【R18】サディスティックメイト

皐月うしこ

文字の大きさ
23 / 32
第3章:本当に欲しいもの

第3話:見知らぬ罪人(3)

しおりを挟む
乃亜はにこりとほほ笑んで、三人に警戒心を抱かせない声を意識する。
なにはともあれ、執事の小言を避けるために、泉に持ってきた死体は無事に処分できた。
屋敷に招くことに成功すれば、あとは彼らが何者であろうと、それこそ執事に任せてしまえばいい。解かれた手首の無事を確かめながら、乃亜は三人と共に屋敷への道を引き返すことにした。


「キミは一人であの屋敷に?」

「いえ、執事と使用人はいますが、お母様は出かけていて滅多に帰ってきません。そういう意味では一人とも言えますね」

「さっき乃亜ちゃんが言ってた人形って何?」

「私の食事相手のことです。私は永年を生きる吸血一族ですので」

「ということは、ここは不死国か」

「不死国?」

「自分の育つ国も知らないのか?」

「私は、この屋敷以外の世界を知りません。あ、でもだからと言って不自由だと感じているわけでもないんですよ。皆さんが望むなら好きなだけ滞在していただいても大丈夫ですし、あ。そうだ」


後ろをついてくる三人を振り返って、乃亜は両手を叩いて提案する。


「お名前をお聞きするのを忘れていました」


同じく足を止めた三人は一度何かを考える間を置いた後で、その唇を三日月形に捻じ曲げた。


「一度死んだ名だ。好きに呼べ」

「その方が都合がいいかもしれませんね。では、ボクもキミに命名をお願いします」

「じゃ、オレも。乃亜ちゃんの好きな名前でいいよ」


こういうところはよく似ている。というより、息がぴったりだと表現した方が正しいのかもしれない。


「三人は面識があったのですか?」

「ううん、ないよ。今日が初めての顔合わせ」

「存在は知っていましたし、使用もしていましたけどね」

「使用?」

「名前は決まったのか?」

「えっ、あ、ああ。では、斎磨。萌樹。三織ということにします。特に意味はありません。今、思いついたままです。人形に名前をつけるときは、いつも直感でつけていましたし」


伺うように見つめた三人の顔に異論はないらしい。特に異議も唱えられなかったので、三人の名前は拍子抜けするほどあっさりと決まってしまった。


「これはなかなか。加虐心を煽る娘で喜ばしいと言いましょうか」

「本当の人形がどう扱われるか教えてあげたくなっちゃうよね」

「そうだな。躾ける必要はあるだろう」

「なにか言いましたか?」


たどり着いた屋敷の扉を開ける間際、聞こえた会話に振り返る。振り返った先には無言の微笑み。美形が三人並んで微笑むだけの姿は、夜の不気味な林を背景にしていても輝いてみえるのは新発見だった。
けれど、それに見惚れている時間はない。
玄関を開けた先、そこには仁王立ちで苛立ちを顔に貼りつけた執事が立っていた。


「お嬢様、屋敷を抜け出して一体どちら・・・おや、見ない顔ですね」

「斎間、萌樹、三織よ。そこで会ったの」

「会ったと申されましても、一体どちらで?」

「魔法の泉」

「またご冗談を」

「冗談じゃないってば」


執事が怪訝な顔をするのも無理はない。乃亜だって半信半疑の現実を疑いもなく信じろという方が無理な話だろう。
それでも執事は長年執事として仕えているだけのことはある。


「まあ、いいでしょう。明日の朝は仕事が一つ減ることを願っています」


屋敷内に入ることを許可した心意気に、乃亜は喜んで三人を招き入れた。


「じゃあ、斎磨、萌樹、三織をお風呂に入れて、屋敷の説明をしてあげて」

「はい?」

「実は昨日寝てないからすごく眠いのよ、お願いね」


乃亜は、これでひとつ肩の荷が下りたとホッとしながら執事に言伝して自室に帰ることにした。
今日は色々ありすぎた。今は泉の底で眠っている三人の人形からまさに言葉通り死ぬほど愛された身としては、そろそろ体を休めたい。徹夜で酷使した身体は眠気を訴えて乃亜の意識を枕へと誘っている。執事に任せた彼らの正体がどうであれ、ひとまず眠れば良案も思い浮かぶだろう。


「はぁ。お嬢様の世間知らずにも困ったものです。まあ、そう育てたのは奥様の命令でもありますが、少し甘やかし過ぎているような」


執事の小言は聞こえないふりをして、乃亜は悪夢のような現実から逃げるように眠りについた。

To be continued...
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...