隠居魔導士ぼく、年下凄腕剣士(※引退理由で片思い相手)に迫られたので誘惑してみた

鳥羽ミワ

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 田舎に住まう人間にとって、一日に一本の乗合馬車は貴重な足だ。
 僕は買い出しのために、馬車に揺られながら街へと向かっている。平日の昼間から遊びに行けるなんて、まったく早期リタイアは最高だぜ。こぢんまりとした一軒家の住まいも気に入っている。
 勇者一行によって魔王は倒されたものの、あちこちで大型の魔物の残党が暴れはじめたのが数年前。その賞金を目当てに数多の冒険者が魔物討伐に挑み、僕が所属していたパーティーもまた、それなりの成果を挙げた。もちろんお給金もすごかった。それこそ、つつましく暮らせば、一生お金に困らないくらいには。
 そういうことで、僕はさっさと仕事を辞めて田舎へ越したのだ。もう一個、大きな理由はあるのだけど。
 乗合馬車の中で、男二人連れが話している。

「聞いたか? あの凄腕剣士『閃光のフェリ』がここら辺りに来てるらしいぜ!」
「デカいドラゴンを狩りに来たんだろ。これで、やっとあの山の向こうへ行けるようになるな」
「実力は勇者に勝るとも劣らずって噂だ。ドラゴンなんか単騎でパクリ、なんつってな」

 フェリ。僕の視線が、声の主たちへと揺れた。
 彼は僕の元同僚。僕は後衛でのサポートがメインだったけど、何度も助けてもらった。その分、僕も彼を支えていたと思う。彼の動きについていけるバッファーは、戦闘参加経験の多い僕しかいなかったし。
 それにまだまだ未熟で生意気だったフェリと、社会の橋渡しのようなことも、していた。相手をナメるな、尊重しろ、丁寧に扱え、と教え込んだ。
 そのフェリの僕に対する評価は、以下の通りだ。

「エルは弱いんだから、引っ込んでろ」
「一人じゃ何もできないんだから、大人しく俺の影にいてくれ」
「黙って俺に任せてくれ。お前は何もしなくていい」

 あのクソガキが。年上をナメるんじゃない。
 いちいちこの調子だったから、僕もさすがに嫌だった。だけど彼は、貧しい人から依頼料を貰わないとか、子どもは何があっても守るとか、理不尽を許さないとか、そういう好ましいところもあった。
 それこそ、僕が他の冒険者から「襲われ」そうになったときは、必ず助けてくれたヒーロー。魔力が強いと性欲も強いなんて迷信もあって、華奢な体格の僕は、よくそういう欲の対象になっていた。だけどフェリは、それをよしとせず、怒ってくれた。
 そして僕は、そんなところが、好きだった。だからこそ、フェリに認めてもらえないのはつらかった。というか、好きな子に冷たくされるのは、誰だって堪えるだろう。

 結局僕は、暮らしていけるだけのお金が貯まってすぐ、パーティーを抜けた。

 城門をくぐり、街の中へ入る。活気ある景色を眺めていると、ふと悪寒がした。
 視線が、合う。金髪の男が、こちらを茫然とした顔で見ていた。すぐに彼は人混みに紛れて見失った。だけど、それはフェリだった、ような。

 そんなわけ、ないない。仮に本人だったところで、僕に関わりなんてないんだし。
 すぐに気を取り直して鞄を膝へ抱えたところで、馬車が止まる。降りて背伸びをすると、「エル」と僕を呼ぶ声がした。

「エル!」

 そして、腕を掴まれる。驚いて顔を上げれば、あのフェリが立っていた。今にも泣きだしそうな顔で、僕を呼ぶ。
 現役剣士の逞しい力が、僕を捕らえて離さない。万力のような力で絞められて、僕は思わず「痛い」と声を上げた。

「わ、悪い」

 フェリは慌てて手を離す。僕はその隙を逃さず、人混みの中へと飛び込んだ。

「待ってくれ、エル!」

 逃げる僕を、人々の視線が追う。当然人の気配に敏感なフェリが僕を見失うはずがなく、僕は裏路地に入ろうとしたところで呆気なく捕まった。僕より頭一つ大きい大男が、僕の薄くて貧相な身体に抱き着く。その胸が早鐘を打っているのに、僕の心臓が大きく跳ねた。

「お願いだ、話を聞いてくれ」
「僕が話すことなんてない」

 低く、警告するようにうなる。だけどフェリは「お願いだから」と、僕の肩を掴んで向き合った。

「エル。どうしてパーティーを抜けた」

 は? と、間抜けな声が漏れた。フェリは必死に「教えてくれ」と僕に尋ねている。

「本当に、きみには心当たりが、ないの」

 僕が茫然と尋ねると、フェリは「ない」と言い切った。それから、怪訝な顔で「それがどうかしたか」と尋ねる。

 それが、すべてだった。

「……あっそ」

 口の中で呪文を呟く。転移魔術の詠唱だ。僕の足元で風が渦巻き始め、「待ってくれ」とフェリが悲鳴を上げる。

「逃げないでくれ。理由を教えてほしいんだ、ずっと、俺は」
「おめでたい頭のガキにも分かるように、教えてあげる」

 言葉を遮って、あえて露悪的な笑みを浮かべた。フェリは焦った表情で「エル、落ち着いて話そう」と言い募る。だけど、聞いてやるもんか。

「きみが僕を『弱い』とか『引っ込んでろ』って言うのが嫌だったから、僕はパーティーを抜けた」

 はっきり、言葉にする。フェリが「え」と間抜けな声を漏らしたので、さらに追い打ちをかけるように睨みつける。

「僕がどれだけ傷ついてたか、分かってなかっただろ」

 転移魔術が完成する。僕は一陣の風とともに、フェリの前から姿を消した。

「待ってくれ、待って、エル! 俺は――」

 フェリは何か言っていたようだけど、そんなの知ったことじゃない。僕は低く笑って目を閉じる。次に目を開けたときには、自宅へと転移していた。
 どっと疲労感がのしかかる。転移魔術は、そもそも消費魔力量が多い。さらにそれなりの距離を移動したから、なおさらだ。

「もう、今日はいいや」

 僕はとぼとぼと自宅へ入って、寝室のベッドへ倒れ込んだ。

「まさか、なんにも分かってなかったとは」

 ぽつりと呟いて、膝を抱えた。丸くなって、膝に額をくっつけて、「ばかやろう」と呟く。
 悔しくて、悲しくて、涙が出そうだ。だって僕は、フェリのことが好きだった。だから追いかけられて、ひょっとしたらなんて思って。
 そしたら、当の本人は、僕のことを何も分かっていなかった。

「もういい」

 僕は布団をかぶって目を閉じる。こういう時は、ふて寝に限る。

 買い物は、その翌日に済ませた。今度はフェリに遭遇することもなく、いつも通り、穏やかな一日を過ごす。

「おい、聞いたか。あのフェリが、とうとうドラゴン退治に出発したってよ」
「だいぶ残党も片付いてきたな。冒険者連中、さぞガッポリ稼いだんだろうな~」
「そりゃあ、あんだけたくさんの魔物を倒せばな……」

 その会話を後目に、僕は馬車へ乗り込んで、ちいさな一軒家へと戻る。しばらく買い出しには行かなくていいから、しばらくは引きこもろう。
 少なくとも、ドラゴン討伐が終わるまでは。フェリがこの辺りから立ち去るまでは、家の中でじっとしていよう。

 となれば、暇になるのは自明の理だ。僕はシャワーを浴びて、身体を隅から隅まで清めた。
 ベッドに上がり、ふうと息を吐く。寝そべって、服の裾から自分の下腹部へ手を這わせた。

 魔力が強い人間は性欲も強い、なんていうのは迷信だ。
 だけど魔力が強い人間の性欲は普通以下、ということは、もちろん保証しない。

「きもちい……」

 真昼間から、身体をまさぐる。敏感なところを撫でて、引っかいて、こすって。特に胸への刺激がお気に入りの僕は、乳輪を引っかきながら腰を揺らした。
 僕は、すこぶる性欲が強い。リタイア後、お尻で気持ちよくなることを覚えたら、連続で五回くらい絶頂できるようになった。それ以来、日がな一日大事なところをまさぐって気持ちよくなりたい気分のときは、そうしている。
 最初は暇つぶしだった。だけど自慰行為に味を占めるにつれて、身体の感度もあがっていく。今の僕は、大変なことになっていた。
 目をつむって、フェリに犯されるところを想像する。胸を吸われて、お腹を撫でられて、ちんちんを握られて。大きな手が僕の尻たぶを掴んで、穴に指が入る。

「ん、んぅ」

 潤滑剤をまとわせた指で、後ろの穴のふちを触る。つぷつぷと焦らすようにしてから入れると、「あっ」と声が漏れた。

「んひ、…っあ、ひもち、い♡」

 ひんひん喘ぎながら、フェリの顔を思い出す。あの剣だこだらけの手が僕に触れて、撫でて、奥まで弄ってくれたら、どんなに気持ちいいだろう。女の子にモテるのに、それには目もくれずに剣を振るっていたフェリ。あの逞しい身体で、いいようにされたい。
 絶対にありえないけれど。耳元で優しく、名前を呼ばれたら。

「きもちい、よぉ……♡」

 最低だってことは分かってる。だけどもういいだろう、と開き直ってもいた。どうせ、二度と会うことはないんだし。
 フェリ、かっこよくなってたな。大人っぽくなってた。

「ひうっ」

 くん、と腰が反った。僕のものが欲を吐き出して、どろりとした白濁が下腹部へべったり着く。
 それをぼろきれで拭きながら、僕はもう一度身体をまさぐった。

 自慰行為に耽り、疲れたら本を読む。そんな爛れた生活を送って、数日経ったときだ。
 扉が、ノックされた。

「誰だろ」

 僕はたまたま読書中だった。本を閉じて、玄関へと向かう。どうせ近所のおじいさんが野菜を分けに来てくれたとか、向かいの人がしばらく留守にするとか、そういう用事だろう。

「はーい」

 不用心に扉を開けると、そこに立っていたのはフェリだった。
 血走った目で、武具をフル装備して、返り血を全身に浴びて、立っていた。

「エル」

 僕は、そのまま扉を閉じた。なんだ今の。

「エル!」

 そして、猛烈な勢いで扉がノックされる。僕が飛び上がって腰を抜かすと、扉が勢いよく開いた。

「エル……!」

 フェリはべったりと血のついた掌で、へたりこんだ僕を抱きすくめる。頬ずりまでされた。僕が目を白黒させていると、彼は僕へすがりつく。

「俺が悪かった。これは慰謝料だ」

 懐から、革袋を取り出す。そっと中を開けると、ものすごい量の金貨が入っていた。僕がパーティーで稼いだ貯蓄額と、同じくらい。

「へ」
「それから、これも」

 同じような袋をぽいぽい出して、フェリは無造作に床へ置いた。僕が事態についていけずに黙り込むと、フェリは俺の手を握る。

「俺、考えたんだ。言葉足らずで、お前に苦しい思いをさせてたんだって、反省した」

 それがどうして、この大量の現金へ結びつくのか。おろおろと彼を見上げると、「だから」と、彼は一呼吸置く。

「俺が、お前の一生の面倒を見る。これはそのための資金だ」
「待って」

 僕が制止をかけると、フェリは「エル」と情けない声を上げる。そのまま膝をついて、「お願いだ」と懇願する。

「い、いやだ! 何を言っているんだ、きみは」

 僕は咄嗟に叫んだ。フェリは「そんな」と呆けたように口を開ける。僕がそのわがままを受け入れることを、前提にしていたのかよ。かちんと来た衝動のまま、口を開く。

「そんなってなんだ、いきなり押しかけてきて」

 俄然、怒りが湧いてきた。僕の気も知らないで、何を勝手に言っているんだろう。このちょっと顔がいいだけのガキは。
 言いたいことはたくさんある。ひとまず深く息を吐いて、フェリを睨みつけた。

「きみの言葉で僕がどれだけしんどかったか、分かる?」

 分かりやすく怒気をにじませた。だけどフェリは、それに怯みもしない。

「分からない。だけど、慰めたい」
「その『慰める』っていうのがよく分からないんだけど。きみはなんで僕を慰めたいワケ。自分が間違ったことをしていたことに耐えられないの?」

 次々言葉のつぶてを放つ。フェリは「違う」と、僕の腕を掴んで言った。逃がさないとばかりに、力がこめられる。

「好きなんだ」

 途端に、重苦しい沈黙が、狭い家の中に満ちる。僕はなんと返事をすればいいのか、分からなかった。

「何言ってるの」

 僕がやっと掠れた声で尋ねれば、「そのままの意味だ」とフェリは僕の手を取る。
 プロポーズみたいに手を握って、顔を真っ赤にして言い募った。

「エルが好きだ。これまで素直になれなくて、ごめん」

 じわじわと身体が熱くなって、胸が否応なしに高鳴る。僕はいやいやと首を横に振りつつ、「信じられない」とそっぽを向いた。

「勘違いじゃないの」
「じゃあ、俺は勘違いで、何年も金を貯めてきたっていうのか?」

 フェリは手を強く握り、「エル」と僕を呼ぶ。

「エルが抜けてから、俺、ずっとお前を探していたんだ。どこへ行ったか仲間に聞いても、教えてもらえなくて」

 僕は黙り込んで、フェリに握られた自分の手を見た。大きな掌が僕の手をちょこんと乗せて、僕の素肌にも血がべっとり付いている。

「もうダメかと思って、荒れた日もあった。だけどやっぱり諦めきれなくて、冒険者を続けていたんだ。そしたら、本当に会えた」

 幸せそうにとろりと笑みを浮かべ、フェリは僕の手を額に当てる。突き放すこともできなくて、僕はただただそれを見つめるだけだ。

「俺がエルを傷つけてたなら、謝る。どんな償いでもする。だから、俺と一緒に来てくれ」

 図々しくて、傲慢。僕は唇を噛み締めた。
 何が悔しいって、こんな口説き文句でときめいてしまっていることだ。

「……なんで、そんなに血みどろなの」

 ずっと気になっていたことを、やっと尋ねる。フェリは瞬きをして、僕を見上げた。

「ドラゴンを倒してから、すぐ来た。これはドラゴンの血だ」

 僕はすっかり呆れてしまって、ため息をついた。彼は僕を見つめているけれど、その奥に、怯えを見つける。

「なあ。エルは、俺が嫌いか……?」

 返事の代わりに、僕は鼻を鳴らした。フェリはただ僕の手を握るだけで、強引に何かをしようという気配はない。いや、家宅侵入を強引にしている状況なわけだけど。

「ねえ。フェリ」

 ちょっとからかってやろう。僕はにんまりと目をたわませて笑い、手を離した。

「僕のことが好きなのに、あんなこと言ってたわけ。弱いとか、引っ込んでろ、とか」
「……そうだ。あの頃の俺は、馬鹿だった」

 うなだれるフェリを、「ばか」と罵る。あえて優しく、魅了するように。

「そんなの、信じられないな。普通、好きな子には優しくするんじゃない?」
「あ、ああ」

 僕は立ち上がり、フェリを見下ろした。彼は跪いたまま、僕を見上げる。
 その顔が赤くなっているのを見て、僕は、僕の優位を確信した。

「これから先、ちゃんと僕に優しくできる? 『弱い』って言われるの、結構こたえてたんだからね」

 椅子に座って足を組み、つま先を彼の目の前で揺らす。フェリは僕の踵からどんどん視線をあげていって、やがて僕の目を見た。

「もう言わない。それに、エルは強い。あれは俺が強がりたかっただけだ」
「最低。僕の気持ちとか、考えたことなかったの?」

 毒を流し込むように罵りながら、フェリの頬を撫でる。フェリは戸惑ったように視線を揺らしながら、それでも僕から目を逸らさなかった。
 はっきり言って、愉快だ。

「フェリ。シャワーを貸してあげるから、浴びていきなさい」

 頬を撫でて指を離すと、それを追うようにフェリがそこを食んだ。そのまま掌を掴まれて、唇が押し付けられる。ぞくり、と背筋に、よくない興奮が伝った。

「そういうことに、誘ってるのか」
「ああ。分かる?」

 フェリのたくましい腕が、僕の貧弱な腰へ回される。下腹部へ懐きながら、獣のように息を吐いた。

「シャワーを浴びておいで。汚い手で、僕に触れないで」

 それに弾かれたように、フェリは立ち上がった。僕の手をしっかりつかんで、「どこにある」と尋ねる。必死かよ。

 僕はシャワールームへ彼を案内して、装備を解くのを手伝ってやった。それにすらフェリはいっぱいいっぱいみたいで、時折腰が揺れている。

「我慢してよ。ね」

 これは、気分がいい。僕はすっかり調子に乗って、わざとフェリの股間へ指を這わせたり、身体を押し付けたり、肌の近くで囁いたりした。そのたびにフェリはうめき、僕を欲情しきった目で見つめる。
 それに一回ヤれば、彼も頭が冷えるだろう。僕だって憧れの人とえっちができて、お互いにメリットしかない。すこしだけ痛む胸を無視して、僕はフェリを誘惑し続けた。

 キスしようとするフェリをシャワールームへ叩き込んで、僕も手を洗った。衣服を脱いでベッドへ上がり、布団にくるまる。
 潤滑剤をベッドサイドへ置いている間に、フェリが上がってきた。まだ髪は濡れていて、タオルを腰に巻いただけの姿で。

「はやかったね」

 僕が声をかけると、彼は「ああ」と、ぎこちなく返事をした。
 慎重にベッドへとあがって、そのすぐ側に置かれた潤滑剤に目を見張る。僕はそれを掌に出しつつ、体温で温めた。

「男とした経験はある?」
「……ない」

 悔しそうな返事には、意味深な笑みで返す。エルは、とは聞かれなかった。僕は彼にしなだれかかって、その手を僕の後ろへ導く。
「教えてあげる」
 なお、僕にもそんな経験はない。全部ひとり遊びで覚えたノウハウである。
 手に出した潤滑剤を彼の指へ移し、後孔の位置を教える。すぐに彼はそこを探り当て、つぷつぷと指を出し入れした。

「やわらかい」

 どこか絶望したような響きに、僕は上擦った声で答える。

「さっきまで、はいってたからね」

 ぐう、とフェリが喉を鳴らした。僕の首筋に噛みつき、歯を立てる。僕は悲鳴を上げて、フェリの指を締め付けた。

「他の男としてたのか……!」
「んふ」

 僕は曖昧に笑いつつ、腰を揺らして彼へ股間を押し付けた。フェリはそのまま指を奥へ進める。

「お腹のほう、ぐりぐりって、して」

 囁けば、その通りに刺激が与えられる。やがて奥のしこりに指があたり、腰が跳ねた。
 フェリはその隙を見逃さず、指を増やしつつ僕を責め立てる。胸元に吸い付き、僕の乳首を吸う。その濡れた熱と髪の感触に、僕はくすくす笑った。

「きもちい、……じょうずだね」

 それには返事をせずに、フェリはひたすら僕を責め立てる。僕のものはなんどか甘く達して、薄い精液を吐き出していた。お腹の奥はそんなことじゃ冷めなくて、ずっと、大きなもので埋めてほしいと蠢いている。

「フェリ、いれて」

 僕がねだると、フェリは顔をあげた。傷ついているようにも、怒っているようにも見える。あれ、と僕は首を傾げた。

「あんまり、楽しくない?」

 彼の頬を手で包んで尋ねると、「そうだ」と、彼は震える声で言う。

「好きな子が、他の奴とセックスしてるのは、いやだ……!」

 素直でかわいい。僕が思わず笑うと、すぐにお腹へ熱が当てられる。
 それはゆっくり胎内へ侵入して、僕をいっぱいにした。中はフェリに絡みついて離れず、ずっとそこを食んでいる。

「きもちい」

 僕がうっとり目を細めると、噛みつくようなキスが降ってくる。キスの経験なんかないから、必死でそれに溺れた。口の中がこんなに気持ちよくなるだなんて、知らない。
 フェリはそれを見て、薄暗い笑みを浮かべる。

「キスは、下手なんだ」

 ゆっくり、フェリが腰を揺らす。僕は悲鳴をあげながら、フェリにしがみついた。
 だんだん腰の動きが大きく、大胆になる。肉がこすれる快感で、僕はずっと甘ったれた声をあげていた。

「あ、ん、ね……、きもちい……」

 腰から下が蕩けて、フェリと一つになったみたいだ。お腹を撫でると、フェリの喉仏が大きく上下する。

「ぼくの、おなか、……フェリの、ちんちんが、すきなんだって」

 へらりと笑えば、「そこだけかよ」とフェリが毒づく。僕は突き上げられて、奥をこねられながら、くすくす笑った。

「ね、……ふぇり、ぼくの…どこ、が、すきなの……」
「ぜんぶ」

 泣きそうになりながらフェリが言う。その涙を拭ってやろうと手を伸ばすと、彼は指を絡めてシーツへ縫い付けた。
 最奥へ亀頭を押し付けて、僕のお腹をこねる。気持ちよくてうなると、「ぜんぶ」とまたフェリが言った。

「年上で、いつも落ち着いているところも、俺についてきてくれたのも、優しいのも、全部」

 別に、優しくはない。だけど気持ちよすぎて、僕の口からは意味のない音しか出なかった。
 フェリは一番奥をこちゅこちゅ叩きながら、「エル」とうなる。

「ここ、いれて。はいりたい」

 ぐう、と腰が押し付けられる。僕は本能的な恐怖で、身体を強張らせた。

「だ、だめ……」
「なんで?」

 苛立ったようにフェリが言う。だんだん、グラインドが大きくなってきた。

「なあ。いれてくれよ。他の男がエルのなかに入ったなら、俺はもっと深く繋がりたい」

 それは嘘で。本当は、はじめてで。だけどそれが声にならないくらい、僕は追い詰められていた。

「あ、あ……♡」
「エル。いれて」

 律動が激しくなる。奥をしきりにノックされて、叩かれて、だんだん開いていく。
 自分の身体の変化が怖かった。お腹の奥がじんと痺れて、僕自身の勃起したものがぺちぺちと下腹部を叩く。腰を持ち上げられて、ごちゅごちゅと奥を突かれたら、もう。

「こわい、……たすけて、フェリ」

 一際強く、腰が打ち付けられた。最奥がこじ開けられて、僕の身体が大きく跳ねる。それを押し潰すように、フェリが体重をかけてのしかかった。
 そのまま激しい律動が始まる。肉と肉のぶつかるはげしい音が寝室に響き、僕は必死でフェリにしがみついた。

「あ、おく……っ、は…っあ♡ あぁ……っ」

 息も絶え絶えの僕へ、さらにフェリがキスをする。もうダメだ。死んでしまう。だけど僕の身体は迎え腰を打って、フェリへ奉仕していた。

「や、やぁっ…たすけ、たすけて、ふぇり、こわい…っ♡ あ、ん、ん♡ あ…っ♡」

 ちかちかと視界が明滅する。絶頂が近い。僕は悲鳴を上げて、フェリへしがみついた。

「エル、いきそう?」

 フェリの低い声が、耳元から流し込まれる。身体が熱くて、汗みずくで、蒸れていた。僕の身体に、快楽が迸る。

「いく、いっ……!」

 がくん、と僕の身体が跳ねる。そのまま僕は、長くて深い絶頂へと上りつめた。腰がへこへこ揺れて、フェリにしがみついて、ただ体温に溺れる。
 そうしてやっと、重苦しい快楽が終わった。荒い呼吸を繰り返して、お互いの心臓の音を聞いて、身体の力が抜けていく。気づけば、お腹の上はびっしょり濡れていた。

「うわ」

 僕が色気のない声を上げると、フェリが腰を引いた。萎えたそれがゆっくり引き出され、名残惜しくも胎内から抜ける。あ、と声を上げると、彼は「エル」と僕の顔を覗き見た。

「大丈夫か? 俺、途中から、……」

 言葉に詰まる彼を抱きしめて、「気持ちよかったよ」と撫でてやる。背中を叩けば、「子ども扱いするな」と不満げな声が上がった。

「子どもと思ってたら、セックスなんかしない」

 フェリは、それきり黙り込んだ。素直でかわいい奴だ。
 裸の身体をどちらともなく寄せ合って、僕たちはベッドの上で身体を絡めた。

「あのね、フェリ。一個、嘘をついてたんだ」

 彼の体温に甘えながら、僕はぽつりと呟く。フェリは僕を抱きしめながら、「うん」と頷いた。

「その、……。僕、今日がはじめて」

 は? と、フェリが間抜けな声を上げた。だけど、嫌そうではない。
 僕は安心して、すっかりおかしくなって、彼に抱き着く。

「僕、性欲が強くて。お尻を自分でいじるし、それで結構楽しんでるんだ。それと」

 あのね、と、フェリの目を覗き込んだ。彼は驚きつつも、どこか期待したように息を詰まらせて、頷く。

「きみが好きだ。だから、きみのことを、めちゃくちゃオカズにしてた」

 僕の最悪な告白に、フェリはくつくつ笑った。そして彼の股間のものが元気になってきたので、僕はにっこり微笑んだ。

「本物がどれだけすごいか、教えてよ」

 フェリは「いいぞ」と、すっかり上機嫌で僕へ覆いかぶさる。僕はその体温に甘えるまま、彼の腕の中でたくさん鳴いた。

 気づけばとっぷり夜もくれて、僕たちは「満足」していた。どろどろの身体でベッドの上に倒れ込んで、フェリと指を組む。もう、何も出ないくらいした。

「エル。ごめん」
「なにが?」

 僕がきょとんとフェリを見つめると、「その」と彼は口ごもった。

「もうちょっと、ロマンチックな告白をすればよかった、というか」
「そんなのを演出しようとしたら、僕は逃げてただろうね」

 その眉間に寄った皺を、うりうりと指の腹で押す。フェリは「からかうな」とむくれつつ、僕を抱きしめた。

「……ずっと、素直になれなかった。傷つけた。ごめんなさい」
「ううん。僕も、ちゃんと言えばよかったね」

 ちう、とフェリの肩口に吸い付いた。真っ赤なキスマークに舌を這わせつつ、僕は穏やかに言った。

「これからは、何が嫌だったかちゃんと言う。きみが『いやだ』って言っても、僕が嫌なら言う」

 それと、と、僕は彼の肩口に顔を埋めた。

「変にからかって、ごめん。……他の男をにおわされるの、嫌だっただろ」

 フェリは僕の背中を叩いて、「全然」と笑った。

「あんなこと、なんでもない。エルのはじめてが俺でよかった」

 そして僕たちは笑い合って、キスをした。
 フェリはその後、すぐに剣士をやめた。僕たちは一生遊んで暮らせるくらいのお金を手に入れているから、働く必要なんてない。
 とはいえ暇だから、僕とフェリで、新しく何かをはじめるつもりだ。
 これから先の人生は、二人で歩いていく。だから話のタネは、多い方がいいだろう。
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王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、 その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。 「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。 最初から、選ばされてなどいなかったことを。 αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、 彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。 「愛してるよ」 「君は、僕たちのもの」 ※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

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