ベルト

たなかぁ

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愈々いよいよ衣替えの時期かと、少し肌寒さを感じる日。
今日も、なんとも言い難き倦怠感が我が身の上に乗っかるのを感じつつ学校生活を過ごす。
体育を終えて、僅かだけこの倦怠感は薄れたが、やはりどこか陰鬱で遠い感覚になる。
着替えを終えきつくベルトを締めた。
やっとの思いで、ご飯を胃の中に入れる。
「あと二時間かぁ、」と限定的で、友達と言うには少し億劫な者と一緒になり嘆く。
忽ち学校が終わる。
なりたい職のために鍛錬を積み、夕日が私を抱きしめる。今日もプラットフォオムに歩き出す。
陰鬱になるような有数の多人口地帯。当然かの如くどこもかしこも満員である。
右足、左足と先頭車両の待機列に向かい歩く。
次の停車駅で沢山の人が下りるので座るためだ。
忽ち仕事で疲れ切ったであろう会社員達が歪めた顔の背広で蟻の様に並び始める。
やがて電車到着し、燦々とした無機質な明かりを窓越しに打ち付けた。
扉が開くと共に少ない降車する人が出てきたと思えば右手だけで数え切れる人数だった。
ここに入るのかと電車の光に照らされる。
私の濃くなっていく影をせわしなく人々が踏みつけてゆく。
すぐに私も人の壁を押し分け行く。
今にもそれに躍りかかろうとした瞬間である。
一人、背が少し高く、腕や肌は手入れのされていないようなサンダル姿の人がいた。
そのハワイアンな服の影に潜む自分しか見えていない目の光があった。
不吉な予感がすると同時にそれが当たってしまった。
すぐに
「押し込むんじゃねぇよぉ、、、」と輪郭の見えない声色が聞こえる。
もちろんハワイアンな男からだ。
扉の閉まるベルが鳴る。
押す力は忽ち強くなる。
「ちっ」という音が扉の閉まる音を搔き消した。
体を強張らせ、電車が動き出すとともに暗い景色が動き出すのを眺めた。
私は帰宅ラッシュなのに、わからないだろうか。と気にする。
電車は揺れ、速度が増していく。
男は依然、不機嫌を周りにまき散らし、周囲の影を揺らす。またもや何か音がする。
が私は影に落ちてしまった。
ずっとラジカセが先の言葉を反芻し私を打ちつける。
打たれ続けては仕返しがしたくなる。しかし私はそれではその賎しい男と一緒になってしまう。
と引き戻され、またそれをリピイトで再生する。
まばゆい光が私を影から引き抜く。
体が少し電車に引っ張られたからだろう。
「お出口は右側です」とアナウンスされる。
電車が止まり、漸く救いの扉が開くと待ちわびていると、
ハワイアンの男だろう。ものすごい力で押してくるのだ。
ただでさえ、行き場のない疲労を持ちながらずっと愚痴々言われたのだ。
私の怒りの針は容易に振り切った。
扉が開き、すぐ横の待機列に備える、と同時に
「押すんじゃねえよ」と怒鳴る。
若干、恐怖の入り混じった、武者震いのような手の震えを確認しつつ、沢山の人が流れ終わるのを待つ。
やっと、最後の人が降車し終わり、乗ろうとする。
声を荒げてしまった自分の未熟さと悲しさと、自分があの男と同じ土俵に立ってしまって後悔する。
重い腰を座らせた。
雨がしきりに屋根をたたく。
私は間も無く影に落とされる。
「あゝ、お前は居なくなってからも私を困らせたいのだな」
そして、どうして私はこんなに未熟なのか、どうしてこんなにも怒ってしまうのか
自分の行動を懺悔し、でもやはり他者の声を掻き消す影に落ちていた。
ずっと考えを反芻していたら忽ち終点だった。
扉を出てプラットフォオムの無機質な明かりではなくずっと暗い外を眺めていた。
エスカレーターを下り迎えがくるロータリーに向かう。その間もずっと反芻を繰り返していた。
考え疲れたのであろう。これをついには他人のように物語を作り始め、文字で表し始めた。
すぐに車に乗り、家に着く。あっという間であった。
玄関を開けると暖色の明かりが私を包み込む。
文学というのは時に陰鬱な日本人との性格が合うなと思っていたが、ここまで共感できる日が来ると思わなかったと
ベルトを緩め着替え始めた。









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