【R18】サディスティックメイト

皐月うしこ

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第3章:本当に欲しいもの

第3話:見知らぬ罪人

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太陽が沈むのは早い。
世界が入れ替わる時間はあまりにも刹那的で、まばたきをしているうちに変貌を遂げてしまうらしい。赤が紺と混ざり合う空の下で、林に囲まれた桟橋は黒の色が支配を強めるように迫ってくる。


「大丈夫、ですか?」


乃亜はなんとか声になる口で、目の前に現れた得体のしれない三人に現状を問う。
これが夢でなければ、三人は確かに泉の中から出てきた。魔法の泉が望みを叶えてくれたとは半信半疑でしかないが、にわかに信じがたい。容姿も雰囲気も、投げ入れた死体と目の前の彼らではつり合いが取れない。


「生き、てる?」

「ボクは処刑されたはずでは?」

「ここはどこだ?」


桟橋に這い上がったばかりの三人は、まだ意識が混濁しているらしい。無理もない。乃亜自身も現状を受け止めきれずに驚きは隠せない。


「あの、本当に大丈夫ですか?」


乃亜は息が整ってきた三人に向かって、恐る恐る声をかけていた。
彼らの言葉が聞き取れるということは、異世界の人物というわけでもないだろう。どういう仕組みでこの事態に至ったのかは知らないが、突然現れた三人に問いかける言葉は他に持ち合わせていなかった。
そうして震える手を伸ばした瞬間、手首は一番手前にいた褐色肌の男に掴まれて悲鳴を上げる。


「お前は誰だ?」

「えっ」

「俺に何をした」

「ちょっ…痛…やめ…なんで、振りほどけなッ」


いつもなら簡単に振りほどけるはずの腕が、力任せに振りほどいても振りほどけない。人形相手に力で負けたことは一度もない。それなのに捕まれた手首は暴れるほど強く握りしめられ、骨がギシギシと音を立てるように痛みを訴えていた。


「質問に答えろ」

「っ…私は、乃亜。そこの屋敷で暮らしています」

「屋敷?」

「見えるでしょ、あの林の向こうの屋根。あそこに住んでい…っ…もう、離して」

「そう乞われて離すとでも?」

「ヤッ…っ」


距離が離れるどころか、腕を強く引かれて褐色の肌に吸い寄せられる。
唇が触れるほど近くに寄った顔は、より綺麗な赤を瞳に宿し、狼狽える乃亜の顔を反射させている。何が悲しくて非力な少女に成り下がらないといけないのだろう。今まではこうではなかった。男と言えど人形はすべて、自分の言いなりに動く存在。
こんな感覚は知らない。
怖いという感情と、未知なものと対峙する好奇心の混ざった感覚は、初めてでどう扱っていいかわからない。


「キミが乃亜という名前で、ここがキミの住む屋敷の管理範囲内であることは理解しました」


乃亜は褐色肌の男の目を見つめていた顔を慌てて横に立つ存在に向ける。
ここに男は一人ではない。
三人のうち、一人ぐらい規格外が存在したとしても、残る二人はいつも通りに反応するかもしれない。そんな期待が胸をよぎった。


「見ていないで…ッ…助けて」

「なぜ、ボクが?」

「え?」


耳を疑う。
目の前で襲われている女を見て、眉ひとつ動かさない男の様子に、背筋が泡立つ気がするのは何故だろう。いくら視界が暗闇に染まっていく中にあるとはいえ、想像とは違う常識の訪れに、乃亜の顔は青ざめる。


「彼の腕に囚われている限りキミは逃げられません。彼がそうしなければボクが同じことをしていました」

「何、言って…っ…ンン!?」

「はーい。乃亜ちゃん、だっけ。うるさいから少し黙ってよっか」


再度暴れようとした体は、背後から口を塞がれるように抑えられて声を失う。
褐色肌の男の腕の中で手首を握りしめられ、腰を抱かれたまま、背後から迫った男に口を塞がれる。このままではどうすることもできない。断たれた退路に心拍が混乱する音が聞こえていた。
状況が理解できない。意味がわからない。全身全霊の力を込めても、男たちは平然を装ったまま綺麗な顔を崩さないでいる。「なぜ?」その問いに答えてくれる人もない。ただ混乱の中で理解できたことはひとつだけ、焦っても状況は悪くなる一方。抵抗すればするほど、彼らの雰囲気がささくれ立つほど恍惚に染まっていく。


「うん、いい子」


大人しく現状を受け入れる選択をした乃亜に、三人は赤い瞳で無言を交わし合う。
密着しているせいで伝わる鼓動。耳にかかる吐息。彼らが何者なのかはわからない。それでも湿った布が渇いた布に水分を移して、彼らが本当に泉の中から這い出てきた生物であることを物語っていた。
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