『お前よりも好きな娘がいる』と婚約を破棄させられた令嬢は、最強の魔法使いだった~捨てた王子と解放した令嬢の結末~

キョウキョウ

文字の大きさ
3 / 36

第3話 優しさに触れて

しおりを挟む
 婚約破棄の件は、まだ世間に公表されていない。色々と手続きが必要だったので、それを周りに知られないようにカモフラージュするため、今も私はアルフレッド王子がいる部屋に通っていた。

 もちろん、アルフレッド王子と顔を合わせないといけないわけで。

「エレノア、手続きはまだ終わらないのか? ちょっと、長すぎないか?」

 アルフレッド王子は、不満げな表情で尋ねる。以前なら、もっと丁寧に気遣ってくれたはずなのに。今の彼は、私との婚約を早く解消したくてうずうずしているようだ。そのくせに、手続きをすべてコチラに丸投げ。

「手続きには時間がかかるのよ。何度も説明したはずだけど……」

 これで何度目だと、私はイライラする気持ちを必死で抑えながら言い放った。

「本当か? もしかして君は、無駄に時間を稼いで裏でなんとかしようとしている、とか思ったが違うようだな」

 アルフレッド王子は、疑うような目で私を見てくる。そんなわけない。この男は、本当に私を不機嫌にさせる天才だ。疑うのなら自分で動けばいいのに。

 以前までの彼なら、こういうことも手助けしてくれた。でも今は助けてくれない。どうやら彼は、愛する女性のためにしか動かないようだ。そして、私は対象外。

「……そんなことはないわ。すべての手続きが終わるまで、もうしばらく待ってください」
「時間は有限なんだ。早くしてくれよな」

 私は感情を抑えながら、言葉を絞り出した。彼はもういい加減にしてほしい。私だって、この状況を早く終わらせたいのに。



 アルフレッド王子との面倒な顔合わせを終え、私は重い足取りで部屋を出てきた。そのとき、優しげな男性の声が私を呼び止めた。聞き覚えのある男性の声。

「エレノア、どうしたんだ? 暗い顔をしているが……」

 振り向くと、そこには第二王子のエドガー様が立っていた。心配そうな眼差しで私を見つめている。

「エドガー様」

 どうやら彼は、私とアルフレッド王子が婚約を破棄した件を知らないようだ。

 私は迷った。正直に話してもいいものか。ここで秘密を漏らしてしまうと、私や私の実家の都合が悪くなるかもしれない。後先考えずに話すべきではない。

「ん?」

 でも、彼の心配そうな表情を見ていると、すべてを打ち明けたい気持ちになった。信じて話してみよう。そうしないと、私の気持ちが落ち着かないと思ったから。

「実は、アルフレッド王子との婚約が破棄されることになったの」
「なに?」

 私は婚約を破棄することになったこと。その経緯を、エドガー王子に打ち明けた。アルフレッド王子が他の女性を愛していること、私から婚約破棄を申し出るよう求められたことなど、事の次第を隠さずに話した。

「なんてことだ。信じられない。兄上がそんなことを……。本気か?」

 エドガー王子は、私の話を聞いて驚きを隠せない様子だった。

「エレノア、君は大丈夫なのか?」

 彼は私の手を取り、真摯な眼差しで尋ねる。

「ええ、今はショックも冷めて、前を向こうとしているわ。けれど、正直に言うと、まだ心の整理がついていないの」
「そうだろうな。君の気持ちはよくわかる」

 エドガー王子は、適切な距離を保ちながらも、優しい言葉で私を励ましてくれた。私を思いやる彼の姿勢に、私は感謝の気持ちでいっぱいになる。

「エドガー様、こんなに親身になってくれて、ありがとう。あなたの優しさに、救われた気がするわ」
「君は強い人だと思う。これからも、君らしく前を向いて歩んでいってほしい。私は君の味方だ」

 彼の言葉に、私は心が温かくなるのを感じた。アルフレッド王子への失望と裏腹に、エドガー王子への信頼が芽生えていく。

 今までエドガー王子と、そんなに交流があったわけではない。だから、彼の新しい一面を知った。こんな王子もいるのだと、新しい発見だった。

 もしもアルフレッド王子ではなく、エドガー王子が私の婚約相手だったなら。こんなに苦しい思いなどせずに済んだのかもしれない。

 でも、それは全く無意味な妄想。私の婚約相手はアルフレッド王子で、その婚約も破棄するようにと言われた。それが現実。

 でも、彼に話を聞いてもらって気持ちが癒やされたのも事実。

「ありがとう。エドガー様の優しさ、決して忘れないわ」
「困ったときは、いつでも私に頼ってほしい。君の力になりたいと思っている」

 私は、エドガー王子に感謝を伝えた。少し前まであった、イライラした気持ちが和らいだから。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

『婚約破棄はご自由に。──では、あなた方の“嘘”をすべて暴くまで、私は学園で優雅に過ごさせていただきます』

佐伯かなた
恋愛
 卒業後の社交界の場で、フォーリア・レーズワースは一方的に婚約破棄を宣告された。  理由は伯爵令嬢リリシアを“旧西校舎の階段から突き落とした”という虚偽の罪。  すでに場は整えられ、誰もが彼女を断罪するために招かれ、驚いた姿を演じていた──最初から結果だけが決まっている出来レース。  家名にも傷がつき、貴族社会からは牽制を受けるが、フォーリアは怯むことなく、王国の中央都市に存在する全寮制のコンバシオ学園へ。  しかし、そこでは婚約破棄の噂すら曖昧にぼかされ、国外から来た生徒は興味を向けるだけで侮蔑の視線はない。  ──情報が統制されている? 彼らは、何を隠したいの?  静かに観察する中で、フォーリアは気づく。  “婚約破棄を急いで既成事実にしたかった誰か”が必ずいると。  歪んだ陰謀の糸は、学園の中にも外にも伸びていた。  そしてフォーリアは決意する。  あなた方が“嘘”を事実にしたいのなら──私は“真実”で全てを焼き払う、と。  

平民を好きになった婚約者は、私を捨てて破滅するようです

天宮有
恋愛
「聖女ローナを婚約者にするから、セリスとの婚約を破棄する」  婚約者だった公爵令息のジェイクに、子爵令嬢の私セリスは婚約破棄を言い渡されてしまう。  ローナを平民だと見下し傷つけたと嘘の報告をされて、周囲からも避けられるようになっていた。  そんな中、家族と侯爵令息のアインだけは力になってくれて、私はローナより聖女の力が強かった。  聖女ローナの評判は悪く、徐々に私の方が聖女に相応しいと言われるようになって――ジェイクは破滅することとなっていた。

お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました

柚木ゆず
恋愛
 侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。  そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。  しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?

【完結】よりを戻したいですって?  ごめんなさい、そんなつもりはありません

ノエル
恋愛
ある日、サイラス宛に同級生より手紙が届く。中には、婚約破棄の原因となった事件の驚くべき真相が書かれていた。 かつて侯爵令嬢アナスタシアは、誠実に婚約者サイラスを愛していた。だが、サイラスは男爵令嬢ユリアに心を移していた、 卒業パーティーの夜、ユリアに無実の罪を着せられてしまったアナスタシア。怒ったサイラスに婚約破棄されてしまう。 ユリアの主張を疑いもせず受け入れ、アナスタシアを糾弾したサイラス。 後で真実を知ったからと言って、今さら現れて「結婚しよう」と言われても、答えは一つ。 「 ごめんなさい、そんなつもりはありません」 アナスタシアは失った名誉も、未来も、自分の手で取り戻す。一方サイラスは……。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

処理中です...