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嫉妬
しおりを挟む私は現在尋問されている。
誰からか。
相手は目の前に座る、なぜか不機嫌そうなレオンさんです。
始めはただ、私のバイト先の話をしていただけだった。
図書館でバイトが任される業務は本の貸出・返却処理と返却された本の整理が主だけど、よく質問されるのが蔵書の確認だった。タイトルがわかっていれば検索機で探すけど、たまにうろ覚えな情報だけで検索を頼んでくる利用者もいる。そんな時に頼りになるのが勤続10年だというベテランの司書さんだった。彼女は空き時間でもジャンルを問わず常に本を読んでいて、もはや住んでるんじゃないかって囁かれるほどいつ行ってもいる。そんな彼女は本を探すエキスパートでもあり、全然掠ってもいないキーワードからなぜか目的の蔵書を見つけてくるのだ。本人曰くひらめきと直感らしいけど、参考履歴として残している過去の事例を見せてもらったらお腹が捩れるほど笑った。人の記憶って本当に面白い。
そんな話をしていたはずなのに、レオンが例の高校生の話を振ってきてから雲行きが怪しくなってきた。
思わず目が泳いでしまって、私の一瞬の動揺を見逃さなかったレオンは食事の手を止めてじっとこっちを見ている。
顔はにこやかだけど、目が笑っていない。
レオンのこんな表情は初めてかも。
「あの待ち伏せ男が何かしてきた?」
いや、言い方。まぁその子なんだけど。
「ええと、こないだバイト終わりにちょっと、捕まって、」
「それで?」
娘を追求するお父さんみたいな圧を感じる。
一瞬言い淀んでから、告白された、と小さく付け加えた。
レオンが深いため息を吐く。悪いことをしたわけでもないのに何でか居た堪れなくて椅子の上で縮こまった。
「そう言う輩は諦めが悪い。次、がある可能性も腹立たしいが、二度と血迷わないよう身の程を明確に思い知らせるべきだ。」
私がそこに行けるのなら徹底的に分からせるのに、そう言って悔しそうに唇を噛む。
言葉がいつものレオンらしくない。ちょっと物騒だし大袈裟だと思うけど、心配してくれる気持ちはありがたいから黙って聞いておく。
そうしてレオンは懐から何かを徐に取り出した。
「次からはこれを私だと思って肌身離さず持っていて欲しい。」
そういって渡されたのは、抜き身の短剣だった。
レオンの持ち物にしては装飾もなくシンプルだ。いや、そうじゃなくて、
「こんなの持ち歩けないよ!私が危ない人だと思われちゃう!どこから出したの!?」
さっきまで何も持ってなかったよね、というかいつもうちにそんなもの持ってきてたの?!
いつになく過激なレオンを見るときりっとした表情で見返された。
「常に有事に備えておくのが私の信条だ。」
「そんなかっこよく言ってもダメなものはダメ。」
私捕まっちゃうから。高校生にナイフをちらつかせて追い払う自分を想像して青褪めればいいのか笑えばいいのかわからなくなる。笑い事じゃないけど。
この国には銃刀法というものがある事を丁寧に説明すると、しぶしぶ短剣をどこかに仕舞っていた。ほんとどこに仕舞ってるのそれ。
「それにたぶん、もう来ないと思う。」
「なぜそう言い切れるんだ?」
「今年受験だって言ってたし、最後すっきりした顔してたから。それにまた来ても大丈夫なようにバイトの曜日ずらしてもらったし、叔父さんから貰った防犯ブザーも持ってるからね。」
コロンとしたフォルムの赤い防犯ブザーを見せる。
叔父さんも過保護だけど、レオンはさらに上をいく過保護かもしれない。しかも過激派だ。
あの子は記念告白みたいなものだと思う。だからそんなに心配しなくても大丈夫だよ。
これ以上暴走する前に安心させるように言えばレオンの眉が下がった。今日はレオンの珍しい表情がたくさん見れる日だ。
「すまない、少し大人気なかった。初めての感情で少し冷静さを欠いてしまっていた・・・。これが・・・か。」
「え?なに?」
最後の方が聞き取れなくて聞き返すけど、何でもないと苦笑しながら首を振る。
「りりながそう言うのなら信じよう。だが、私がこの世界にいない間、りりなの事が心配なのは本心だよ。」
「うん、ありがとう。何かあったら相談するね。」
「・・・叔父さんよりも前に?」
え、もしかして叔父さんに張り合ってる?なにこの可愛い人。ちょっとにやけそうになったけど、黙ってこくこくと頭を縦に振るとやっと満足したのか少し冷めたカフェオレに口をつける。
でも、確かに私がレオンの立場だったらと考えるとちょっと、・・・かなり嫌かもしれない。
というかそもそも。
「レオンは、そういう人いるの?」
「そういう人?」
「その、よく会う人とか・・・」
なんとなくレオンの顔が見れなくて手元のマグをいじりながら言う。
「いないよ。」
期待した返事に勢いよく顔を上げてしまった。
レオンは少し逡巡したあと言葉を続ける。
「変な事を聞くが、りりなは、その、何か人と違うと思ったことはある?」
「違うって?」
「例えば、植物に関することで、りりなが近づくと成長が早くなる、とか。」
???
急な話の方向転換に思いっきり頭に疑問符が浮かんだ。久々のファンタジー要素だ。
「魔法が使えるのは、レオンの世界だけだよ。」
この世界では使えない。レオンが忘れているわけないと思うけど念のため言ってみる。植物と特別相性がいいと思った記憶はない。お花は人並みに好きだけど、切花は買っても植木鉢で育てたことはなかった。
「例の魔法陣の事なんだが、こちらで詳しい者に調べさせていくつか分かったことがある。まず、あの魔法陣は時間と座標をあえてここに設定している。連日、寸分違わず同じだ。乱れひとつない。驚異的なことだよ。
それと、魔法には一人一人異なる波長のようなものがある。魂に刻まれている物で、私たちはそれを法紋と読んでいるが、その形が先代の花姫と一致していることがわかった。」
「花姫?」
「花の乙女、花姫、呼び名はいくつかあるが、大地を癒し世界を豊かにする存在で、女神アリストティリアと並び豊穣と幸福、癒しの象徴だ。」
「・・・じゃあ、レオンをここに読んだのは、その花姫っていう事?」
よく話がわからないけど、魔法陣からその人の法紋が出ているのならそういう事なんだろう。
「まだ分からない。・・・私は、起こる全ては必然であり、必要だと考えている。このタイミングで私とりりなが出会ったことも、こうしてここにいることも、全て意味があるんだと思う。
・・・また何か分かり次第りりなにも必ず話すよ。」
レオンは少し困ったよう微笑んだ。
私はこの時、レオンの表情の意味をもっと考えるべきだった。
なんで私に花姫の話をしたのか。
魔法陣と花姫、そして私がどう関係しているのか。
どうして聞いておかなかったのかを、深く悔やむことになる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「シュミット、一見そうとは分からない見た目の暗器が欲しい。女性でも扱えるような。」
「リリナ嬢の許可が取れたら探しますね。」
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