婚約者の恋

うりぼう

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すき焼き風鍋を食べ終え店を出る。
〆のうどんも最高に美味かった。
やっぱり煮込むと味がしみ込んで良いよなあ。
温かい物を食べたからお腹の中からぽかぽかしてきて心も大満足だ。

ユーンはまだ眠いのか懐の中ですやすやと寝息を立てているので片手でそれを支える。

「ごちそうさまでした」
「良い食べっぷりだったな」
「美味しかったので」
「ああ、確かに良い味だった。向こうにも欲しいくらいだな」
「同感です」

『あさひ』の支店で作ってくれないかな。
色々なメニューがあったから頼めば作ってくれそうな気がする。
ああ、でもこれは冬の寒い時に食べるのが美味しいからなあ。
向こうの年中常春な気候の中だと暑すぎないだろうか。
いや、暑すぎても良いじゃないか。
暑いときに熱いものを食べると身体に良いっていうし。
よし、今度行ったときに聞いてみよう。
その今度がいつになるのかはわからないけど。

「では行くか」
「……やっぱり繋ぐんですね」
「俺の望みを叶えたら離してやると言っただろう?」

はいはいそうでしたね。
大体望みって何だよ。
ダリアの望みなんか俺がわかるはずないじゃないか。
婚約者に戻るという話は違うらしいし、何なのか全く見当がつかない。

「望みがあるならとりあえず言ってみれば良いじゃないですか」
「かなりの頻度で言っていたぞ」
「え」

全然記憶にない。
何か望まれていただろうか。
首を捻り明後日の方向を見て悩む俺にダリアは苦笑いだ。

まずい、ダリアの話をほとんど聞き流して何も考えずに返事していた事がばれてしまう。
よし、話を逸らそう。
うんうんそれが良い。
本日二度目の話逸らしである。

「これからどこに行くんですか?」
「わかりやすく話を逸らしたな」
「やだなあ、気のせいですよ」
「……まあ良い」

どこへ行くのか気になったのは本当だ。
行き先も告げられずに普通に歩き出したダリアについていってるだけなので、どこをどう歩いているかもわからない。
ダリアは道を知っているようですたすたと歩いている。
迷うそぶりはこれっぽっちもない。
前にシーラに来た時は王都の方を回ったと言っていたのに、この港町の方も詳しいのだろうか。

「行くのはエルの喜びそうなところだぞ」
「俺の?」
「竜がたくさんいる場所だ」
「!」






ダリアのセリフに目を輝かせ、やってきたのはシーラ国立公園。
先程までいた港町から更に南に下った森の中にある大きな大きな公園だ。
この場所には港町や王都などの主要都市から直接転移出来るようになっている。
大きな魔法陣に乗ると光が溢れ、目の前には巨大な門が待ち構えていた。
そして人も多い。

「うわあ」

キュー!

園内に入り、他の竜の気配に気付いたユーンも起きて目を輝かせている。
俺達が見上げる先には、ようこそ竜の園へという文字が空に浮かんでいる。
魔法で浮かばせているのだろう、プロジェクションマッピングのようだ。

ここは全世界から様々な竜を集め飼育し展示している場所。
小さい種類で可愛らしいものもいれば、建物に影が出来る程巨大な竜もいる。
空を飛ぶものから地を這うものまで多種多様。
動物園か水族館みたいなものか。
いや、規模から言うと某恐竜パークのようなものだろうか。

どのくらいの広さがあるのかわからないが、公園全てを歩いて回ろうとすると三日はかかるらしい。
竜達はそれぞれ生息区域がわけられており、そこは空高く結界に覆われている。
その場所ごとにこれまた転移魔法陣が備えられているので、それを使うとなんとか一日で見て回れるようだ。

「ここ来たかったんです!」
「知ってる」

記憶を取り戻す前からずっと来たかった場所だ。
だって全世界から竜が集まってるなんて夢の空間じゃないか!

(あれ?でも……)

どうしてダリアが知ってるんだろう。
ここに来たいって言った事があったっけ?

「前に言ってたのを思い出したんだ」
「前?」
「ずっと前に、城で図鑑を見ながら言ってただろう?」
「……!」

それはもっとずっと前。
まだ俺達の関係が……というか俺の態度が普通だった頃だ。
自分の意見を隠す事もなく諦める事もなくただただ無邪気に婚約者という立場を受け入れていた頃。
いつものようにダリアと二人で城の中で遊び、やがて部屋の中へと戻り、竜の図鑑を見つめていた。
昔から竜が好きだった俺はそれに夢中になってしまい、隣のダリアの存在を無視してのめり込んでしまう。

『そんなに好きなのか?』
『大好き』
『……ふうん』
『シーラには竜がたくさんいる場所があるんだって!この竜も、この竜もいるのかなあ?』
『いるんじゃないか?そんなに好きなら連れて行ってもらえば良いのに』
『まだ外の国に行くのは早いって言われたんだ』
『じゃあ俺が連れて行ってやる!』
『ダリアが?』
『ああ。俺が大きくなったら、レティーに乗せて連れて行く』
『本当?』
『ああ、約束だ』

そんな会話と指切りを、確かにした。

「よく覚えてましたね」
「思い出したと言っただろう」

ずっと覚えていた訳ではないのだろうが、思い出したのが凄い。
しかも約束通りにレティーに乗せてきている。

ちなみに俺は今の今まですっかり忘れていた。
言われて初めて気付いたくらいだ。

「エルとデートをするならどこが良いかと考えて、思い浮かんだのがその約束だったんだ」
「……ありがとうございます」

こんなにピンポイントで俺の行きたい場所を選択されてはお礼を言うしかない。

「では行こうか」

手を引かれ公園の中に入る。
入場券は予め用意していたようだ。
しかも今日の日付で。
俺が断るとは思わなかったんだろうか。
おまけにあんな昔の約束を今になって果たすなんて。

「王子って律儀ですね」
「エルにだけはな」
「嘘ですね」
「お前が今言ったんだろう」
「他の人にも、でしょう?」
「……」

ニヤリと笑いながら言うとダリアは黙ってしまった。

大会の時の行動やその他の時の行動を見ていればわかる。
周りに気を配られているだけかと思いきや、ダリアはちゃんと自分でも周りに気を配っているのだ。
特に懐に入れた人物にはそれが顕著に表れる。
そういう扱いをして欲しくてダリアに心酔する人が多いんだろうと、今更ながらしみじみと考える。

「他の奴らはその、まあ、俺を助けてくれる奴らだからな」

照れたのかもごもごと言い返すダリアが面白い。

「だが、一番はエルだからな。俺が優しくしたいと思うのもエルが一番だ」
「はいはい、ありがとうございます」
「流すな、俺は本気で……」
「わかってますよ」
「……本当にわかってるのかお前は」
「だからわかってますって」

ダリアが俺に優しくしたいと思っている事はわかってる。
そりゃあんだけ大会の練習にとことん付き合ってくれてその上昔の約束、しかもほんの一瞬の口約束を果たそうとこうしてここに連れてきてくれてるんだからわからない方がおかしい。
……まあ、一番云々は置いておいて。

「ほら、行きましょう!」
「!」

時間がもったいない。
本日三度目のごまかしの為と公園内を隅々まで楽しむ為に、さっきまで引かれていた手を今度は逆に引っ張り歩き出した。

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