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悪魔の贈り物
③いかり
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──ああ、気が滅入る。
人間の世話なんてやりたくない。
こいつが魔王様にふさわしくない最低の奴だったら、俺もそれなりの対応をしたってのに。
教養もないし、何もない所で躓くような奴だし、何か特技があるわけでもないけれど。慣れないことにも一生懸命で、いつも笑顔で、馬鹿みたいに健気だ。
魔王様はそういうところに惹かれたんだろうか。俺だって、心を尽くしてきたのに。
あーあ、そんな奴にわざわざ魔界について教えてやってる俺もだいぶ健気だと思うんだけどな。あとでニードに愚痴ったら、また抱きしめてくれるかな。
……なんだろ、ニードのおかげでいつもよりイライラしてないかも。
「あっ、ルルビーさん。今日もよろしくお願いします」
部屋に入ると、人間が歴史書を抱えて立っていた。まだ俺が教えていないところだ。読み終わったらしく、本棚に戻そうとしている。……独学で勉強しているとか、魔王様が知ったらもっと気に入るんだろうな。
「予習してるみたいだし、ちゃっちゃと終わらせるから。そこまで進んでるんならあとはもう……、っ……!?」
ひゅっと喉が嫌な音を立てた。
人間の、手首。そこに巻かれている腕輪が、見覚えのある物だったから。
「なあ……、それ。どうしたんだ……?」
「え?このブレスレットですか?」
歴史書をきっちり戻した後、戸惑ったように腕輪に視線を向ける人間。そして、はにかむように微笑んだ。
「ヴィラル様からいただいたんです。守護の加護があるから、と」
それは。
俺が作って、魔王様に贈った物だ。
贈った物を魔王様が捨てようがどうしようが、俺にはもう関係ない。
でも、だけど。
俺でさえ呼べなかった魔王様の御名を事も無げに呼んで、大事そうに腕輪を見つめる人間のことが。
どうしても、許せなかった。
「っ……、外せ!返せよ!!それはお前にやった物じゃない!魔王様の物だ!魔王様に返せ……っっ!!」
「えっ、ルルビーさ、痛……っ!」
力は俺の方が強いんだ。人間の手首は細くて、ちょっと強く握れば折れてしまいそうだった。ぶかぶかな腕輪を引きちぎるように奪おうとした、その瞬間。
目の前が、真っ赤になった。
「へ、あ、ぎゃああああぁっ!!」
「ルっ、ルルビーさん!?炎が……!」
「近寄るな、ミツ」
「ヴィラル様!?い、いつの間に……っ、あ、そっ、それより、ルルビーさんが!」
熱い。熱い、熱い、熱い熱い……!俺、どうなってる?燃えてるのか?
赤くなった視界でも、魔王様の姿ははっきり見えた。人間につけた引っかき傷を治癒しながら、俺のことを冷たい瞳で射貫く、魔王様が。
──ああ、気が滅入る。
人間の世話なんてやりたくない。
こいつが魔王様にふさわしくない最低の奴だったら、俺もそれなりの対応をしたってのに。
教養もないし、何もない所で躓くような奴だし、何か特技があるわけでもないけれど。慣れないことにも一生懸命で、いつも笑顔で、馬鹿みたいに健気だ。
魔王様はそういうところに惹かれたんだろうか。俺だって、心を尽くしてきたのに。
あーあ、そんな奴にわざわざ魔界について教えてやってる俺もだいぶ健気だと思うんだけどな。あとでニードに愚痴ったら、また抱きしめてくれるかな。
……なんだろ、ニードのおかげでいつもよりイライラしてないかも。
「あっ、ルルビーさん。今日もよろしくお願いします」
部屋に入ると、人間が歴史書を抱えて立っていた。まだ俺が教えていないところだ。読み終わったらしく、本棚に戻そうとしている。……独学で勉強しているとか、魔王様が知ったらもっと気に入るんだろうな。
「予習してるみたいだし、ちゃっちゃと終わらせるから。そこまで進んでるんならあとはもう……、っ……!?」
ひゅっと喉が嫌な音を立てた。
人間の、手首。そこに巻かれている腕輪が、見覚えのある物だったから。
「なあ……、それ。どうしたんだ……?」
「え?このブレスレットですか?」
歴史書をきっちり戻した後、戸惑ったように腕輪に視線を向ける人間。そして、はにかむように微笑んだ。
「ヴィラル様からいただいたんです。守護の加護があるから、と」
それは。
俺が作って、魔王様に贈った物だ。
贈った物を魔王様が捨てようがどうしようが、俺にはもう関係ない。
でも、だけど。
俺でさえ呼べなかった魔王様の御名を事も無げに呼んで、大事そうに腕輪を見つめる人間のことが。
どうしても、許せなかった。
「っ……、外せ!返せよ!!それはお前にやった物じゃない!魔王様の物だ!魔王様に返せ……っっ!!」
「えっ、ルルビーさ、痛……っ!」
力は俺の方が強いんだ。人間の手首は細くて、ちょっと強く握れば折れてしまいそうだった。ぶかぶかな腕輪を引きちぎるように奪おうとした、その瞬間。
目の前が、真っ赤になった。
「へ、あ、ぎゃああああぁっ!!」
「ルっ、ルルビーさん!?炎が……!」
「近寄るな、ミツ」
「ヴィラル様!?い、いつの間に……っ、あ、そっ、それより、ルルビーさんが!」
熱い。熱い、熱い、熱い熱い……!俺、どうなってる?燃えてるのか?
赤くなった視界でも、魔王様の姿ははっきり見えた。人間につけた引っかき傷を治癒しながら、俺のことを冷たい瞳で射貫く、魔王様が。
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