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「……失礼ですが、なぜ私が殿下を恐れるのでしょう?」
「なに?」
「確かに私はSubです。ですが、それが殿下を恐れる理由にはなりません。あなたがDomだとして、だからなんなのでしょう?」
「なっ……」
キッパリと告げれば、マクシミリアンの顔がみるみる内に怒りの色に染まっていった。
「生意気な……! たかだかSubの分際で──」
「たかだかと言われるような筋合いはございません」
「黙れ!! お前のような生き物が偉そうに!!」
お前のような──その言い方に、久しく思い出すことがなかった母を思い出した。
(……あの人も、同じようなことを言っていたな)
結局、思想も思考も人それぞれで、どうしようもないんだろうな……と少しばかり意識を逸らしたその時、マクシミリアンが叫んだ。
「『kneel』!」
「ッ!?」
突然のことに驚く間もなく、ドッと体が重くなり、膝が抜けそうになる。が、崩れそうになった両膝に瞬時に力を入れ、足元に意識を集中させると、侮蔑の視線をマクシミリアンに向けた。
「……なんのおつもりでしょう」
「は……?」
膝をつかなかったのが予想外だったのか、マクシミリアンが間の抜けた顔になる。
「あなたにそのように命じられる覚えはありません。従うつもりもない」
「貴様……っ!」
突然のコマンドに対する動揺よりも、ルノー以外のDomから命じられたことに対する怒りが湧いてくる。
恋仲でも、ましてコマンドを許した仲でもないSubに対し、Domが一方的にコマンドを使用するのはマナー違反だ。そんな当たり前のことすら、この男は知らないのか。
……いや、知らないはずがない。知っていて、己のDom性を過信し、王族であるという権力を振り翳し、それが当然の行為であるかのように振る舞ってきたのだろう。
「……これ以上は時間の無駄ですね。失礼致します」
睡眠薬で眠らせておいて放置するだけ、という点が不思議だったが、恐らくわざわざ拘束せずとも、Domの力で抑え込めると思っていたのだろう。
公私共にここにいる意味がなくなった今、マクシミリアンの顔を見ているのも嫌になってきた。
さっさとルノーの元へ行こう……そう思い、足を踏み出した直後、ゾクリとした悪寒が背筋を走った。
「ふざけるな!!」
「っ!?」
怒号と共に広がった重い空気。ハッとしてマクシミリアンを見遣れば、その瞳が色を変えていた。
Glare──そのオーラをぶつけられた瞬間、体が硬直し、動けなくなった。
「『kneel』!!」
「くっ……!」
二度目のコマンドは、一度目のそれとは異なり、耐えることができなかった。Glareの影響から体に力が入らず、カクリと膝が折れる。
ルノーのそれとは全く違う、不快感だけが纏わりつく圧に押し潰されそうになるも、ルノーではない、ましてやこんな男の言いなりになりたくなくて、崩れ落ちそうになった体を反射的に片膝で支えた。
「ぐっ……!」
ガツリと床に膝が当たり、衝撃で骨が軋む。けれど、今はその痛みのお陰でハッキリと意識を保つことができた。
床に手を着くことすら屈辱的で、なんとか片膝だけで体を支える間、マクシミリアンは自分勝手なことを叫んでいた。
「Sub風情が偉そうな口を聞くな!! Domに媚びへつらって体を売ることしかできない売女もどきが、でかい顔をしやがって……!! ちんけな賊を追い払った程度でもてはやされて、馬鹿どもに黒獅子なんぞと呼ばれて、さぞ気分が良かっただろうな!!」
「ッ……」
怒声と共に、Glareのオーラが濃くなるも、声を殺して耐える。ここで一瞬でも弱い部分を見せたら、この男を悦ばせるだけだ。
「何が英雄だ!! どいつもこいつもアルマンディン、アルマンディンと……っ、Domの言いなりになるだけの低俗な生き物と俺を一緒にしやがって!!」
(……なんだ?)
よほど興奮しているのか、自分に対する罵声の中に、他者に対する怒りが混じり始めた。その不安定さは危うく、じりじりと迫るような不安を煽った。
いっそこのまま勝手に叫び続けて自滅してくれたら助かるのだが、淡い期待も虚しく、突如それまで響いていた怒鳴り声がぴたりと止んだ。
「……お前のような生き物は、床に這いつくばっているのが似合いだ」
「うっ……!」
再び強まったGlareのオーラに、思わず呻き声が漏れるも、体勢は崩さなかった。
「ハッ! 流石は黒獅子様だなぁ。それとも、あの男爵家の生意気なガキに躾けられた成果か?」
「ッ!!」
男爵家の──その言葉が耳に届いた瞬間、全身の毛が逆立つような怒りが湧いた。
自身のダイナミクス性を知られていた時点で、ルノーのことも把握しているだろうことは予想がついていた。自分と付き合っているというだけで、ルノーに対する態度も悪くなるだろうとも思っていた。
自分に対し嫌味を言われるくらいならまだいい。けれど、ルノー自身を見下すような、彼が与えてくれたものを蔑むような物言いは、我慢がならなかった。
「お前のような人間が、彼のことを口にするな」
「……なに?」
危ういことをしている自覚はあった。でも、ここで黙っていられるほど、利口ではなかった。
「人を使って、薬に頼って、無理やり跪かせて、そうしてやっとDomらしく振る舞えるお前と、彼を一緒にしないでくれ。吐き気がする」
「──」
瞬間、マクシミリアンが真顔になった。この男にとって、一番屈辱的な言葉だったのだろう。
怒りの感情が振り切れたような一瞬の静寂の中、それでも睨みつけた視線は逸さなかった。
「……ああ、本当に腹が立つ」
静かな部屋の中、マクシミリアンの声がポツリと落ちた。刹那、ヒュッと風を切る音が聞こえ、咄嗟に両腕を上げた。
「つっ……!」
バチィンッと鋭い音が響き、同時に左手に焼けるような痛みが走った。
鞭で叩かれた──その事実はあまりにも現実離れしていて、痛みや恐怖よりも、信じられない気持ちのほうが強かった。
(正気か?)
一方的な暴力は、例え王族だろうと許されるものではない。
仮にDomとSubの愛情表現として、お互い同意の元で行われた行為ならば問題ないだろうが、自分とマクシミリアンの間にそのようなものはない。
ジンジンと痛む手を押さえながら、再び抗議しようとするも、見上げた先で目にしたマクシミリアンの不自然な笑みに、声が出なかった。
「いいだろう。お前みたいなのはまったく好みじゃないが、ペットとして躾けてやる」
「は……?」
いきなり訳の分からないことを言われ、素で聞き返すも、マクシミリアンは歪んだ笑みを浮かべるだけだった。
「しゃぶるくらいはできるだろう? それとも、まだあのガキのもしゃぶったことはないか?」
「──」
言葉の意味に気づき、全身に鳥肌が立つ。
「なんだ、図星か? それはいい。あのガキの代わりに躾けてやる。……いや、他の奴らに遊んでもらったほうが覚えが早いな。黒獅子様を犯せると知ったら、皆喜んで集まるだろうよ。ああ、そうだ。下品に腰を振れるようになったら、褒美としてあのガキの前で犯してやろう」
耳障りな声で、癪に障る表情で、その喉を潰してやりたくなるような言葉を吐くマクシミリアンの醜悪さに、元よりあった嫌悪感が増していく。
(気持ち悪い)
そんな感情が芽生えるのと同時に、ふと、またあの人のことを思い出した。
(……母も、こんな気持ちだったんだろうか)
もしも、もしも母の知るDom像というものが、マクシミリアンのような人として最低なものだったら……そのDomに喜んで従うSubは、どれほど気持ちが悪かっただろう。
勿論、世にいる多くのDomとSubは、マクシミリアンと違う。いや、中にはそういったプレイを好む者達もいるだろうが、それは限られた相手に対してのみ許された行為だ。
それを自分は知っている。けれど、もしそれらを知らなければ、DomとSubは『そういうもの』だとしか知らなければ、すべてに対して嫌悪の情を抱いても、仕方なかったのではないだろうか……と。
(もう、知ることもできないけれど……)
故人の胸の内は分からない。憶測でしかない。だから、それ以上は考えない。
ただ今は、目の前で醜く笑う男に、これ以上の優越感も満足感も与えてなるものか、と気力で立ちあがろうとした。
「! おい! 誰が立っていいと──」
「お前に従う道理はない」
自分にとって唯一の存在はルノーだ。彼以外の前に、跪きたくない。
「『kneel』!!」
「くっ……!」
力の入らない体を叱咤し、なんとか腰を浮きかけるも、再びのコマンドに膝が折れる。
Subとしての本能と、ベルナール・アルマンディンとしての意思が反発し合い、息苦しさから額にじわりと汗が滲んだ。
ああ、こんな時こそ、己の性が恨めしい。従いたくない、嫌だと思っていても、気持ちとは関係なく、体が反応してしまう。
これが愛しい人からのコマンドなら、どんなにか幸せなのに……そんなことを考えながら、マクシミリアンを見上げた。
お前の言いなりにはならない──強い意志を込めて睨みつければ、再び風を切る音がした。
「っ……!」
身を守るように上げた腕、その服越しに強く叩かれた感覚が残る。
「二度と生意気な口がきけないように、徹底的に躾けてやる」
そう凄まれても、大して怖くはなかった。
自分がマクシミリアンに呼び出されたことは、家の者が知っている。帰りが遅ければ、流石におかしいと気づき、助けを寄越してくれるだろう。
例えどれだけ痛めつけられようと、マクシミリアンに従う気は微塵もない。痛みだって、一時のものだと思えば耐えられる。その後は、今回の行為に対して、正式に抗議すれば済む話だ。
ただ一つ、この身に傷をつけることで、ルノーを悲しませてしまうことが悔しくて、悲しくて堪らなかった。
ああ、自分の不注意で、また大好きな人を悲しませてしまう──振り上げられたマクシミリアンの腕を見ながら、後悔からツキリと胸が痛んだ。
「なに?」
「確かに私はSubです。ですが、それが殿下を恐れる理由にはなりません。あなたがDomだとして、だからなんなのでしょう?」
「なっ……」
キッパリと告げれば、マクシミリアンの顔がみるみる内に怒りの色に染まっていった。
「生意気な……! たかだかSubの分際で──」
「たかだかと言われるような筋合いはございません」
「黙れ!! お前のような生き物が偉そうに!!」
お前のような──その言い方に、久しく思い出すことがなかった母を思い出した。
(……あの人も、同じようなことを言っていたな)
結局、思想も思考も人それぞれで、どうしようもないんだろうな……と少しばかり意識を逸らしたその時、マクシミリアンが叫んだ。
「『kneel』!」
「ッ!?」
突然のことに驚く間もなく、ドッと体が重くなり、膝が抜けそうになる。が、崩れそうになった両膝に瞬時に力を入れ、足元に意識を集中させると、侮蔑の視線をマクシミリアンに向けた。
「……なんのおつもりでしょう」
「は……?」
膝をつかなかったのが予想外だったのか、マクシミリアンが間の抜けた顔になる。
「あなたにそのように命じられる覚えはありません。従うつもりもない」
「貴様……っ!」
突然のコマンドに対する動揺よりも、ルノー以外のDomから命じられたことに対する怒りが湧いてくる。
恋仲でも、ましてコマンドを許した仲でもないSubに対し、Domが一方的にコマンドを使用するのはマナー違反だ。そんな当たり前のことすら、この男は知らないのか。
……いや、知らないはずがない。知っていて、己のDom性を過信し、王族であるという権力を振り翳し、それが当然の行為であるかのように振る舞ってきたのだろう。
「……これ以上は時間の無駄ですね。失礼致します」
睡眠薬で眠らせておいて放置するだけ、という点が不思議だったが、恐らくわざわざ拘束せずとも、Domの力で抑え込めると思っていたのだろう。
公私共にここにいる意味がなくなった今、マクシミリアンの顔を見ているのも嫌になってきた。
さっさとルノーの元へ行こう……そう思い、足を踏み出した直後、ゾクリとした悪寒が背筋を走った。
「ふざけるな!!」
「っ!?」
怒号と共に広がった重い空気。ハッとしてマクシミリアンを見遣れば、その瞳が色を変えていた。
Glare──そのオーラをぶつけられた瞬間、体が硬直し、動けなくなった。
「『kneel』!!」
「くっ……!」
二度目のコマンドは、一度目のそれとは異なり、耐えることができなかった。Glareの影響から体に力が入らず、カクリと膝が折れる。
ルノーのそれとは全く違う、不快感だけが纏わりつく圧に押し潰されそうになるも、ルノーではない、ましてやこんな男の言いなりになりたくなくて、崩れ落ちそうになった体を反射的に片膝で支えた。
「ぐっ……!」
ガツリと床に膝が当たり、衝撃で骨が軋む。けれど、今はその痛みのお陰でハッキリと意識を保つことができた。
床に手を着くことすら屈辱的で、なんとか片膝だけで体を支える間、マクシミリアンは自分勝手なことを叫んでいた。
「Sub風情が偉そうな口を聞くな!! Domに媚びへつらって体を売ることしかできない売女もどきが、でかい顔をしやがって……!! ちんけな賊を追い払った程度でもてはやされて、馬鹿どもに黒獅子なんぞと呼ばれて、さぞ気分が良かっただろうな!!」
「ッ……」
怒声と共に、Glareのオーラが濃くなるも、声を殺して耐える。ここで一瞬でも弱い部分を見せたら、この男を悦ばせるだけだ。
「何が英雄だ!! どいつもこいつもアルマンディン、アルマンディンと……っ、Domの言いなりになるだけの低俗な生き物と俺を一緒にしやがって!!」
(……なんだ?)
よほど興奮しているのか、自分に対する罵声の中に、他者に対する怒りが混じり始めた。その不安定さは危うく、じりじりと迫るような不安を煽った。
いっそこのまま勝手に叫び続けて自滅してくれたら助かるのだが、淡い期待も虚しく、突如それまで響いていた怒鳴り声がぴたりと止んだ。
「……お前のような生き物は、床に這いつくばっているのが似合いだ」
「うっ……!」
再び強まったGlareのオーラに、思わず呻き声が漏れるも、体勢は崩さなかった。
「ハッ! 流石は黒獅子様だなぁ。それとも、あの男爵家の生意気なガキに躾けられた成果か?」
「ッ!!」
男爵家の──その言葉が耳に届いた瞬間、全身の毛が逆立つような怒りが湧いた。
自身のダイナミクス性を知られていた時点で、ルノーのことも把握しているだろうことは予想がついていた。自分と付き合っているというだけで、ルノーに対する態度も悪くなるだろうとも思っていた。
自分に対し嫌味を言われるくらいならまだいい。けれど、ルノー自身を見下すような、彼が与えてくれたものを蔑むような物言いは、我慢がならなかった。
「お前のような人間が、彼のことを口にするな」
「……なに?」
危ういことをしている自覚はあった。でも、ここで黙っていられるほど、利口ではなかった。
「人を使って、薬に頼って、無理やり跪かせて、そうしてやっとDomらしく振る舞えるお前と、彼を一緒にしないでくれ。吐き気がする」
「──」
瞬間、マクシミリアンが真顔になった。この男にとって、一番屈辱的な言葉だったのだろう。
怒りの感情が振り切れたような一瞬の静寂の中、それでも睨みつけた視線は逸さなかった。
「……ああ、本当に腹が立つ」
静かな部屋の中、マクシミリアンの声がポツリと落ちた。刹那、ヒュッと風を切る音が聞こえ、咄嗟に両腕を上げた。
「つっ……!」
バチィンッと鋭い音が響き、同時に左手に焼けるような痛みが走った。
鞭で叩かれた──その事実はあまりにも現実離れしていて、痛みや恐怖よりも、信じられない気持ちのほうが強かった。
(正気か?)
一方的な暴力は、例え王族だろうと許されるものではない。
仮にDomとSubの愛情表現として、お互い同意の元で行われた行為ならば問題ないだろうが、自分とマクシミリアンの間にそのようなものはない。
ジンジンと痛む手を押さえながら、再び抗議しようとするも、見上げた先で目にしたマクシミリアンの不自然な笑みに、声が出なかった。
「いいだろう。お前みたいなのはまったく好みじゃないが、ペットとして躾けてやる」
「は……?」
いきなり訳の分からないことを言われ、素で聞き返すも、マクシミリアンは歪んだ笑みを浮かべるだけだった。
「しゃぶるくらいはできるだろう? それとも、まだあのガキのもしゃぶったことはないか?」
「──」
言葉の意味に気づき、全身に鳥肌が立つ。
「なんだ、図星か? それはいい。あのガキの代わりに躾けてやる。……いや、他の奴らに遊んでもらったほうが覚えが早いな。黒獅子様を犯せると知ったら、皆喜んで集まるだろうよ。ああ、そうだ。下品に腰を振れるようになったら、褒美としてあのガキの前で犯してやろう」
耳障りな声で、癪に障る表情で、その喉を潰してやりたくなるような言葉を吐くマクシミリアンの醜悪さに、元よりあった嫌悪感が増していく。
(気持ち悪い)
そんな感情が芽生えるのと同時に、ふと、またあの人のことを思い出した。
(……母も、こんな気持ちだったんだろうか)
もしも、もしも母の知るDom像というものが、マクシミリアンのような人として最低なものだったら……そのDomに喜んで従うSubは、どれほど気持ちが悪かっただろう。
勿論、世にいる多くのDomとSubは、マクシミリアンと違う。いや、中にはそういったプレイを好む者達もいるだろうが、それは限られた相手に対してのみ許された行為だ。
それを自分は知っている。けれど、もしそれらを知らなければ、DomとSubは『そういうもの』だとしか知らなければ、すべてに対して嫌悪の情を抱いても、仕方なかったのではないだろうか……と。
(もう、知ることもできないけれど……)
故人の胸の内は分からない。憶測でしかない。だから、それ以上は考えない。
ただ今は、目の前で醜く笑う男に、これ以上の優越感も満足感も与えてなるものか、と気力で立ちあがろうとした。
「! おい! 誰が立っていいと──」
「お前に従う道理はない」
自分にとって唯一の存在はルノーだ。彼以外の前に、跪きたくない。
「『kneel』!!」
「くっ……!」
力の入らない体を叱咤し、なんとか腰を浮きかけるも、再びのコマンドに膝が折れる。
Subとしての本能と、ベルナール・アルマンディンとしての意思が反発し合い、息苦しさから額にじわりと汗が滲んだ。
ああ、こんな時こそ、己の性が恨めしい。従いたくない、嫌だと思っていても、気持ちとは関係なく、体が反応してしまう。
これが愛しい人からのコマンドなら、どんなにか幸せなのに……そんなことを考えながら、マクシミリアンを見上げた。
お前の言いなりにはならない──強い意志を込めて睨みつければ、再び風を切る音がした。
「っ……!」
身を守るように上げた腕、その服越しに強く叩かれた感覚が残る。
「二度と生意気な口がきけないように、徹底的に躾けてやる」
そう凄まれても、大して怖くはなかった。
自分がマクシミリアンに呼び出されたことは、家の者が知っている。帰りが遅ければ、流石におかしいと気づき、助けを寄越してくれるだろう。
例えどれだけ痛めつけられようと、マクシミリアンに従う気は微塵もない。痛みだって、一時のものだと思えば耐えられる。その後は、今回の行為に対して、正式に抗議すれば済む話だ。
ただ一つ、この身に傷をつけることで、ルノーを悲しませてしまうことが悔しくて、悲しくて堪らなかった。
ああ、自分の不注意で、また大好きな人を悲しませてしまう──振り上げられたマクシミリアンの腕を見ながら、後悔からツキリと胸が痛んだ。
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