婚約者の恋

うりぼう

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「具材を煮込んで食べるのか」
「鍋っていうんですよ」

入ったお店はなんと鍋の専門店。
メニューにはすき焼き風からしゃぶしゃぶ、他にも塩ちゃんこ風や味噌鍋などなど色々な種類の鍋があった。
まさか鍋が食べられるとは。
ダリアが食べたい牛肉にも希望が合う。

俺達が頼んだのはすき焼き風の鍋だ。
あくまですき焼き風なので少しお値段は安め。
普通のすき焼きとの違いは正直わからない。
多分肉の質とかだと思うけど。
鍋の中でぐつぐつと煮えていく具材と甘じょっぱい香りが食欲をそそる。

竜用の食事はさすがに置いてなかったので、皿に野菜と肉を入れてもらいユーンに差し出す。
キュイキュイ言いながら美味しそうに食べている。

「良く知っていたな」
「冬の風物詩ですから」
「……それも、良く知っていたな」
「えーっと……シーラ関係の本で、ちょっと」

そう言ってごまかす。
うっかり昔食べたからですと言ってしまう所だった。
昔っていつだと突っ込まれたら危なかった。

こういう時は話題を変えるに限る。

「そういえば、王子は前にもシーラに来た事あるんですよね?」
「ああ、父についてな」

外交の付き添いで来たのだろう。
羨ましい。

「その時は何を食べたんですか?」
「その時は城に招かれて、勇者御用達だとかいう料理をご馳走になったな」
「勇者御用達!?それってもしかして『あさひ』のやつですか!?」
「良く知っているな、その『あさひ』のオーナーが城で振舞ってくれたんだ」
「う、羨ましい……!!!」

向こうでも食べたけど。
『あさひ』の料理食べたけど。
それでも本場の、おまけに本人が作ってくれた料理なんて羨ましすぎる。

「どうでした?どんな料理が出たんですか?味は?オーナーに会いました?どんな人でした?」
「質問攻めだな」

矢継ぎ早の質問にダリアがくすりと笑う。

「そんなに気になるのか?」
「だって本場のシーラ料理ですよ!?」

もとい、日本の家庭料理。
気にならないはずがない。

「そんなに食べたかったのか?なら王都まで足を伸ばせば良かったな」
「本店は王都にあるんですか?」
「そうらしい」

らしいという事は行った事はないんだな。

「今からでもキャンセルして行くか?」
「何言ってんですか、せっかく注文したの食べないっていうんですか?」
「エルは『あさひ』の料理が食べたいんだろう?」
「そうですけど、これも食べたいから良いんです。『あさひ』はまた今度にします」
「そうか、ならまた来よう」
「はい」

……ん?あれ?
ついうっかり普通に返事をしてしまったが、これまたダリアと一緒に来る事になってないか?

「どうした?」
「……いえ」

それを訂正しようかとも思ったのだが、にっこりと有無を言わせぬ笑顔で見られると何も言えなくなってしまった。

(なんかむずむずするなあ)

この前からどうにも落ち着かない。

ダメだ、気にしちゃダメ。
俺は何も感じていない。
元はと言えばダリアがデートとか言い出すからいけないんだ。
完全な責任転嫁である。

「あ、そろそろ良さそうですね」
「もう良いのか?」
「お肉はあんまり火を通し過ぎると固くなっちゃいますから。あれ、卵割らないんですか?」
「割る?」
「……もしかしてやった事ないんですか?」
「……」

黙ってしまった。
そりゃそうか、学園での食事で生卵が出る事なんてないし、仮にも王子様だからな。
給仕は全部侍女がやってくれるから食事になる前の食材に触れるのも稀だ。

「しょうがないですねえ。はい、これ」

自分の器に割った卵とダリアのものを交換する。

「悪いな」
「いいえ」
「ところで、これをどうするんだ?」
「卵は溶いて、鍋の具と混ぜて食べるんですよ」
「溶く?」

溶くのも知らないのかオイ。

「こうするんです」
「おお、なるほど」

実演するとすぐに真似をするダリア。
こういう時は素直だ。
それについ先日まではダリアから魔法を教わっていたから、逆にダリアに何かを教えるという状況が少し楽しい。
ちなみに食べ方はメニューにも載っていたのでこちらは難なくごまかせる。

「さあ、じゃんじゃん食べましょう」

ひょいひょいとダリアの器に肉と野菜を放り込んでいく。
礼儀も作法もあったもんじゃない食べ方だが、それが鍋の良いところだ。
同じように自分の器に肉と野菜を放り込み、たっぷりの生卵を付けて食べる。

「あつあつ!うまー!」
「美味いな」
「ですよね!しらたきも美味しいんですよ、ほらほら」
「エル、俺は良いから自分のを食べろ」
「すいません、つい」

みんなで食事をしていると双子に分けるのは俺の役割なので、つい同じようにしてしまった。

「気持ちは嬉しいんだがな、エルの為に連れてきたんだからたくさん食べてくれ」
「……ありがとうございます」

そう言うとダリアは俺がしたように肉をたっぷりと器に入れてくれた。

「肉ばっかり」
「好きだろう?」
「大好きです」
「……っ」

息を呑むダリア。
どうしたんだ、箸止まってるぞ。

「王子、食べないんですか?俺が全部肉食べちゃいますよ?」
「良いぞ、どんどん食べろ」
「いや嘘ですそんなに食べれません」
「たくさん食べて多少は肉付き良くならないとな」
「何でですか?」
「エルは痩せすぎだ」
「標準ですけど」

むしろ中年太り手前だった前世を思うと理想的な体形だ。
最近は筋トレもして筋肉も付いてきたし。

「もっと肉付きが良い方が抱き締めた時に気持ちが良いんだ」
「王子の好みなんて知りません」
「では肉を返せ」
「嫌ですよこれは俺のです」
「ふっ、そうか」

適当な軽口を叩いているだけなのに目の前のダリアはものすごく楽しそうだ。
ああほら、そんな風に笑うから近くの席のお姉さま方が釘付けになってしまっている。
箸まで止まって顔も赤くしてぽーっとしているその表情はもう既に恋に落ちているようだ。
こらこら正面にいる彼氏さんらしき人をちゃんと見てやれよ。

「エル、このしめとやらはどうする」
「うどんで」

そうとは知らないダリアがメニューを見つつそんな事を聞いてきた為、俺はそう即答する。
傍らでは食事を食べ終えたユーンが大きなお腹を上にして満足そうに寝転がっていた。
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