世界を渡った彼と私

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ダンス

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意識が浮上する。
まだ頭が半分寝ているようで目を開けてもぼんやりとして思考がまとまらない。

ここ・・・はリビングだ。
なにしてたんだっけ。
そうだ、課題をやったあとレオンが来るまで少し仮眠を取ろうと思ってソファに横になったんだ。

いまなんじ・・・?

時計を見ようと身じろぎすると聞き慣れた低音が鼓膜を振るわせた。


「起きたのか?」


思わず飛び起きる。
レオンは声までいいから、寝起きに聞くには刺激が強い。
何かが滑り落ちたのを感じたけど、慌てて横を見たら1人掛けのソファにレオンが座っていた。
なぜか私のファッション誌を膝に乗せている。


「いつ来たの?」

「30分ほど前だな。」

「30分も?!」


確かに時計を見ると19:30だった。


「起こしてくれてよかったのに!」

「・・・疲れている時は休める時に休んだ方がいい。」


一瞬固まった様に見えたレオンは、ファッション誌に目を落としながらなんてことないように答える。
ページをめくる様が思わず写真に撮りたいぐらい絵になってる。
レオンもだいぶこっちの世界に馴染んだよね。

立とうとして、そういえばさっき何か落ちた気がすると下を見たら、やたら装飾がついた少し裾が長めのジャケットが膝にかかっていた。
持ち上げてみるとずっしりと重い。


「掛けてくれたんだ、ありがとね」


いつものと明らかにデザインも装飾も違うそれをレオンに返すと慣れた仕草で袖を通す。ジャケットを着て完成されたレオンはいつもの3割り増しキラキラしていた。物理的な意味でも。
白地に金の刺繍が施された上着には所々緑色の石が縫い付けられ煌めいており、胸ポケットに入れられた黒いハンカチが全体の印象を引き締めていた。
縫い付けられているのがエメラルドなのかビーズなのか怖くて聞けない。これだけでいくらすんだろう。それにしても、


「なんか今日のレオン、王子様みたいだね。」


いつもキラキラしてるけど、今日は前髪も上にあげていて、ザ王子様って感じだ。
なんでかちょっと微妙そうな顔をされた。


「今日は夜会があったから、終わってそのまま来た。」

「夜会?やっぱりそういうのあるんだ。夜会って何するの?ダンスとか?」

「そうだな。踊りと社交の場だ」

「踊りかー、私には縁がない世界だなぁ。」


レオンはちょっと考えるそぶりを見せたあと立ち上がと、私のそばまで歩いてきて手を差し出した。


「りりな嬢、私と一曲お相手願えますか?」


その言葉に、いつもの習慣でつい取ろうとした手を慌ててひっこめた。目を見開いてレオンを見上げる。もしかしなくても今ダンスに誘われたの?


「む、むりむりむり!私めちゃくちゃ運動神経悪いもん!ダンスなんて笑われた記憶しかないし!」

「少しステップを踏むだけだよ。」


笑いながら言うけど、私の運動神経の悪さを舐めないでいただきたい。小学校はずっと1と2を行ったり来たりだったし、中学のダンスでは後からみんなでビデオを見返している時に1人だけ動きが違うと言われた。あれは地獄だった。


「基本のステップだけ覚えれば、あとは私がエスコートするから。」


そんな期待に満ちた顔で言われても。
でも眉を下げながらダメか?と言われて、ダメ押しの様に私はりりなと踊りたいと言われたら、その手を取る以外私に選択肢はなかった










「こう?」

「そう、次は右足を引いて左足を前に。」

「どうじに?!」

「違う、音に合わせて、1,2、1,2、1,2,3,4」

「急に数字増やさないで!」


レオンに吹き出して笑われる
こっちは必死なんですよ。腰を持たれて密着してるけどそれどころじゃない。
なんとかステップは覚えたけど、レオンの足を踏まないことだけに意識を集中しないと大変なことになる 

「りりな」

頭の中で数を数えながら足を動かす、あれ、次はどっちの足だっけ。

「りりな」

やば、レオンの足踏みそうになった。


「りりな、こっちを見て」


顔を上げると至近距離でレオンと目が合った。前にも近くで見たことあったけど、あの時よりもずっと近い。緑の虹彩の中に金色の星が散っていのが見えた。綺麗で、吸い込まれそうになる。


「私だけに集中して。」


右手はレオンの肩、左手は繋いで、レオンの手が腰に回る。

レオンがゆったりとしたテンポの曲を口ずさむ。メロディーだけのそれは耳に心地よく馴染んで溶けていった。
ふわりと香る甘いコロン。
感覚の全てがレオンに惹きつけられる。

レオンが私の腰を引いて流れる様に動き始める。つられて私も足を動かしたけど、頭の中はレオンでいっぱいでステップのことなんて考える余裕は1ミリもなかった


視線を絡め、レオンにエスコートされるがまま体を動かす。
エスコートがうまいのか、さっきまでぎこちなくステップを踏んでいたのが嘘の様に踊れていた。
レオンが楽しそうにしているの見て私まで気持ちが高揚してくる。
気づいたら2人で笑いながらくるくると踊り続けていた。
正装のレオンと踊るとまるで自分がお姫様にでもなったかのような気がしてくる。いつもよりレオンがかっこよく見えて、ドキドキする。触れているところから心臓の音がレオンに伝わるんじゃないかと思った。
リビングにいることも忘れて、まるで夢の世界にいる様だった。


少し息が切れ始めた頃、レオンが優雅に一礼をして2人きりの夜会が終わる。


「こうして2人で踊るダンスも悪くないだろう?」

「・・・心臓に悪いかもしれない。」

「ははっ、では慣れる様にまた踊ろう。」


屈託なく笑うレオンに、嫌とはいえずその後もちょこちょこ踊ることになったのはまた別の話。










「りりなはこういったドレスは着ないのか?」


雑誌のページを見せられる。
いまは運動した後のティータイムだ。
私はコーヒー、レオンは最近ハマっているカフェオレ。
一度コーヒーをブラックで出してすごい顔をされてからは、ミルクで割って出す様にしている。コーヒーの香りがすごく気に入った様で、向こうでも探してみると意気込んでいた。あるといいね。
見せられたのは、さっきまでレオンが膝に乗せていたファッション誌のパーティードレスのページだ。


「可愛いとは思うけど、着る機会がないから・・・。」

「では贈ったら着てくれるだろか?」

「え、でも着ていく場所もないし、」

「私が見たい。」


ちょっと食い気味に言われた。
まぁレオンだけしか見ないならいいのかな。
どういうドレスがいいか聞かれたけど、わかんないから全部レオンにお任せにした。

約半月後、高いのでなくていいと言わなかったことを後悔することになった。


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