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第一章
改めて(宇月琴音)
しおりを挟むあの日以降、課長は毎晩電話をくれた。
私の体調を気遣ってくれたり、必ず「愛している」という・・・
電話越しの声はいつも疲れている。きっとろくに睡眠もとらずにご飯も食べずに仕事ばっかりしているんだろう。
わざわざ時間を作って電話をしてくれるのに、私はそっけない返事しかできなかった。
でも、安定期を過ぎてどんどん大きくなっていく私のお腹の赤ちゃんはその声にいつもポコンと返事をする。
それがなんだか申し訳ない気持ちなる。
そんな風に考えていると電話が鳴る。
「琴音先輩・・・お久しぶりです。伝えるべきか悩んだんですけど、課長がさっき倒れて病院にいます。」
私は、一瞬思考が停止したが、すぐに病院へ向かう準備をした。
一緒にいた期間は短いけれど、仕事場でも家でも一緒に過ごしてきたのだからやはりここ最近の様子がおかしいことは電話越しにもわかっていたのだ。どうして、もっと早く気がついてあげられなかったんだろう。
すぐにタクシーを呼び、課長のいる病院へ向かう。
病院に着くと、慎也がいた。
「すみません・・・妊婦さんなのに・・・でも、来てくれてよかったです。
あっくんに聞いたんですけど、実は毎週琴音先輩の実家に行っていたみたいなんです。ご両親に結婚を認めてもらうために・・・それでその時間作るために、オーバーワークして・・・」
「そうだったんだね・・・教えてくれてありがとう。」
私の実家までは、車で最低3時間はかかる。往復で6時間。
それでいて、いつも休日出勤をしなければいけないくらい仕事を抱えていたのだから、その時間を割くために睡眠時間を削っていたのだと考えると恐ろしくなる。
病室へ行くと、ベッドに眠る課長がいた。
私は、音を立てないように椅子に座るがその気配に気がついたのか課長は目を覚ました。
「琴音・・・・?来てくれたの?あ~~焦った。倒れるとか・・・」
笑いながら課長は言うが、私は安堵してなぜか涙が出てきた。
「え・・・なんで泣くの?」
「もう・・・・心配したんですよ!!!さっき全部聞きました・・・どうしてそこまでして・・・」
私は怒り交じりに訴える。
「琴音と結婚したいから・・・それに、大切な娘なんだからご両親が簡単に許すわけないだろ。」
「バカ!!!それで倒れたら・・・意味ないじゃん・・・」
私は課長をバシンと叩く。
「痛っ・・・・一応、病人なんですけど・・・」
「いろいろ恨みがあるんで・・・つい・・・・」
「え・・・恨み???」
「でも、ちょっと惚れ直しました。」
私は、課長の目をまっすぐにみる。
「これからは、課長に無理させないし栄養管理もバッチリさせていただきますので!」
「つまりそれって・・・・」
私は微笑むと、課長は「よかった」と安心した表情を見せた。
それから嬉しそうに自分のカバンから婚姻届を出した。
そこには課長の名前と、証人には私の父の名前が刻まれていた。
後日、弟の淳から聞いた話によるとお母さんは大賛成だが、普段温厚なお父さんは何度も突き返したと言う。
しかし、課長の熱意に好感を持ちようやく認めてもらえたとのこと。
あとは私が記入し、役所に提出すれば晴れて夫婦となる。
婚約指輪も今日受け取ったのだが、これは残念なことに妊娠前の私の指の号数で購入していたためむくみで指輪が入らなくて課長は焦っていたが私は思わず笑ってしまった。
課長は、次の日には退院した。
久しぶりに私の手料理が食べたいと言う課長のリクエストに答え、マンションの部屋に上がるとカップラーメンとビールの空き缶と脱ぎ散らかした服で部屋が散乱していた。この部屋には本当に寝に帰るだけになっていたのだろう。
部屋の片付けを終えると、空き部屋になっていたところが変化していることに気がつく。
「え・・・これって・・・」
私は、目の前の光景に思わず呆然とする。
ベビーベッド、おもちゃ、洋服が置かれていた。小さくて可愛らしくて思わず微笑んでしまう。
「いや~~なんか俺浮かれちゃって思わず買っちゃったんだよね。あとこの服とかは俺の母さんが送ってくれた。
俺の親は、最初は驚いてたけどすごく喜んでくれた。また今度、挨拶に日本に来るって言ってた。琴音に会うの楽しみにしてたよ。」
照れ臭そうにいう課長が、なんだか可愛くて愛おしく思えてしまった。
なんだかんだ、この人は普段クールに見えて我が子にデレデレの親バカになりそうだ。
あの時は、子供いらないって言い張っていたくせに・・・と言うのを蒸し返すのはやめておこう。
時刻は、夜10時を回る。
「私、そろそろ帰ります。」
そういって用意を始めると、課長は寂しそうな顔をした。
「ちょっと待ってよ!寂しいよ~~せっかく一緒になれたのに。」
そういって私の腕を引いて後ろから優しく抱きしめる。
久しぶりに感じたこの温もりに安心する。
前の私なら、きっとそのまま泊まっていたと思う。
「まだ、籍入れてないんで。じゃあうちまで車で送ってください。」
ときっぱりと言う。
「え?なにそれ・・・・なんか琴音キャラ変わってない?」
私は、にっこりと笑った。
今まで男に振り回されてきた私だけど、尻に敷くのも悪くないと思ったり思わなかったり・・・
「母強し」そんな言葉が当てはまるのだろうか・・・
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