婚約者の恋

うりぼう

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そしてダリア、いちゃいちゃしてるというセリフに嬉しそうにするな。
にやにやしてる場合じゃない。

このまま無駄に時間が過ぎるのを待つのは面倒、もといもったいない。
いっその事俺が運んでしまおうか。
物凄く抵抗されるのは明らかだけど、その方が早い気がする。
これでも男の子ですから女の子の一人くらいは抱きかかえられるはず。
そう思い一歩踏み出そうとすると。

「ダリア様、ここは俺が」

ほぼ無言で成り行きを見守っていたキットがすっと前に出てきた。
キットもダリア達に負けず劣らずの男前。
短く整えられた髪に精悍な顔立ち、逞しい筋肉は男から見ても羨ましいくらいだ。

そんなキットが自分がと出てきた事によりアマリリスの表情が一瞬輝く。
男前が連れて行ってくれるなら誰でも良いのだろうか。
ついさっきまでダリアに助けを求めていたというのに、今はキットを見て目にハートが浮かんでいる。
切り替えが早い上に節操がないと思ってしまう。

「良いのか?」
「その方が早いでしょう?」
「魔法で浮かせても良いんだぞ?」
「一応あれでもレディですから」

言い方はともかく素晴らしい騎士道精神である。

ダリアが許可するように頷くとすぐにつかつかとアマリリスに近付くキット。

「キットくん……」

うっとりとキットを見上げるアマリリス。
このままお姫様抱っこをされるのだと期待に目がらんらんと輝いている。
こらこら本命はダリアじゃなかったのか。
余所見している場合じゃないだろ。
キットの事はあまり知らないけれど、そんな事をしたら余計にアマリリスをつけ上がらせるだけなんじゃないかと思っていると。

「失礼」

短く一言断りを入れ、アマリリスに手を伸ばすキットだったのだが。

「ちょっ、え!?」
「落とされたくなければ大人しくして下さい」

なんと、お姫様抱っこではなく荷物を運ぶようにアマリリスを肩に担ぎ上げた。

「や、やだ、何するのよ!?」
「動かないで下さい」
「普通お姫様抱っこでしょう!?」
「貴女は姫ではないので」
「な……!?」

淡々と切り返すキットに、周りでは噴き出したりくすくす笑っているギャラリーもいて、その声が耳に届きアマリリスの顔が屈辱に染まっていく。
そりゃそうだろうなあ、絶対優しく丁寧に抱っこしてくれるのかと思ったら荷物扱いだもんなあ。
しかも姫じゃないってはっきり言われてしまっているし、可哀想な気がしないでもないけど仕方がない。

というよりもさっきレディだって言ってなかったか?
レディを俵担ぎするんじゃないよ全く。

「酷い、酷い酷い酷い!降ろしてよ!こんな格好嫌!!」
「そうですか、では」
「きゃっ」

担いだ時と同様さらりとアマリリスを降ろすキット。
抱えたの一瞬だったな。
まあでも本人が降ろしてと言ってのだから降ろして正解だろう。
ぽかすかと背中殴られるのも地味に痛そうだったし。

「私はダリアくんの婚約者になるのよ!?未来の王妃よ!?なのにこんな扱いされるなんて……!」
「まだそんな戯言を言っているのか。俺の婚約者はエルだけだ」
「そんなはずない!だってダリアくんは私を好きになるんだから!私を選んでくれるんだから!」
「……はあ、何度それを否定すれば良いんだろうな」

まだ出会ってから時間が経っている訳でもないのにもう何回、いや何十回と聞かされている妄言に深い溜め息を漏らすダリア。
そんなに何度も言われているのに冷静に否定出来るのが地味に凄い。
俺がこのくらいの年の時は三回くらい同じこと言われたら不機嫌になっていた気がする。
まあ今は俺も同い年だけど。

「だってダリアくんは私のものなんだから!」
「だから違うと言うのに」

このままでは堂々巡りのまま話が止まってしまいそうで思わず口を挟む。

「この際だからはっきりさせれば良いんじゃない?」
「はっきり、とは?」
「わかってるくせに」

俺の提案にダリアが少し考える素振りをする。
この際だから、アマリリスにはっきりとダリアの気持ちを伝えた方が良いと思うんだ。
今までも伝えていたんだろうけど、改めてはっきりきっぱりと断るなら断った方が良いだろう。
衆人環視の中というのが少し可哀想な気もするが、二人きりになればまたどんな勘違いを膨らませるのかわからないからな。

「そうよ、はっきりして!」

だがしかし、俺の意見に何故かアマリリスが同意してきた。
なんでだよ。

「ダリアくんの口からはっきりさせて!ダリアくんがこの先誰と一緒にいたいのか、私の事をどう思ってるのか、はっきり言ってよ!」

まさかとは思うが、この後に及んでダリアに自分を受け入れてもらえると思っているのだろうか。
そうでなければこの自信に満ちた表情は一体何なんだ。
いやいやまさか、そこそこきっぱり拒否されているのにそんな勘違いしているはずないよな?
でもアマリリスのセリフはどう考えても、この次のセリフでダリアから愛を囁かれると思っているそれだ。

「わかった、はっきりさせよう」

ダリアが頷き口を開き……

「アマリリス嬢」
「なあに?」
「俺はエルを愛してる」
「……え?」
「は?」

告げられたセリフに、アマリリスのみならず俺もぽかんと口を大きく開いてしまった。

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