32 / 36
第32話 予期せぬ提案
しおりを挟む
国王陛下に呼び出されて、私はお城にやって来た。どうやら、アルフレッド王子とヴァネッサに嫌がらせされた件について話したいそうだ。
もう既に、エドガー王子に事情はすべて話していたので、報告も届いているはず。私から直接聞くこともないはずだけど、陛下の指示に従い、陛下が待っているという部屋に入った。
「よく来てくれた、エレノア嬢」
「お目にかかれて光栄です、陛下」
片足を後ろに引き、もう片方の膝を軽く曲げて挨拶を交わす。陛下の他に、何名か大人たちがいた。彼らは大臣かしら。
椅子に向かい合って座り、会話がスタートする。エドガー様も一緒にいてくれたら心強いんだけど。そう思いながら、聞かれたことを答えていく。かなり緊張する。変なことを言わないように注意しないと。
広場の件についての質疑応答も終わって、これで帰れると思っていたら、まだ質問が続いた。
「迷惑をかけた謝罪と、エドガーの働きを助けてくれたお礼を渡したい。何か希望があれば聞くが、どうだ?」
「えーっと」
いきなりの問いかけに、私は答えを窮して考え込んでしまう。むしろ、私のほうがエドガー様に助けてもらったのに。そう言うと、陛下のご厚意を無駄にしてしまうかも。どう答えるべきかしら。
金品の要求は、下品かしら。王家の宝物を欲しいとは言えないし、適切なものが思い浮かばなかった。あまり強欲なものは、アークライト家の品位を下げてしまうし。そもそも、お礼を渡されることなんて考えていなかったし、何をお願いするべきか。本当に難問だった。
次の機会に、とは言えないわよね。この場でなにか答えないと。
それなら、思いついたことを言ってしまいましょう。勢いに任せて、言ってみる。
「でしたら、アルフレッド王子の王位継承権を剥奪してほしいです」
「ふむ、なるほど」
言ってから、ハッとした。これは、ダメだったかもしれない。王家の事情に口出しするなんて、不敬罪で罰せられる可能性だってある。
けれども、彼のような人物が次期王なんて望んでない。アルフレッド王子が王国を上手く統治するヴィジョンが全く見えないから。これも、不敬かしら。
顎に手を当て、しばらく考えていた陛下は、私の顔を見て言った。
「わかった、君の言う通りにしようか」
「ありがとうございます。出過ぎた真似をして、申し訳ありません」
まさか、すぐに受け入れられるなんてと驚く。
「別にいいさ。実は、そのことについて以前から考えていた」
そうだったのね。私のお願いが、陛下の背中を押す形になってしまったみたい。私のような小娘の戯言で。本当に、いいのかしら。
「それより、コチラからも一つお願いしたことがあるが、いいか?」
「もちろんです。なんでしょうか?」
陛下からのお願いを拒否するなんてこと、出来ないわ。内容を聞いて、どうやって達成するべきか考えるのよ。
「改めて君に、エドガーと婚約してもらいたいと考えている」
「え? ……エドガー様と、私が、婚約?」
なんて言われたのかを理解できなくて、変な感覚。こんやく、って婚約のこと? 私は、王族の一人であるアルフレッド王子から婚約を破棄されたのに。
「アルフレッドの継承権を剥奪し、エドガーを継承権第一位に繰り上げる。そこで、君にはエドガーの妻として、王妃として支えてもらいたい」
「そ、それは」
そう言われて、イメージする。私がエドガー様の横に立つ姿を。とても明確に思い浮かんだ。でも、それは許されることなの?
「あれから、まだ婚約相手は決まっていないと聞いている。だが、既に相手が決まりそうであれば、遠慮なく拒否してくれて構わない。それとも、君がエドガーのことを嫌っているのであれば、別の――」
「い、いえ! エドガー様のこと、嫌っていません。むしろ、いつも助けてくれて、頼りがいがあって、す、好きなお方、です!」
勝手に口が、そう言っていた。それを聞いて笑みを浮かべる陛下たち。顔が熱い。
「わかった。それなら、エドガーを頼む」
「えっと、はい。わかりました」
こうして私は、エドガー様と婚約を結ぶことになった。まさか、こんなことになるなんて。
もう既に、エドガー王子に事情はすべて話していたので、報告も届いているはず。私から直接聞くこともないはずだけど、陛下の指示に従い、陛下が待っているという部屋に入った。
「よく来てくれた、エレノア嬢」
「お目にかかれて光栄です、陛下」
片足を後ろに引き、もう片方の膝を軽く曲げて挨拶を交わす。陛下の他に、何名か大人たちがいた。彼らは大臣かしら。
椅子に向かい合って座り、会話がスタートする。エドガー様も一緒にいてくれたら心強いんだけど。そう思いながら、聞かれたことを答えていく。かなり緊張する。変なことを言わないように注意しないと。
広場の件についての質疑応答も終わって、これで帰れると思っていたら、まだ質問が続いた。
「迷惑をかけた謝罪と、エドガーの働きを助けてくれたお礼を渡したい。何か希望があれば聞くが、どうだ?」
「えーっと」
いきなりの問いかけに、私は答えを窮して考え込んでしまう。むしろ、私のほうがエドガー様に助けてもらったのに。そう言うと、陛下のご厚意を無駄にしてしまうかも。どう答えるべきかしら。
金品の要求は、下品かしら。王家の宝物を欲しいとは言えないし、適切なものが思い浮かばなかった。あまり強欲なものは、アークライト家の品位を下げてしまうし。そもそも、お礼を渡されることなんて考えていなかったし、何をお願いするべきか。本当に難問だった。
次の機会に、とは言えないわよね。この場でなにか答えないと。
それなら、思いついたことを言ってしまいましょう。勢いに任せて、言ってみる。
「でしたら、アルフレッド王子の王位継承権を剥奪してほしいです」
「ふむ、なるほど」
言ってから、ハッとした。これは、ダメだったかもしれない。王家の事情に口出しするなんて、不敬罪で罰せられる可能性だってある。
けれども、彼のような人物が次期王なんて望んでない。アルフレッド王子が王国を上手く統治するヴィジョンが全く見えないから。これも、不敬かしら。
顎に手を当て、しばらく考えていた陛下は、私の顔を見て言った。
「わかった、君の言う通りにしようか」
「ありがとうございます。出過ぎた真似をして、申し訳ありません」
まさか、すぐに受け入れられるなんてと驚く。
「別にいいさ。実は、そのことについて以前から考えていた」
そうだったのね。私のお願いが、陛下の背中を押す形になってしまったみたい。私のような小娘の戯言で。本当に、いいのかしら。
「それより、コチラからも一つお願いしたことがあるが、いいか?」
「もちろんです。なんでしょうか?」
陛下からのお願いを拒否するなんてこと、出来ないわ。内容を聞いて、どうやって達成するべきか考えるのよ。
「改めて君に、エドガーと婚約してもらいたいと考えている」
「え? ……エドガー様と、私が、婚約?」
なんて言われたのかを理解できなくて、変な感覚。こんやく、って婚約のこと? 私は、王族の一人であるアルフレッド王子から婚約を破棄されたのに。
「アルフレッドの継承権を剥奪し、エドガーを継承権第一位に繰り上げる。そこで、君にはエドガーの妻として、王妃として支えてもらいたい」
「そ、それは」
そう言われて、イメージする。私がエドガー様の横に立つ姿を。とても明確に思い浮かんだ。でも、それは許されることなの?
「あれから、まだ婚約相手は決まっていないと聞いている。だが、既に相手が決まりそうであれば、遠慮なく拒否してくれて構わない。それとも、君がエドガーのことを嫌っているのであれば、別の――」
「い、いえ! エドガー様のこと、嫌っていません。むしろ、いつも助けてくれて、頼りがいがあって、す、好きなお方、です!」
勝手に口が、そう言っていた。それを聞いて笑みを浮かべる陛下たち。顔が熱い。
「わかった。それなら、エドガーを頼む」
「えっと、はい。わかりました」
こうして私は、エドガー様と婚約を結ぶことになった。まさか、こんなことになるなんて。
1,444
あなたにおすすめの小説
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
『婚約破棄はご自由に。──では、あなた方の“嘘”をすべて暴くまで、私は学園で優雅に過ごさせていただきます』
佐伯かなた
恋愛
卒業後の社交界の場で、フォーリア・レーズワースは一方的に婚約破棄を宣告された。
理由は伯爵令嬢リリシアを“旧西校舎の階段から突き落とした”という虚偽の罪。
すでに場は整えられ、誰もが彼女を断罪するために招かれ、驚いた姿を演じていた──最初から結果だけが決まっている出来レース。
家名にも傷がつき、貴族社会からは牽制を受けるが、フォーリアは怯むことなく、王国の中央都市に存在する全寮制のコンバシオ学園へ。
しかし、そこでは婚約破棄の噂すら曖昧にぼかされ、国外から来た生徒は興味を向けるだけで侮蔑の視線はない。
──情報が統制されている? 彼らは、何を隠したいの?
静かに観察する中で、フォーリアは気づく。
“婚約破棄を急いで既成事実にしたかった誰か”が必ずいると。
歪んだ陰謀の糸は、学園の中にも外にも伸びていた。
そしてフォーリアは決意する。
あなた方が“嘘”を事実にしたいのなら──私は“真実”で全てを焼き払う、と。
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。
けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。
悪夢はそれで終わらなかった。
ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。
嵌められてしまった。
その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。
裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。
※他サイト様でも公開中です。
2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。
本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。
【完結】よりを戻したいですって? ごめんなさい、そんなつもりはありません
ノエル
恋愛
ある日、サイラス宛に同級生より手紙が届く。中には、婚約破棄の原因となった事件の驚くべき真相が書かれていた。
かつて侯爵令嬢アナスタシアは、誠実に婚約者サイラスを愛していた。だが、サイラスは男爵令嬢ユリアに心を移していた、
卒業パーティーの夜、ユリアに無実の罪を着せられてしまったアナスタシア。怒ったサイラスに婚約破棄されてしまう。
ユリアの主張を疑いもせず受け入れ、アナスタシアを糾弾したサイラス。
後で真実を知ったからと言って、今さら現れて「結婚しよう」と言われても、答えは一つ。
「 ごめんなさい、そんなつもりはありません」
アナスタシアは失った名誉も、未来も、自分の手で取り戻す。一方サイラスは……。
「無理をするな」と言うだけで何もしなかったあなたへ。今の私は、大公家の公子に大切にされています
葵 すみれ
恋愛
「無理をするな」と言いながら、仕事も責任も全部私に押しつけてきた婚約者。
倒れた私にかけたのは、労りではなく「失望した」の一言でした。
実家からも見限られ、すべてを失った私を拾い上げてくれたのは、黙って手を差し伸べてくれた、黒髪の騎士──
実は、大公家の第三公子でした。
もう言葉だけの優しさはいりません。
私は今、本当に無理をしなくていい場所で、大切にされています。
※他サイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる