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第27章 夢と妻と作家と。
1 賢女愚女。
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『君に気は全く無い、もう関わらないでくれ』
ただ、私が勘違いをしてしまった、だけ。
私は、勘違いからお慕いする方を刺し、顔面を切り裂いた。
でもだって、彼はとても綺麗な顔で優しく微笑み、愛妻弁当を差し出して下さった。
そして私の手弁当を喜んで食べ、妻よりも料理上手だ、と。
私は、妾どころか本妻になれるとすら思っていた。
だって、彼は私を大切に扱ってくれた。
決して手を出さず、沢山の贈り物をし、敢えて愛妻弁当を私に食べさせ。
可愛いと、言って下さった。
なのに、それは全て、私の勘違い。
彼に私への好意が微塵も、欠片も無いと、彼の態度で理解させられた。
そして無罪放免とする代わりに、私は、何もかもを失ってしまった。
「そこの君、大丈夫かい、えらく顔色が悪いけれど」
寮すら追い出され、駅で途方に暮れていた私に声を掛けたのは、質素な服装の純朴そうな青年だった。
《仕事も、寮も失くしてしまって》
「あぁ、景気が悪い所はそうらしいね、田舎に帰るつもりかい?」
家に帰れば、理由を話さなければいけなくなる。
けれど、事情を話せば、多額の借金を背負わされる事になる。
《いえ、けれど、宛が無くて》
「成程。君、料理は出来るかな」
《はい、少しは》
「その他の家事はどうだい」
《はい、1人で暮らせる程度には》
「ならウチの寮に暫く来ると良いよ、何、他に住み込みさんも居るから大丈夫。それにウチがダメでも、その伝手で探せば良い」
《はい、ありがとうございます》
何か騙されてしまうかも知れない、それでも。
そう藁にも縋る思いで付いて行った先は、彼が言う通り、何の変哲も無い寮だった。
『助かるよ本当に、下働きの子が男と逃げちまって。あぁ、味付けは関東風で頼むね』
《あの、健康には関西風が良いとお伺いしたのですが》
『嫌だねもう、そりゃ迷信だよ、薄口醬油の塩気がマチマチだよ。モノの味付け次第だけれど、大概は色が濃い方がココらは好まれるんだよ、コレは味付けして有るんですか。って尋ねられる事が多いんでね』
《あ、はい、分かりました》
『何、分からない事が有ったら遠慮無く聞いておくれ、こうした下働きには慣れていないんだろう』
そう言っても、伺い過ぎれば嫌われてしまう事は、既に前の職場で分かっていた。
《はい、ありがとうございます》
だからこそ、私は勉強した。
時間が空けば図書館へと向かい、家政についての本を読み漁った。
そして読むモノが尽きたなら、次は隣町の図書館へ。
「随分と熱心だね、助かるよ」
もし以前の事がバレてしまったら、軽蔑されてしまうかも知れない。
そして果ては追い出され、更に広まってしまったら。
《趣味、なんです》
「成程、きっと良い奥さんになるだろうね」
私に、そんな資格が有るのだろうか。
愚かな私に、誰かの妻となる事が許されるのだろうか。
釈放された際、会社の弁護士から如何に私が愚かか、嫌と言う程に聞かされ。
私は否定したが、結局は世間を良く知ると、私は愚かで酷い女だった。
――もし、自分が妻の立場なら、どう思うのか。
――愛妻弁当を差し出す男と再婚し、次に自分がその妻の立場と同じくなってしまうとは思わないのか、その根拠は何処に有ると言うのか。
――彼女は清く美しく、何の瑕疵も無い、だからこそ彼は気を引く為だけに君に媚びを売ったに過ぎない。
――にも拘らず好意をただ盲目的に信じ、考えも浅い愚かな女を好く男に嫁ぐ、それで君は本当に幸せになれると思っているのか。
私は否定したが、それは私の行いを否定したくないだけの、愚かな行為だった。
今は、良く理解している。
如何に不道徳で不誠実で不義理な行為だったか、もし自らにそんな事が起きたなら、情愛が有ったなら許せない筈だと理解している。
だからこそ、無罪放免とされたからと言っても、無罪では無いのだと理解している。
いつか、しっぺ返しが来る。
いつか、天罰が下る。
愚かさは罪なのだから。
《そう、ありたいと思います》
愚かでいる限り、私に必ず罰が下る。
あの奥様は、いえ、元奥様は彼の代わりに社長職となった。
そして、この下町にすら、ひょっこりと現れる気さくな方。
「君との結婚を考えているのだけれど、先ずはお付き合いから、どうだろうか」
私が困っていた時に声を掛けてくれた彼から、何も知らない彼から、交際を申し込まれた。
彼はマトモだ。
酒や女、賭博には興味が無く、食べ道楽で仕事熱心。
けれど、私が如何に愚かだったかは、知らない。
言うべきなのだろうか。
言わなくても良いのだろうか。
《少し、お返事をお待ち頂けますでしょうか》
「勿論、構わないよ」
そうして私は、元の会社の弁護士に連絡する事に。
けれど、契約を守るなら好きにすれば良い。
謝罪も賠償も不要だ、とだけ。
私は、その言葉に甘えてしまった。
もう良いだろう。
もう幸せになっても良いだろう、と。
《宜しく、お願い致します》
そうして最初の3年は、とても幸せでした。
けれど、3年目が過ぎた春の頃。
彼が少しよそよそしくなると、手弁当の空き箱に、小さく真っ赤な折り鶴が。
私がした事と同じ事が、私に起きた。
同じ時期に、同じ事が、私に返って来た。
「ぁあ、捨てておいてくれて構わないよ」
きっと、彼もこうして家では言い訳をしていたのだろう。
そしてきっと奥様は、こんな気持ちになったのだろう。
不安で、憎くて堪らない。
あぁ、だからこそ、私に刺させたのだろう。
賢く美しい奥様は、私を利用し、彼を引き裂かせた。
なら、コレは私への天罰。
幼く愚かな私への罰が、今、下り始めたのだろう。
《分かりました、処分しておきますね》
そうして私は、私への罰を飾る事にした。
幼さを言い訳に出来無い程の罪を、忘れぬ為、愚かだった自分を忘れぬ為に。
「君、今の人は」
《あ、友人でいて下さっている方で》
「なら、関わりは控えた方が良い、あまり良い噂は聞かないからね」
奥様も、こんなお気持ちだったのだろうか。
自らの浮気の罪悪感から、妻には厳しくなる、と言う。
そんな事を喜べる妻が、何処に居ると言うのだろうか。
そんな束縛の何が、喜べると言うのだろうか。
《どの様な、噂なのでしょうか》
「君にはあまり聞かせたくない事なんだ、分かってくれないだろうか」
同性の友人すら、自身が浮気をしていると、こう許せなくなってしまうのだろうか。
自らを棚に上げ、私の楽しみを奪おうとする。
そんな夫を堪らなく憎く思ってしまった。
けれど、彼は傍から見れば良い夫。
《分かりました》
奥様も、この様な心持ちだったのだろうか。
若く可愛らしい、さもウブそうな、扱い易そうな女。
つまりは愚かそうな、昔の私と良く似た女が、夫の相手。
『あら、奥様』
《主人がお世話になっております》
私は奥様の様に賢くは無い。
そして罪を背負う者。
だからこそ私は、彼女を受け入れるしか無い。
コレが罪への贖いとなるなら、私は受け入れるべきなのだから。
『あの、何の事か』
《お好みの味付けが有りましたら仰って、食べて下さる方にこそ、美味しいと思われたいのです》
情愛と愛憎、そして罪を背負う私に出来る事は、コレだけ。
『そ、あ』
《関西風も出来ますよ、何でも仰って》
『あ、いえ、あの卵焼きを、少し、頂いただけで』
《でしたら、分量も教えて差し上げますね》
『あ、はい、お願い致します』
それ以降、空箱に何かが入る事は無くなり。
後日、夫から話が有る、と。
「いや、すまないね、君に黙っていた事は」
《いえ、大層な事でも無いですから》
「珍しく、しかも美味しいからと強請られて」
《ありがとうございます、以降は彼女の好む味付けにしますので》
「いや、前と同じで構わないよ」
奥様は、どんなに無念だった事だろう。
不誠実にも真実を告げず、隠したまま、何食わぬ顔で生活をされ。
真の謝意も無く、不道徳で不義理だとも思わぬ夫と、以前同様に夜伽を行う。
どんなに、私が憎かっただろうか。
《では、以降は2つ、お作り致しますからご遠慮なさらないで下さい》
「分かった、なら頼むよ」
《はい》
こんなにも苛烈な激情が湧き、殺してしまいたい程。
そんな事を私はしでかし、引き裂いてしまった。
コレは、私への罰なのだ。
「あら、アナタ」
《重々承知しておりますが、どうか》
「結構よ、アナタはアナタの人生を歩みなさい」
《ですが、妻となった今》
「ふふふ、それだけ愛してらっしゃるのね、羨ましい事だわ」
奥様が何を言っているのか、分からなかった。
けれど、私は、今の私は理解した。
奥様は、彼を愛してなどいなかった。
《では、奥様は》
「私はアナタに謝って貰う事も、償って貰う事も無いわ。コレで美味しいモノでも食べて、アナタもご自分を大切になさい、我慢も妥協も過分を過ぎれば毒よ」
そう言って、奥様は美しい歩き姿で去っていった。
以前と同じ様に、背筋をしゃっきりと伸ばし、何の後悔も無い素振りで。
「もう、十分だそうだから」
《あら、遠慮なさらないでと仰っておいて下さい、コレは私の趣味でも有るのですから》
「けれど手間暇が掛るだろう、と心配していてね」
《いえ、さして変わりませんし。もし飽きたなら、他の方に譲って差し上げて下さい》
「そうかい?」
《はい》
「じゃあ、そうさせて貰うよ」
《はい》
私は、夫を愛している。
だからこそ、憎くて堪らない。
そして私は、既に許された者。
なら、彼に何をしようとも、彼女に何をしようとも良い筈。
もう、私は許されたのだから。
さぁ、どう死んで貰おう。
どんな死に目に遭わせてやろう。
不誠実で不道徳で不義理な、愚か者には罰を。
さぁ、どんな罰を下してやろう。
ただ、私が勘違いをしてしまった、だけ。
私は、勘違いからお慕いする方を刺し、顔面を切り裂いた。
でもだって、彼はとても綺麗な顔で優しく微笑み、愛妻弁当を差し出して下さった。
そして私の手弁当を喜んで食べ、妻よりも料理上手だ、と。
私は、妾どころか本妻になれるとすら思っていた。
だって、彼は私を大切に扱ってくれた。
決して手を出さず、沢山の贈り物をし、敢えて愛妻弁当を私に食べさせ。
可愛いと、言って下さった。
なのに、それは全て、私の勘違い。
彼に私への好意が微塵も、欠片も無いと、彼の態度で理解させられた。
そして無罪放免とする代わりに、私は、何もかもを失ってしまった。
「そこの君、大丈夫かい、えらく顔色が悪いけれど」
寮すら追い出され、駅で途方に暮れていた私に声を掛けたのは、質素な服装の純朴そうな青年だった。
《仕事も、寮も失くしてしまって》
「あぁ、景気が悪い所はそうらしいね、田舎に帰るつもりかい?」
家に帰れば、理由を話さなければいけなくなる。
けれど、事情を話せば、多額の借金を背負わされる事になる。
《いえ、けれど、宛が無くて》
「成程。君、料理は出来るかな」
《はい、少しは》
「その他の家事はどうだい」
《はい、1人で暮らせる程度には》
「ならウチの寮に暫く来ると良いよ、何、他に住み込みさんも居るから大丈夫。それにウチがダメでも、その伝手で探せば良い」
《はい、ありがとうございます》
何か騙されてしまうかも知れない、それでも。
そう藁にも縋る思いで付いて行った先は、彼が言う通り、何の変哲も無い寮だった。
『助かるよ本当に、下働きの子が男と逃げちまって。あぁ、味付けは関東風で頼むね』
《あの、健康には関西風が良いとお伺いしたのですが》
『嫌だねもう、そりゃ迷信だよ、薄口醬油の塩気がマチマチだよ。モノの味付け次第だけれど、大概は色が濃い方がココらは好まれるんだよ、コレは味付けして有るんですか。って尋ねられる事が多いんでね』
《あ、はい、分かりました》
『何、分からない事が有ったら遠慮無く聞いておくれ、こうした下働きには慣れていないんだろう』
そう言っても、伺い過ぎれば嫌われてしまう事は、既に前の職場で分かっていた。
《はい、ありがとうございます》
だからこそ、私は勉強した。
時間が空けば図書館へと向かい、家政についての本を読み漁った。
そして読むモノが尽きたなら、次は隣町の図書館へ。
「随分と熱心だね、助かるよ」
もし以前の事がバレてしまったら、軽蔑されてしまうかも知れない。
そして果ては追い出され、更に広まってしまったら。
《趣味、なんです》
「成程、きっと良い奥さんになるだろうね」
私に、そんな資格が有るのだろうか。
愚かな私に、誰かの妻となる事が許されるのだろうか。
釈放された際、会社の弁護士から如何に私が愚かか、嫌と言う程に聞かされ。
私は否定したが、結局は世間を良く知ると、私は愚かで酷い女だった。
――もし、自分が妻の立場なら、どう思うのか。
――愛妻弁当を差し出す男と再婚し、次に自分がその妻の立場と同じくなってしまうとは思わないのか、その根拠は何処に有ると言うのか。
――彼女は清く美しく、何の瑕疵も無い、だからこそ彼は気を引く為だけに君に媚びを売ったに過ぎない。
――にも拘らず好意をただ盲目的に信じ、考えも浅い愚かな女を好く男に嫁ぐ、それで君は本当に幸せになれると思っているのか。
私は否定したが、それは私の行いを否定したくないだけの、愚かな行為だった。
今は、良く理解している。
如何に不道徳で不誠実で不義理な行為だったか、もし自らにそんな事が起きたなら、情愛が有ったなら許せない筈だと理解している。
だからこそ、無罪放免とされたからと言っても、無罪では無いのだと理解している。
いつか、しっぺ返しが来る。
いつか、天罰が下る。
愚かさは罪なのだから。
《そう、ありたいと思います》
愚かでいる限り、私に必ず罰が下る。
あの奥様は、いえ、元奥様は彼の代わりに社長職となった。
そして、この下町にすら、ひょっこりと現れる気さくな方。
「君との結婚を考えているのだけれど、先ずはお付き合いから、どうだろうか」
私が困っていた時に声を掛けてくれた彼から、何も知らない彼から、交際を申し込まれた。
彼はマトモだ。
酒や女、賭博には興味が無く、食べ道楽で仕事熱心。
けれど、私が如何に愚かだったかは、知らない。
言うべきなのだろうか。
言わなくても良いのだろうか。
《少し、お返事をお待ち頂けますでしょうか》
「勿論、構わないよ」
そうして私は、元の会社の弁護士に連絡する事に。
けれど、契約を守るなら好きにすれば良い。
謝罪も賠償も不要だ、とだけ。
私は、その言葉に甘えてしまった。
もう良いだろう。
もう幸せになっても良いだろう、と。
《宜しく、お願い致します》
そうして最初の3年は、とても幸せでした。
けれど、3年目が過ぎた春の頃。
彼が少しよそよそしくなると、手弁当の空き箱に、小さく真っ赤な折り鶴が。
私がした事と同じ事が、私に起きた。
同じ時期に、同じ事が、私に返って来た。
「ぁあ、捨てておいてくれて構わないよ」
きっと、彼もこうして家では言い訳をしていたのだろう。
そしてきっと奥様は、こんな気持ちになったのだろう。
不安で、憎くて堪らない。
あぁ、だからこそ、私に刺させたのだろう。
賢く美しい奥様は、私を利用し、彼を引き裂かせた。
なら、コレは私への天罰。
幼く愚かな私への罰が、今、下り始めたのだろう。
《分かりました、処分しておきますね》
そうして私は、私への罰を飾る事にした。
幼さを言い訳に出来無い程の罪を、忘れぬ為、愚かだった自分を忘れぬ為に。
「君、今の人は」
《あ、友人でいて下さっている方で》
「なら、関わりは控えた方が良い、あまり良い噂は聞かないからね」
奥様も、こんなお気持ちだったのだろうか。
自らの浮気の罪悪感から、妻には厳しくなる、と言う。
そんな事を喜べる妻が、何処に居ると言うのだろうか。
そんな束縛の何が、喜べると言うのだろうか。
《どの様な、噂なのでしょうか》
「君にはあまり聞かせたくない事なんだ、分かってくれないだろうか」
同性の友人すら、自身が浮気をしていると、こう許せなくなってしまうのだろうか。
自らを棚に上げ、私の楽しみを奪おうとする。
そんな夫を堪らなく憎く思ってしまった。
けれど、彼は傍から見れば良い夫。
《分かりました》
奥様も、この様な心持ちだったのだろうか。
若く可愛らしい、さもウブそうな、扱い易そうな女。
つまりは愚かそうな、昔の私と良く似た女が、夫の相手。
『あら、奥様』
《主人がお世話になっております》
私は奥様の様に賢くは無い。
そして罪を背負う者。
だからこそ私は、彼女を受け入れるしか無い。
コレが罪への贖いとなるなら、私は受け入れるべきなのだから。
『あの、何の事か』
《お好みの味付けが有りましたら仰って、食べて下さる方にこそ、美味しいと思われたいのです》
情愛と愛憎、そして罪を背負う私に出来る事は、コレだけ。
『そ、あ』
《関西風も出来ますよ、何でも仰って》
『あ、いえ、あの卵焼きを、少し、頂いただけで』
《でしたら、分量も教えて差し上げますね》
『あ、はい、お願い致します』
それ以降、空箱に何かが入る事は無くなり。
後日、夫から話が有る、と。
「いや、すまないね、君に黙っていた事は」
《いえ、大層な事でも無いですから》
「珍しく、しかも美味しいからと強請られて」
《ありがとうございます、以降は彼女の好む味付けにしますので》
「いや、前と同じで構わないよ」
奥様は、どんなに無念だった事だろう。
不誠実にも真実を告げず、隠したまま、何食わぬ顔で生活をされ。
真の謝意も無く、不道徳で不義理だとも思わぬ夫と、以前同様に夜伽を行う。
どんなに、私が憎かっただろうか。
《では、以降は2つ、お作り致しますからご遠慮なさらないで下さい》
「分かった、なら頼むよ」
《はい》
こんなにも苛烈な激情が湧き、殺してしまいたい程。
そんな事を私はしでかし、引き裂いてしまった。
コレは、私への罰なのだ。
「あら、アナタ」
《重々承知しておりますが、どうか》
「結構よ、アナタはアナタの人生を歩みなさい」
《ですが、妻となった今》
「ふふふ、それだけ愛してらっしゃるのね、羨ましい事だわ」
奥様が何を言っているのか、分からなかった。
けれど、私は、今の私は理解した。
奥様は、彼を愛してなどいなかった。
《では、奥様は》
「私はアナタに謝って貰う事も、償って貰う事も無いわ。コレで美味しいモノでも食べて、アナタもご自分を大切になさい、我慢も妥協も過分を過ぎれば毒よ」
そう言って、奥様は美しい歩き姿で去っていった。
以前と同じ様に、背筋をしゃっきりと伸ばし、何の後悔も無い素振りで。
「もう、十分だそうだから」
《あら、遠慮なさらないでと仰っておいて下さい、コレは私の趣味でも有るのですから》
「けれど手間暇が掛るだろう、と心配していてね」
《いえ、さして変わりませんし。もし飽きたなら、他の方に譲って差し上げて下さい》
「そうかい?」
《はい》
「じゃあ、そうさせて貰うよ」
《はい》
私は、夫を愛している。
だからこそ、憎くて堪らない。
そして私は、既に許された者。
なら、彼に何をしようとも、彼女に何をしようとも良い筈。
もう、私は許されたのだから。
さぁ、どう死んで貰おう。
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