は怨恨説を囁やき始め、黒木家が裁判を起こすぞと。
慌ててゴシップ誌は訂正記事と謝罪文を掲載を提案。
ですが、それは同時に再び噂を広げる事になってしまう。
なので、世間を騒がせ無実の人を追い込んだとして、提訴。
裁判は速やかに執り行われ、ゴシップ誌は暫く休刊となりました。
適当なネタを載せ、謝罪文の掲載で再び世間の注目を浴びる、そしあたデマを掲載。
なんて卑劣な愚行を止めるには、これらが1番ですからね。
言論の自由は害さない場合にのみ、許さえる事。
流言飛語がお金になってはいけません、表現や言論の自由は誰かの苦痛の上に成り立たせるべきでは無いんですから。
さて、こうして完全に幕を閉じ様としていた黒木家の問題ですが。
実は、裏で物事が進んでいました。
黒木家元当主です、療養されているので見舞い行け、と会長からのご指示が有り。
黒木家からも許可を貰い、向かったのですが。
「松書房の林檎です、覚えてらっしゃいますか?」
『あぁ、林檎の匂いの林檎君だね』
「はい、療養の見舞いにと、林檎をお持ちしました」
『ありがとう、目で楽しめないのが残念だけれど、君の林檎は妻も美味しいと言っていたんだ。僕も気に入っているんだよ、ありがとう』
「いえいえ、喜んで頂けて光栄です」
『剥いてくれるかい』
《はい、ただいま》
小柄で可愛らしい若い女性、せめてもの慰めにと、雇って頂いたのでしょうか。
『ずっと、君の雑誌を追っていたんだけれど、病からこうして目が不自由になってしまってね。読んで貰っているのだけれど、やっぱり絵が恋しくなるね』
「すみません、力不足で、目の不自由な方にももっと何か」
『ココには庭師も居てね、もし作中に出る様なら、そうした草木を添えて欲しいそうだ』
「成程、素晴らしい案ですね。そっかー、本に匂いが付けられれば良いんですけど」
『それも少し試して貰ったんだけれど、本全体が香ってしまうんだ。それにもし薔薇の特集だったとしても、薔薇にも様々な香りが有るからね』
「確かに、個別に匂いを付けられたら最高ですね」
『まだまだ、先の事だとは思うけれど、草木を添えて楽しめる企画をお願い出来るかな』
「はい、是非実行できる様に案を煮詰めますね」
『妻は、居なくなってしまったんだ』
僕が避けていた、避けたかった話題が。
「あの、いつ、一体何処へ」
『僕の目が見えなくなって、暫くして、回復してね』
「すみません、会長からはお見舞いとだけで」
『いや、良いんだ。内々には単に離縁した、とだけに留めて貰っているし。良いんだ、ありがとう』
いつか矛盾から破綻をきたすんじゃないのかと心配していたのですが、コレで暫くは、自死も無さそうですね。
ただ、佐藤先生の本を読み上げられてしまっては、また不安定になってしまうのでは。
いえ、あの状態だったからこそ、黒木家の方も。
いや、もしかして彼の目が見えなくなってしまったのは。
もしかして、黒木家の。
奥様の事に関して言えば最低な方ですが、有能で真面目な方。
根は優しい方だからこそ、元家政婦の方がツバキ姫の顔を焼いたワケですし。
え、コレ、どうしろって言うんですか会長。
《失礼します》
『ありがとう、彼女は可愛らしい子だろう』
「そうですね、ご結婚なさっているのか気になってしまいますね」
《ふふ、ありがとうございます、庭師が夫なんです》
「そうなんですね、お2人が居れば安心ですね」
『そうなんだ、本当に』
「庭木を、ご案内頂いても良いですか?」
『勿論』
「では先ず、じっくり眺めたいので厠へ行っても」
《ご案内致します》
心配事の約半分は、杞憂で終わった。
佐藤先生の例の作品は既に読んでいて、自分と似た者も居るのだなと泣いた程度で、他の作品も問題無いとの事。
「そうでしたか」
《境遇は似てらっしゃいますが、全く同じでは無いそうですし、他にもそうした作品は御座いますから》
「そうなんですけど、偶に自分の事が書かれている、と手紙や電話が来るんですよね」
《あぁ、本当にいらっしゃるんですね、そうした方》
「だけなら良いんですけど。俺が考えた話が載ってた、俺の脳味噌を盗んだな、返せーって」
《凄い、そんな作家先生がいらっしゃるんですね》
「いえいえ、皆さん相応の苦労をなさってるので、盗んでるとは思えませんけどね」
《ふふ、だと良いですね》
少し面白い女性だなと思いました。
大概の可愛らしい女性はエログロナンセンスだと言わなければ死ぬ呪いにでも掛かっているのか、同じような感想、同じような服を着て右向け左向けと。
「お待たせしました、さ、スッキリ張り切って参りましょう」
『ふふ、そうだね』
目が白濁してらっしゃっても、美丈夫は美丈夫。
憑き物が落ちた黒木さんは、寧ろ逆に何処か儚げで、色気が有ると言うか何と言うか。
人はこうまで、更に変わるのか、と。
いや、アレですかね、寡婦の色気的な何かが出ているのかも知れません。
なんせ黒木さんは、愛する奥様とお別れしたのですから。
《アナタ》
「どうも、林檎と申します」
「名字なんですかね」
「そうなんですよぉ、しかも実家は林檎農家でして、少しばかり持って来たので後でお食べになって下さい」
「はい、ありがとうございます」
《ふふふ、すみません人見知りで。お花のご案内をお願いね》
「分かった」
コチラもまた、美青年でらっしゃる。
黒木さんとは違い、薄い色素の髪色と瞳、立ち並ぶとまさに百合と薔薇。
いや、絵になりますね、うん。
「本当にありがとうございました、草木の企画、頑張りますね」
『コチラこそ、見舞いに来てくれてありがとう、また庭を見に来るだけでも来てくれて構わないよ』
「次は具体的な企画案か、新刊を持って来ますね」
『あまり無理をしないでくれ、僕より作家を、良いモノを作り出せる先生方を頼むよ』
「はい、ありがとうございました」
『じゃあ、また会おう、林檎君』
「はい、失礼します」
彼の声は、聞き慣れているからこそなのか、快活なのにも関わらず安心する事が出来た。
悪意は全く無く、無邪気だけれど慎重で、優しさが有る。
以前の印象のせいなのか、貰った林檎のお陰なのか。
「随分と馴れ馴れしい方ですね」
いや、彼への印象は彼らのせいかも知れない。
『いや、アレは人懐っこいと言うんだよ』
《ヤキモチね、ふふふ》
「あぁ、それだと思う」
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