「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

水凪しおん

文字の大きさ
12 / 15

第11話「隣で戦うと決めたから」

しおりを挟む
「小僧、生意気な真似を!」

 俺が創り出した光の壁を見て、魔術師たちは一瞬怯んだものの、すぐに怒りをあらわにした。
 彼らは次々と呪文を唱え、炎の矢や氷の槍を壁に向かって放ってくる。
 その度に、壁が激しく震え、光が明滅した。
 魔力の消費が激しい。このままでは、長くは持たない。
 俺は歯を食いしばり、必死で壁を維持することに集中した。

「無駄だ! そんな付け焼き刃の防御、すぐに破れるわ!」

 リーダー格と思われる魔術師があざ笑う。
 彼の言葉通り、光の壁には少しずつ亀裂が入り始めていた。

 その時だった。

「アキ!」

 背後から、カイの力強い声が響いた。
 振り返ると、彼を縛っていた拘束魔法が解けていた。俺が壁を創り出したことで、魔術師たちの意識が逸れ、魔法の威力が弱まったらしい。
 自由になったカイは、傷ついた体を引きずるようにして俺の隣に立つと、再び人の姿へと戻った。
 その赤い瞳は、静かな、しかし底知れない怒りの炎を燃やしていた。

「よくやった、アキ。あとは俺に任せろ」

 彼はそう言うと、俺の肩をポンと叩き、一歩前に出た。

「お前たち……。俺の番に手を出そうとしたこと、万死に値する」

 地を這うような低い声。その声が響いた瞬間、周囲の空気が凍りついたかのように張り詰めた。
 カイの体から、これまで感じたことのないほど禍々しく、そして強大な魔力が溢れ出す。
 森の木々がざわめき、獣たちが恐怖の鳴き声を上げた。

「ひっ……!」

 魔術師たちの顔から、血の気が引いていくのが分かった。
 彼らは、森の王の真の怒りに触れてしまったのだ。

「だが、お前たちを殺すのは、俺ではない」

 カイは意外なことを口にした。
 彼は俺の方を振り返ると、少しだけ口角を上げた。

「アキ。やれるか?」
「え……?」

 突然の問いに、俺は戸惑う。

「お前の力を見せてみろ。お前はもう、守られるだけの弱い存在ではないのだろう?」

 カイの赤い瞳が、俺を試すように見つめている。
 彼は、俺に戦う機会を与えようとしてくれていた。ただ彼に守られるのではなく、彼の隣に立つパートナーとして、俺を認めてくれようとしていた。
 胸が、熱くなった。うなずきで応えると、俺はカイの隣に並び立ち、魔術師たちと対峙した。

「カイ。力を貸して」
「ああ。いくらでもくれてやる」

 俺はカイの手を強く握った。
 その瞬間、彼の強大な魔力が、俺の体の中へと流れ込んでくる。聖なる刻印が熱く脈打ち、全身に力がみなぎっていく。
 カイの魔力と俺の魔力が混じり合い、螺旋を描くように増幅していくのが分かった。
 これが、番同士の繋がり。一人では決して届かない領域の力。

「な、なんだ、こいつらの魔力は……!?」

 魔術師たちが、俺たちの尋常ではない魔力の高まりに気づき、狼狽している。

「もう、あなたたちに森を荒らさせない!」

 俺は叫び、握り合ったカイとの手から、増幅させた魔力を一気に解放した。
 それは、純粋な破壊の力ではなかった。俺の魔力の特性である「生成」の力が、カイの魔力によって強化され、森の木々や蔦、植物の生命力を爆発的に活性化させたのだ。
 地面から無数の蔦が、まるで巨大な蛇のように飛び出し、魔術師たちに襲いかかった。
 彼らは悲鳴を上げて魔法で応戦しようとするが、蔦は切られても、焼かれても、瞬時に再生し、その勢いは止まらない。
 やがて、全ての魔術師たちが蔦に絡めとられ、身動きが取れなくなってしまった。

「……見事だ、アキ」

 カイが、感嘆の声を漏らした。
 俺は荒い息をつきながらも、目の前の光景に達成感を覚えていた。
 自分の力で、カイと共に、敵を打ち負かすことができたのだ。
 カイは捕らえられた魔術師たちにゆっくりと歩み寄ると、冷徹な声で告げた。

「命までは取らん。だが、お前たちが二度とこの森に足を踏み入れ、魔法を使おうなどという気を起こさぬよう、その力の源は、この森が貰い受ける」

 カイが手をかざすと、蔦が魔術師たちにさらにきつく絡みつき、彼らの体から魔力が吸い上げられていくのが分かった。
 魔術師たちは苦悶の声を上げたが、やがてぐったりと意識を失った。

「こいつらは森の入り口に捨てておけば、仲間が回収するだろう。魔力を失った魔術師など、もはや何の脅威にもならない」

 全ての脅威が去った後、森に静寂が戻った。
 俺は緊張の糸が切れたように、その場にへたり込んだ。

「アキ!」

 カイが駆け寄り、俺の体を支えてくれる。

「よく頑張ったな。……すまない、お前にまで戦わせてしまって」
「ううん」

 俺は首を横に振った。

「謝らないで。……俺、嬉しかった。カイの隣で、一緒に戦えて」

 カイの役に立てたこと。彼に認められたこと。それが、何よりも嬉しかった。

「俺は、もう守られるだけじゃない。カイの番として、あなたの隣で生きていきたい。嬉しいことも、辛いことも、全部一緒に分け合いたい。だから……もう俺を鳥籠に閉じ込めないで」

 俺の真剣な訴えに、カイは一瞬目を見開いたが、やがて諦めたように小さく息をつくと、優しく微笑んだ。

「……分かった。お前が、そこまで言うのなら」

 彼は俺の体を強く抱きしめた。

「だが、無茶だけはするな。お前は、俺の唯一の弱点であり、同時に最大の力なのだから」

 その言葉は、最高の愛の言葉だった。
 俺は彼の胸に顔をうずめ、幸せを噛み締めるように、強くうなずいた。
 降り注ぐ木漏れ日の中で、俺たちは静かに互いの存在を確かめ合っていた。
 幾多の困難を乗り越え、俺たちの絆は、また一つ、強く、そして確かなものになったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける

てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」 庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。 そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――? 「カラヒ。おれの番いは嫌か」 助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。 どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。 どうして竜が言葉を話せるのか。 所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

私の番がスパダリだった件について惚気てもいいですか?

バナナマヨネーズ
BL
この世界の最強種である【バイパー】の青年ファイは、番から逃げるために自らに封印魔術を施した。 時は流れ、生きているうちに封印が解けたことを知ったファイは愕然とする間もなく番の存在に気が付くのだ。番を守るためにファイがとった行動は「どうか、貴方様の僕にしてください。ご主人様!!」という、とんでもないものだったが、何故かファイは僕として受け入れられてしまう。更には、番であるクロスにキスやそれ以上を求められてしまって? ※独自バース設定あり 全17話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

処理中です...