松書房、ハイセンス大衆雑誌編集者、林檎君の備忘録。

中谷 獏天

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第24章 家政婦と庭師。

4 家政婦と庭師。

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 アレから俺は、庭師に蹂躙されるようになってしまった。

『どうして』
「奥様からのご要望です、蹂躙され苦しんでいる姿が見たい、と」

 俺は散々、妻を苦しめてしまった。
 その償いが出来るならと、俺は弄ばれる事を受け入れてしまった。

 ただ、コレが本当に罰なのかと、疑う事もあった。

『コレが、本当に罰になるんだろうか、償いになるんだろうか』

「そんなに良かったですか」
『いや、違っ、ただ、苦痛だけでは無いのに、本当に罰になるのか』

「聞いてきますか」

『それは、嫌われてしまうんじゃないだろうか』
「そうした態度がダメだったんだと思いますけど」

『あぁ、すまない』
「いえ、それとなく妹に聞き出させます、良いですね」

『あぁ、頼んだ』

 まだまだ、許してはくれていない。
 だからこそ妻は、苦痛だけでは無い罰を与えたいのだ、と。

「ですが苦痛に慣れては困るので、コチラも使えと申し付けられました」
『それは、一体』

「猿轡です、荒縄で縛って花瓶にしろと」

『花瓶』
「お怪我はして頂きたく無いそうなので、ジッとしてて下さい」

 男に辱しめられ、自身を花瓶に見立てさせられ。
 それを妻が、喜んでいる。

《ふふふ、素敵ですものね》

 コレで許されるなら。
 いや、許されてしまったらどうなるんだろうか。

『ぅう』
「お互いに、楽になるべきですよ、黒木様」



 そして黒木様は、意識を手放した。
 大の男が涙を流したまま、ぐったりと汚れた体を預け、拘束されたまま気を失っている。

 愛の為に苦痛を受け入れ、苦悩している。

 愛おしい。
 妹が惹かれるのも仕方が無い。

《さ、私は奥様を部屋に下がらせるから、優しく丁寧にお願いね》
「分かった」

 猿轡を外し、体を清めていると。

『ぁあ』
「奥様は下がりました、お風呂に行かれますか」

『あぁ』
「どうぞ」

 体を洗われる事にも慣れ、そのまま手を出される事にも抗わなくなった。

『俺は』
「僕は、そう仰った方が威圧感が少ないですよ。奥様とてか弱い女性、試しに変えてみたらどうですか」

『この呼称は、威圧感が有るのか』
「旦那様の少しは可愛らしい所を理解すれば、多少は許して頂けるかも知れませんよ」

『お、僕は、許された先を考えていなかったんだ』

「手放さなければ、お互いに苦しいままですよ」

『けれど、俺には、僕には何も無くなってしまう』
「俺達が居ます、俺達は黒木様の使用人ですから」

『けれど、君は』
「大丈夫、手放す為に、手放す機会を差し上げましょう」



 奥様の前で3人でまぐわい、黒木様には少し意識を朦朧となさって頂き。
 私は黒木様に諦めて頂ける様に、奥様を使い、言葉を紡いだ。

《奥様も、もう終わらせたいそうです。お互いの為に、私達に任せたい、そう仰っていたのです》

 奥様を頷かせ、旦那様の頭を優しく撫でる。

『僕は、本当に捨てられてしまうんだね』
《いいえ、お互いに元に戻るだけ、お互いの居るべき場所に戻るだけ》

『今まですまなかった、ありがとう、幸せに』
《いえ、どうか旦那様も、お幸せに》
「お任せを」

 そして兄によって旦那様は再び意識を失い、その間に奥様には去って頂く事に。

《すまないな》
《いえ、コチラこそ素敵な家をご紹介頂いて、旦那様のお傍に置かせて頂いて。とても幸せです》

《そうか》

《あ、もしお子が出来ましたら、どうぞお願い致します。私達ではきっと、とても歪めてしまいますから》

《本当に良いのか、きっと産めば》
《私達の歪みを私達は理解しております、理解した上でどうしようも無い事なのだと、分かっているのです》

《そうか、もう縋ろうが泣き叫ぼうが、ウチの子とするぞ》
《あ、男の子が2人ならお爺様にもお願いします、せめてもの恩返しですから》

《そうか》
《はい、宜しくお願い致します》



 僕が目を覚ますと、もう彼女は居らずベッドも空に。

『もう行ってしまったんだね』
「お互いの為にです」

『どう、生きれば良いんだろうか』

 庭師に抱きすくめられた上に、家政婦が更に腕を回し僕達を抱え込み。

《私、僭越ながら素敵なお家を見付けておいたんです、行ってみませんか?》

 彼女は媚びるでもなく、散歩に行こうとでも言う様に。
 気軽に、軽やかに。

 ココ数ヶ月出ていない。

 もう妻も居ない。
 もう、ココを出ても良いのかも知れない。

『行くだけ、行ってみようか』
「はい」
《さ、準備しましょう》

 それからはどう道を進んだのか、車で向かい何度か休憩を挟み。
 辿り着いたのは様々な草木の香る、白い家。

『白は、手入れが大変そうだね』
《でも旦那様が迷われないでしょうし、来て下さい、ココのお庭が凄いんですよ》

 ぼやけた目でも分かる、真っ赤な大輪の薔薇。
 そして白百合も。

『あぁ、確かに僕には良いかも知れないね』
《まだまだ、お部屋もご案内しますから、しっかり見定めて下さいませ》

 家はそれ程でも無い大きさで、2階建てだけれども、生活拠点は殆どが1階。
 2階には寝室が1つに、使用人部屋が2つ。

『改装して貰ったんだろうか』
《少しです、殆どこのままだそうですよ》

『君達は、どう思う』

「旦那様が気に入ったなら幸いです」
《ですね、あまり大きいと手入れも大変ですし、目が届かないと心配になってしまいますから》

『祖父に、頼んでみるよ』
《ありがとうございます、電話は繋がってるそうですからそのままお電話しちゃいましょう》
「泊まっても良いそうですし、折り返しを待ちましょう」

『そうか、そうしよう』

 そうして、そのまま住む事に。
 引っ越しの作業も全て、祖父が手配をしてくれた。

 疎まれていたと思っていたけれど、仮にも僕は黒木家の血を引く者、きっと彼女と子を成す事を待っているのかも知れない。
 兄妹は、決して体を繋げる事だけはしないのだから。

 いや、良い、こんな僕でも生かし傍に居ようとしてくれているんだ。
 互いに求め合える事に、先ずは感謝すべきだろう。



「随分と馴れ馴れしい方ですね」

 この家は、俺達が育った家。
 人が訪れる事は滅多に無い。

『いや、アレは人懐っこいと言うんだよ』

 何処から頼まれたのか、若い男が尋ねて来た。
 僅かに親しげで、少しばかり苛立ちを覚えた。

《ヤキモチね、ふふふ》
「あぁ、それだと思う」

《大丈夫。黒木様は逃げ出せない、誰にも取られないもの、ね》
『その通り、僕は今何処に居るかも分からない、しかも目は殆ど見えない。酷い事が起き自死しようと思わない限りは、ココに居るよ』



 私達の黒木様は、私達だけの黒木様となった。

《そんな、酷い事なんてしないわよねぇ?》
「傷付けるのはあまり楽しくない」
『あまり、だろう』

「嫌がる顔が堪らない」
《そうね、黒木様に色気が有るのが悪いんだわ》
『はいはい、悪かった悪かったよ』

「分かってませんね」
《そうね、分からせなくてはいけないわね》
『待ってくれ、もう僕はそれなりの年なんだ、連日は身が持たない』

《運動ですよ運動》
「また浣腸をして欲しいんですか」
『いや、アレは』

《じゃあお庭に参りましょうね》

 ココは私達が育った生家、滅多に人が来ない。
 いえ、入ってすら来れない厳重に守られた場所。

 今でも黒木様は家に縛られ、守られ続けている。

 ココは、どうしようもない者の園。
 囲い、守る為の園。
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