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チキン・ヒーロー
穀雨
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ゴールデンウイーク中の5月3日に、『ガトリングコブラ生誕祭』なるライブイベントがライブハウス:ガトリングコブラにて開催される。
真姫と赤城率いるバンド『CLOWN・ASH』も参加予定だが、入試などで3月中旬まで、真姫はまともに練習に入れなかった。
声出しは定期的に近場のカラオケでしてて平気だが、問題は新曲の歌詞が上手くはまらないこと。
歌詞は他メンバーが付けてもいいが、ボーカル本人が付けた方が感情移入しやすく上手く唄えるので、真姫自身がいつも付けていた。
今回、真姫に初めてのスランプが到来していた。原因は判っている。進路が確定しホッとしたからだ。
忙しかったり、ソワソワしてる時ほど、色んな思いが生まれ詞が浮かびやすい。
ここに来て、真姫は自分の性質が判ってきた。
成績優秀でも、特別文才が有る訳でない。
バンドを始めて、他のバンドや既存のミュージシャンの楽曲を、違う角度から鑑賞するようになり、自分の詞にマンネリを感じ始めていたのだ。
なので今回のスランプは余計に堪える。
「新曲どうなの?」
駅の駐輪場で望が尋ねてくると、真姫は軽く睨みつけた。
「睨むなよ⁈ 判った判った、もう訊かねえって!」
自転車を漕ぎだした真姫の頭は、歌詞の事でいっぱいだった。
マモルや赤城は何も言わないが、どこかで真姫と元メンバーである姉の明日香とを、比べてないだろうか。
そんな風に考えてしまう自分にも、うんざりした。
「勉強?」
「歌詞書きです」
スタジオの待合ホールでも真姫はいそしんでいた。ドラムのシュウタの到着を待ちつつ、マモルが赤城に言う。
「そういや、シークレットバンド出れなくなったらしいよ」
「はぁ? この時期に?」
イベントにはCLOWN・ASHを含め4バンド、そしてシークレットバンドが参加する予定だった。
イベントまであと半月しかない。
赤城が腕組みする。
「じゃあ、各自演目を増やすとか?」
「何か、メンバーが急病らしく、そのバンドが代わりに別のバンドを参加させたいって、支配人に言ったんだと」
「へー、そういう事ね」
「代役のバンドも場所探してたみたいよ。東京のバンドだって」
マモルの言葉に赤城は頭を掻いた。
「東京…? ならいくらでも場所あんのに」
「よそにも遠征したいんだと。メンバーに高校生いるから、近場で連休中にやりたかったんだって」
シュウタが到着し、その話は終わりとなった。
やっつけ感は否めないが、何とか歌詞をまとめた。
駅で電車を待ってると、望が来た。今日は1人だ。
「あ、そうそう。生誕祭行くから」
「…ご観覧ありがとうございます」
「で俺、文芸部入ろうと思ってんだよね」
「文芸部?」
校内のどこかで、部員募集のポスターを見た気がする。
「うん。詩とか小説書くとこ」
「望、文章得意だしイイんじゃない?」
小学校時代、作文で賞を取り朝会で賞状を貰ってるのを見た事があった。
望は言った。
「で、書き方のコツ掴めたら、曲作りで詩を書く時の勉強になんねえかなって思って」
真姫は感心したが半分、複雑な思いが湧いた。
「それは良い考えね」
「でしょ? 去年の文集読ましてもらったら、めっちゃイイ詩書いてる先輩いてさぁ」
「好みのタイプだといいわね」
「皇介とはちげぇよ!!」
望はケラケラ笑った。
「へえ、望が?」
運転しつつ赤城は続けた。
「真姫も入れば?」
「嫌です。金魚のフンじゃあるまいし」
「そう? 音楽する上でさ、どこかで必ず詩は勉強しておくべきだぜ。メロもそうだけど、人の心に1番響くのは『言葉』だからな」
「…別に勉強したくない訳じゃないし」
ただ、一歩先を越された気がして、ムカついた。
真姫と赤城率いるバンド『CLOWN・ASH』も参加予定だが、入試などで3月中旬まで、真姫はまともに練習に入れなかった。
声出しは定期的に近場のカラオケでしてて平気だが、問題は新曲の歌詞が上手くはまらないこと。
歌詞は他メンバーが付けてもいいが、ボーカル本人が付けた方が感情移入しやすく上手く唄えるので、真姫自身がいつも付けていた。
今回、真姫に初めてのスランプが到来していた。原因は判っている。進路が確定しホッとしたからだ。
忙しかったり、ソワソワしてる時ほど、色んな思いが生まれ詞が浮かびやすい。
ここに来て、真姫は自分の性質が判ってきた。
成績優秀でも、特別文才が有る訳でない。
バンドを始めて、他のバンドや既存のミュージシャンの楽曲を、違う角度から鑑賞するようになり、自分の詞にマンネリを感じ始めていたのだ。
なので今回のスランプは余計に堪える。
「新曲どうなの?」
駅の駐輪場で望が尋ねてくると、真姫は軽く睨みつけた。
「睨むなよ⁈ 判った判った、もう訊かねえって!」
自転車を漕ぎだした真姫の頭は、歌詞の事でいっぱいだった。
マモルや赤城は何も言わないが、どこかで真姫と元メンバーである姉の明日香とを、比べてないだろうか。
そんな風に考えてしまう自分にも、うんざりした。
「勉強?」
「歌詞書きです」
スタジオの待合ホールでも真姫はいそしんでいた。ドラムのシュウタの到着を待ちつつ、マモルが赤城に言う。
「そういや、シークレットバンド出れなくなったらしいよ」
「はぁ? この時期に?」
イベントにはCLOWN・ASHを含め4バンド、そしてシークレットバンドが参加する予定だった。
イベントまであと半月しかない。
赤城が腕組みする。
「じゃあ、各自演目を増やすとか?」
「何か、メンバーが急病らしく、そのバンドが代わりに別のバンドを参加させたいって、支配人に言ったんだと」
「へー、そういう事ね」
「代役のバンドも場所探してたみたいよ。東京のバンドだって」
マモルの言葉に赤城は頭を掻いた。
「東京…? ならいくらでも場所あんのに」
「よそにも遠征したいんだと。メンバーに高校生いるから、近場で連休中にやりたかったんだって」
シュウタが到着し、その話は終わりとなった。
やっつけ感は否めないが、何とか歌詞をまとめた。
駅で電車を待ってると、望が来た。今日は1人だ。
「あ、そうそう。生誕祭行くから」
「…ご観覧ありがとうございます」
「で俺、文芸部入ろうと思ってんだよね」
「文芸部?」
校内のどこかで、部員募集のポスターを見た気がする。
「うん。詩とか小説書くとこ」
「望、文章得意だしイイんじゃない?」
小学校時代、作文で賞を取り朝会で賞状を貰ってるのを見た事があった。
望は言った。
「で、書き方のコツ掴めたら、曲作りで詩を書く時の勉強になんねえかなって思って」
真姫は感心したが半分、複雑な思いが湧いた。
「それは良い考えね」
「でしょ? 去年の文集読ましてもらったら、めっちゃイイ詩書いてる先輩いてさぁ」
「好みのタイプだといいわね」
「皇介とはちげぇよ!!」
望はケラケラ笑った。
「へえ、望が?」
運転しつつ赤城は続けた。
「真姫も入れば?」
「嫌です。金魚のフンじゃあるまいし」
「そう? 音楽する上でさ、どこかで必ず詩は勉強しておくべきだぜ。メロもそうだけど、人の心に1番響くのは『言葉』だからな」
「…別に勉強したくない訳じゃないし」
ただ、一歩先を越された気がして、ムカついた。
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