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しおりを挟む俺の名前はエル。
ひょんなことから前世の記憶を取り戻し、前世ではありえない魔法や剣のファンタジーな世界にテンション上がりまくり学園生活を楽しんでいる16歳だ。
16歳。
何度言っても良い響きだ。
いくら金があっても魔法があっても若さだけは買えないからな。
厳密に言うと若返ったのとはまた違うが、お得感は言い知れない。
さて、今は剣術の授業中で模擬試合の最中。
数ある運動場のひとつである闘技場を模したそこに俺達はいた。
相手はクラスメイトの一人。
記憶を取り戻してから仲良くなったデレクという男。
同い年とは思えない程体格が良く、剣の腕前は学年で常にトップクラス。
将来は騎士団入り確実と言われている有望株だ。
「手加減しねえぞ?」
「望むところ」
向かい合いニヤリと笑い合う。
手加減なんて望んでいない。
全力で挑んでくれなければこちらも全力で挑む意味がない。
……例え実力が半分以下であっても、だ。
「では、初め!」
号令の合図で剣を握る手に力を込め、同じタイミングでお互いへと向かう。
「は!」
まずは俺から一発。
デレクの胸めがけて一突きするが難なく躱されてしまう。
これは想定内。
このくらい、デレクにとっては目を瞑っていても躱せるはずだ。
それに対するようにデレクが俺の剣を薙ぎ払い腕を狙ってくる。
「……ッ」
間一髪で避けたが……危ない危ない、一発くらう所だった。
模擬試験用に剣も模造のものだけど当たると当然痛い。
「ほらほら、懐がガラ空きだぞ?」
「あ……!」
「もっと足動かせ」
「……っ」
手加減しないとの言葉通り、デレクはこれでもかと弱点を攻めてくる。
何とか躱してはいるものの、防戦一方になってしまっている。
攻撃出来たのは最初の一撃だけだ。
情けない。
(くっそおおおお相変わらず強いな!)
どうやってもあと一撃が出せなくて悔しい。
こんな事なら前世の選択授業で柔道じゃなく剣道選択するんだった!
「もう終わりか?」
「っ、まだまだ!」
「そうこなくっちゃ」
息も絶え絶えだが負けん気だけでそう告げる。
嬉しそうに目を細めたデレクに、全力で飛び掛かり……
「終わり!」
……まあ、結果は言うまでもないだろう。
「お疲れさん」
「お疲れ」
「結構上達したなあ、最初の一撃はちょっとびびった」
「良く言うよ、余裕で躱してたくせに」
「ギリギリだったって」
「はいはい、慰めどうも」
剣を弾かれその場に倒れ込む俺に手を差し伸べるデレク。
遠慮なくその手を掴み起き上がり、同時に言われた感想に溜め息を吐いた。
ええもうボロ負けですよ。
ボロボロですよ。
隙なんか全くありゃしねえ。
そもそもデレクに勝てる奴なんてこの学年ではあの王子くらいしかいない。
あの王子が誰かって?
そんなの決まってる。
「エル、大丈夫か?怪我をしていないか?」
「……大丈夫です」
この王子、ダリアだ。
何を思ったか自分から婚約を解消したいと言いだしたくせにそれを解消すると言いだした訳のわからない男だ。
「本当に大丈夫なのか?後から痛む場合もあるんだ、ちゃんと診てもらわなければ」
「だから大丈夫ですって!」
ぺたぺたと頬に触れ腕に触れ身体に触れ無事を確かめるダリア。
ええいべたべたするな!
必要以上に触れてくるダリアの手を叩き落すと周りから非難する声があがる。
友達が増えたとはいえ、元々嫌われていたのがそう簡単に全て覆る訳ではない。
「ダリア様になんて事を……!」
「心配していただいているのに恩知らずな!」
「婚約解消したというのにいつまでも付き纏うなんて」
「デレク様にもあんな風に馴れ馴れしく……!」
はいはい、言いたい事はわかりますよ。
でも婚約解消を言いだしたのはこいつだしそれを解消するって言いだしたのもこいつだから。
俺関係ないから。
むしろ婚約を解消するって言われて一番喜んだの俺だから。
デレクに至っては友人なので馴れ馴れしくも何もあったもんじゃない。
全く、どうしてこういう奴らは言いだした本人じゃなく言われた方に怒りの矛先を向けるのか。
……まあ、言いだした本人が王子だから言えないのも仕方がないけど。
それにここにいる連中はダリアに陶酔している奴らばかりだからな。
奴らの声が聞こえていたのは俺だけではない。
「あいつら……」
傍にいたダリアにも当然聞こえていて、奴らを軽く睨む。
そちらに何かを言いだそうとするダリアを即座に止める。
「言いたい奴には言わせておけばいいんですよ」
「しかし……!」
「ほら、次王子の番ですよ」
「あ、ああ」
順番が来て名を呼ばれるダリアを送り出す。
途端についさっきまで文句を言っていた奴らの目がハートになった。
文句から応援に変わるのが早すぎる。
「やっぱすげえなあ、王子は」
「……だな」
一瞬で決着がついてしまった。
どうだ!と言わんばかりにこちらを振り向くダリア。
こちらに駆け寄ろうとしていたのだが、すぐに信者達もといクラスメイト達に囲まれてしまいそれは叶わなかった。
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