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キイチのくせに2
しおりを挟むレンと会ったのはもうすぐ保育園に入ろうかという年齢。
レンの家族が家の隣に引っ越してきた時に挨拶をしにきたのが初めてだ。
挨拶を交わす両親の影に隠れたレンの姿。
まっすぐで艶やかな黒髪は日本的で、同じく黒い瞳はくりっとまんまる。
それを縁取る睫毛も長く、瞼を閉じる度に風が起きるのではないかと錯覚を起こしてしまう程。
なんて可愛いんだろうと思った。
こんな可愛い子がいていいのかと思った。
話してみると、大人しく控え目で、それでもきちんと自分の意見を言えるそのコに子供ながらに心を奪われた。
とはいえそんな小さい頃の記憶が鮮明にあるわけではなく、これは母親に聞いた話だが。
「れんちゃんは、オレがまもる!」
と、勝手に一人決意して燃えていたらしい。
直後母親のセリフで「れんちゃん」が男だとわかっても、やはりか細く頼りない「れんちゃん」を守りたい意志は変わらなかった。
が、しかし。
「よお、キイチ。相変わらず朝っぱらから冴えないツラしてんなあ」
「……」
「何、見惚れてんの?まあオレカッコイイから仕方ねえかあ。あ、カッコイイつかキレイ系?」
「……」
月日というものは残酷だ。
天使のように可愛く儚げだった「れんちゃん」は外見もさる事ながら、周囲のべったべたに甘すぎる甘やかしと遙か天上人を敬うかのような態度に、月日を経てすっかり中身が昔とは180度変わってしまった。
ふわりとした微笑みも今やニヤリと意地の悪い笑みにしか見えない。
確かにカッコイイさ。
背だってあっさりとオレを引き離し、180センチ近くてなお成長期真っ只中だし。
鍛えているためか意外にもしっかりとした体つきをしているし。
真っ黒で艶やかな髪の毛も相変わらずだし、大きくくりっとした目も大人びて、芸能人顔負けのキレイな顔をしている。
けど。
「ま、どっちにしろイイ男って事に変わりはねえけどな」
こんな
(こんなふてぶてしいナルシスト男、オレの大好きなれんちゃんじゃない……!)
そう叫びたくなるのは仕方がないだろう。
ただ実際声には出せないから心の中でだけど。
本当に昔は可愛かったんだ。
話しかけてにっこりと笑う姿だとか、ちょこちょこと後を付いて歩く姿だとか、ぎゅっと裾を握り締めて縋ってくる様子だとか。
それはもうもうもうものすっっごく可愛かったのに。
ほんとになんでこんなのに育っちまったんだ。
(オレのかわいいレンちゃん返せちくしょう!)
そんな奴だが、何やら好きな相手が出来たらしい。
自分以外に興味なんてあったのかとまず驚き、それが犬猫の類ではなく人間だという事に更に度肝抜かれた。
自分大好きすぎて気持ち悪いこいつが他人に興味あるとか絶対嘘だ。
ありえない。
とはいえそんなレンに興味津々なのは紛うことなくこのオレなんだけれども。
(だって超気になるこいつが好きになるってどんだけかわいいんだよ。いや、キレイなのか?)
どちらにしろこいつの事だから美形であることは確実。
紹介して欲しいとは言わないがどこの誰かかというのが非常に気になる。
幼なじみで、自惚れかもしれないけどあいつと一番親しいオレに、それくらい教えてくれたって罰は当たらないはずだ。
その相手がオレだとふざけた事を言ってきたことはあったけど、絶対に本心を晒そうとはしない。
オレに教えられないような奴好きになったのかと腹が立つ。
(つーかマジどんな奴なんだよ)
どんな相手であろうときっとレンに告白されたら見た目に騙されてころっと承諾してしまうのだろう。
そうなったら毎日の日課である送り迎えはさすがに自重しなければ。
いや、元々する必要なんてなかったんだけどレンの母親に頼まれていたから断れなかっただけだし。
もう立派な高校生なんだからやらなくても良いんだけど。
でも。
(……)
そうなったら……
「キイチ?」
「……」
「……オイ馬鹿きーち」
「っ、だっ!?」
悶々と考えていたらべしりと頭をひっぱたかれた。
忘れてた、コイツと一緒に帰ってたんだっけか。
「痛えな馬鹿レン」
「お前より馬鹿じゃねえよ。つーかオレの事無視するとか何様」
「オレ様」
「うーわ、かわいくねえ」
「んな事お前よりよく知ってるっつーのバーカ」
「ほんっっと、かわいくねえ……!」
はいはい可愛くないですよ。
というかレンの基準で言ったらこの世の九割は可愛くない。
失礼な奴だ。
「つーか何ぼーっとしてんだよ。今更ない頭使ったって遅いだろ」
「うるさいな、オレにだって色々考えたい事があるんだよ」
「なんだよ色々って」
「い、色々は、色々だよ」
まさか張本人に言うわけにも
いかないだろう。
どもりつつ目を逸らす。
「ふーん?」
「な、なんだよ」
じと、と横目で見られ怯んでしまった。
だってコイツ睨んでるみたいなんですけどなまじ美形だから超怖いんですけどなんだよなんなんだよ!
びくびくとレンを伺うと。
「オレに隠し事なんていい度胸してんじゃん」
「っ、な、なに……」
がしりと腕を掴まれ半身が壁に激突。
真横から囲われ凄まれた。
「言え」
「は?」
「ない頭使って何考えこんでたか言えっつってんの」
「はあ?」
なんだこいつオレ様気取りかアホかバカじゃないのかふざけんな。
「ばっっかじゃねえの!お前だってオレに隠し事してんのになんでオレだけなんでもかんでも暴露しなきゃなんねんだよ!」
「ムカつくからに決まってんだろうが」
「意味わかんねえし!」
なんなんだコイツ本当に!
「どけ!」
ぐいっと肩を押しやって拘束から逃れようとするが、ぴくりとも動かない。
それどころか逆にその手を掴まれ更に無言の圧力をかけられた。
だから怖いっつーの!
「……」
「……どけよ」
内心びくびくなのを悟られまいと、こちらも睨む。
しかしそんなオレの胸の内などわかりすぎるくらいわかっていたらしく。
「なに、びびってんの?」
「……っ」
小馬鹿にするように笑われ、カチンときて。
「びびってねーよ!ばあああッか!」
「ぶ……っ!?」
「先帰る!ざけんなクソボケ!」
「っ、て、てめ……ッ!」
真下からの頭突きがレンの顎を直撃。
勢いのまま後ろにガクンと弾かれたバカの頭。
それに追い討ちをかけるように脛を蹴り走り出す。
「バカきーち!何しやがんだ!」
「るっせえばあああかッ!」
痛みに悶えながらも怒鳴るレンの声が後ろから響くのに負けじと走りながら怒鳴る。
(くそ……っ)
もし、レンが好きな人と付き合うようになって、今まで通り隣を歩く事が少なくなるのだと思い。
(一瞬でも)
ほんの一瞬でも寂しいかも、なんて。
「……っ」
そんな事を考えてしまったオレをこの世から抹殺したいと。
本気でそう思った。
end.
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