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ラジオ越しの勇気
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「どうして俺は、何も言えないんだろう…」
夜の部屋。机の上に積まれた教科書は開かれることなく、悠真はスマホを握りしめていた。画面には、地元のコミュニティFM「FMさくら」の投稿フォームが映っている。「メッセージを送る」ボタンが、まるで挑発するように点滅しているように見えた。
FMさくらは、小さな町にある中学生にも人気のラジオ番組。朝の7時台に「通学応援メッセージ」というコーナーがあり、恋の相談や友達への応援、感謝の気持ちを匿名で放送してくれる。何度か聞いたことがある。「毎朝会う君に、話しかけられないけど、応援してます」なんて投稿に、パーソナリティの柔らかな声が乗る。
「もし…もしこれで気づいてくれたら…」
自分の声ではない。だが、自分の気持ちは、確かにそこにある。悠真はゆっくりと文章を打ち始めた。震える指先を、何度も深呼吸で抑えながら。
「朝、桜の下ですれ違う君へ」
毎朝、同じ時間にすれ違う君のことが気になっています。
君はたぶん、僕のことを知らないと思うけど、僕は知っています。
風に揺れる髪、制服のリボン、ペダルを踏む小さな音。
全部、僕の朝を特別にしてくれています。
名前は言えないけれど、君がこのメッセージを聞いていてくれたら嬉しいです。
ありがとう。
それだけでも伝えたくて。
メッセージを読み返すたび、恥ずかしさと高揚が入り混じる。まるで告白してしまったような感覚だった。でも、声を出さなくても、言葉にすれば何かが届くかもしれない。そんな希望に賭けてみたかった。
「送信…っと」
クリックした瞬間、体中の力が抜けた。ソファに背中を預け、ふぅ、と長い息を吐く。あとは、朝の放送を待つだけ。それが、人生で初めて誰かに「想いを伝える」ということだった。
そして翌朝。
いつもの桜並木を、自転車で走りながらイヤホンを耳に差す。ラジオの電波はやや不安定だったが、町の坂を下るにつれて、はっきりとアナウンサーの声が聞こえ始めた。
「さぁ、今朝も通学応援メッセージの時間です。まずは、ちょっとロマンチックな投稿から――」
悠真の心臓が跳ねた。次の瞬間、自分が書いたメッセージが、朝の空気の中に響き渡った。
「『朝、桜の下ですれ違う君へ』。毎朝、同じ時間にすれ違う君のことが気になっています…」
桜の香り、風の音、タイヤのこすれるアスファルトの振動。すべてが、まるで映画のBGMのように感じられる。不思議と涙が出そうになった。自分の心が、自分の体から離れて誰かに届いていく、そんな感覚。
すぐ前方、紗希の自転車が見える。今日もいつもと同じ。風を切る姿。だけど、彼女のイヤホンのコードが揺れているのを見て、悠真は確信した。彼女も、ラジオを聞いている。
ほんの一瞬だけ、紗希が振り向いた。いつもより少しだけ遅いタイミングで目が合った。悠真は、心の中で必死に問いかける。
「聞こえた? 気づいた?」
でも紗希は、何も言わず、何もせず、また前を向いて走っていった。
それでも、その目に宿る微かな動揺を、悠真は見逃さなかった。
夜の部屋。机の上に積まれた教科書は開かれることなく、悠真はスマホを握りしめていた。画面には、地元のコミュニティFM「FMさくら」の投稿フォームが映っている。「メッセージを送る」ボタンが、まるで挑発するように点滅しているように見えた。
FMさくらは、小さな町にある中学生にも人気のラジオ番組。朝の7時台に「通学応援メッセージ」というコーナーがあり、恋の相談や友達への応援、感謝の気持ちを匿名で放送してくれる。何度か聞いたことがある。「毎朝会う君に、話しかけられないけど、応援してます」なんて投稿に、パーソナリティの柔らかな声が乗る。
「もし…もしこれで気づいてくれたら…」
自分の声ではない。だが、自分の気持ちは、確かにそこにある。悠真はゆっくりと文章を打ち始めた。震える指先を、何度も深呼吸で抑えながら。
「朝、桜の下ですれ違う君へ」
毎朝、同じ時間にすれ違う君のことが気になっています。
君はたぶん、僕のことを知らないと思うけど、僕は知っています。
風に揺れる髪、制服のリボン、ペダルを踏む小さな音。
全部、僕の朝を特別にしてくれています。
名前は言えないけれど、君がこのメッセージを聞いていてくれたら嬉しいです。
ありがとう。
それだけでも伝えたくて。
メッセージを読み返すたび、恥ずかしさと高揚が入り混じる。まるで告白してしまったような感覚だった。でも、声を出さなくても、言葉にすれば何かが届くかもしれない。そんな希望に賭けてみたかった。
「送信…っと」
クリックした瞬間、体中の力が抜けた。ソファに背中を預け、ふぅ、と長い息を吐く。あとは、朝の放送を待つだけ。それが、人生で初めて誰かに「想いを伝える」ということだった。
そして翌朝。
いつもの桜並木を、自転車で走りながらイヤホンを耳に差す。ラジオの電波はやや不安定だったが、町の坂を下るにつれて、はっきりとアナウンサーの声が聞こえ始めた。
「さぁ、今朝も通学応援メッセージの時間です。まずは、ちょっとロマンチックな投稿から――」
悠真の心臓が跳ねた。次の瞬間、自分が書いたメッセージが、朝の空気の中に響き渡った。
「『朝、桜の下ですれ違う君へ』。毎朝、同じ時間にすれ違う君のことが気になっています…」
桜の香り、風の音、タイヤのこすれるアスファルトの振動。すべてが、まるで映画のBGMのように感じられる。不思議と涙が出そうになった。自分の心が、自分の体から離れて誰かに届いていく、そんな感覚。
すぐ前方、紗希の自転車が見える。今日もいつもと同じ。風を切る姿。だけど、彼女のイヤホンのコードが揺れているのを見て、悠真は確信した。彼女も、ラジオを聞いている。
ほんの一瞬だけ、紗希が振り向いた。いつもより少しだけ遅いタイミングで目が合った。悠真は、心の中で必死に問いかける。
「聞こえた? 気づいた?」
でも紗希は、何も言わず、何もせず、また前を向いて走っていった。
それでも、その目に宿る微かな動揺を、悠真は見逃さなかった。
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