恋模様

naomikoryo

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横山健二①

2:家族団欒

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「今日は健二、大活躍だったんですって!!」
嬉しそうに母が話し始めた。
テーブルの上には唐揚げ、焼きそば、エビフライがそれぞれ大皿に乗っていた。
てんこ盛りのサラダや焼き立ての食パンはそれぞれの前に置かれていた。
「そうか!さすがは母さんの子だな!」
大瓶のラガーを手酌で注ぎながら、風呂上りで首にバスタオルを巻いた父が言った。
父はは学生時代に野球をやっていたので小さい頃はキャッチボールをよくしたが、それでもバドミントンをしていた記憶のほうが多く、運動神経に関しては母親似だと納得しているようだ。
健二は大好物ばかりが食卓に並ぶ、こういった”特別の日”が大好きだった。
小学生の頃はテストで100点を取ってくると、その100点テストが10枚貯まるごとに好きなおかずをリクエストできる制度だった。
3歳上の姉の詩織も同じであった。
それでよくお互いにリクエストできる時は相談したりしていたが、詩織は高校2年生ぐらいになるとようやくスタイルを気にし始め、あまり食欲めいた事は言わなくなった。
それでも、こんなに豪華なテーブルを見ると笑顔で好きな物を少しずつ食べるのだった。
当然、てんこ盛りのサラダはこの姉の影響なのだ。

「あんた、部活ばっかりやってて勉強は大丈夫なの?」
自分は看護師になりたくて3年制の短期大学に行ってるものだからしょっちゅうこんなことを言ってくる。
「大丈夫だよ!!頭脳のほうは父さんに似たから!」
それを聞いて父は満足そうに微笑みながらビールを呑んでいる。
父は40代にして大手銀行の支店長を任されるエリートだ。
もとは関西出身のため京大にいったそうだが、東大でも楽々だったとおばあちゃんから聞いたことがある。
「ま、とにかく何をやりたいのかそろそろ決めたほうがいいよ、あんたは!」
そう言って箸を置くと、
「ごちそうさま!!・・・・・さて、お風呂にでも入ってきますか。」
と言って食卓を立ち上がった。
「でも、おめでとうね!」
と最後に健二の頭を撫でながら言った。
「ありがとう!!」
健二も嬉しくて言った。
普段は寮生活をしている姉はしょっちゅう実家に帰ってくるが、この日までは3週間ほど空いていた。
「まぁ、勉強なんて集中力さえあれば、かける時間じゃないからな。」
「そうね、テスト前は休みになるんだし、ま、大丈夫よね?」
なんて話をしているうちに姉が居間を出て行った。

すぐさま母は身を乗り出して、
「どうやら真弓は彼氏が出来たようなのよ・・・」
その一言で父が、
「何!!それはめでたいじゃないか!!」
「しっ!!大声出さないの!!」
父を制して、
「しっかり聞いたわけじゃないけど、そんな感じなんだけど・・・本人、ひどく恥ずかしそうだから・・・」
「聞かなかったことにしておくんだね!」
健二が言うと、
「そうそう、まだ知らない振りをしてなさい。」
「は~い。」
男二人は小さく返事をした。

(へ~・・・姉ちゃんがね~)
真弓は昔からお転婆で勝気なため、この辺では女番町とも言われていたぐらいだった。
今でも子供や年配者にはめっぽう優しく、同世代の悪ぶった男達には容赦なく食って掛かる。
思い込んだらすぐ行動の父が、
「女の子は何かと危険だから幼いうちから武道をやらせたほうがいい!」
と言って、小学2年生から柔道などやらせたものだから仕方が無かった。
しかも、身体作りと称して堂々たる体格と風格を身につけてさせてしまった。
部活も辞めてようやく色気づいた姉がダイエットを始めて今のスタイルとなったのは、つい半年ぐらい前のことだ。
「そのために痩せたのかな?」
健二は呟いた。

「お前はどうなんだ?」
父が急に言ってきた。
「は?」
「あれだよ・・・・・なんだ・・・・・・ほら・・・・・・・」
「??」
何だか良く分からないので唐揚げに手を伸ばすと、
「彼女とか・・・・・いないのか?」
「・・・・・・いない。」
唐揚げをかじった。
「好きな子とかは・・・・・・・いないのか?」
「・・・・・・いない。」
「部活も勉強もいいんだけど・・・・・・・高校生は・・・・・・もっと・・・・・・・こう・・・・青い春だろう!!」
「???」
「あなた、真弓にも散々言ってたけど・・・・・・・今度は健二?」
「そうだよ!!・・・・・普通だろう!!色恋ってのは!!」
「そうだけど。」
健二は無視してエビフライにかぶりついた。
「これ伊勢海老?」
「まさか~・・・有頭よ、有頭!」
「そっか~!!」
「おい、お前達・・・・・こら、健二・・・・・・・・男ってのはな~!!」
「ちょっと、呑み過ぎなんじゃないの!」
「そうじゃない!違うんだよ・・・・・・あれだ・・・・・・・こう・・・・・・チュッチュ、チュッチュと。」
「はいはい、チューがいいのね。」
(母が父にベロチューしている・・・って言ってもいつもの光景だけどね)
気にせず最後のサラダを平らげると、
「ごちそうさま!!・・・・・・部屋に戻って休むよ。・・・・・・・あっ、ちょっと肘痛いから湿布ない?」
母が父から離れて、
「あらそう・・・・・大丈夫なの?」
と聞きながら薬箱を出した。
湿布を取り出すと、
「貼ってあげるから来なさい。」
と言った。
健二は右肘を突き出して、
「この正に肘んとこ。」
と言った。
「あんまり痛むなら病院行った方がいいわよ。」
「うん・・・2,3日様子見るよ。」
そうして湿布を貼ってもらい部屋に戻った。
戻り際に父が、
「男ってのは、勉強や運動もいいけど、守りたい誰かとか手に入れたい誰かがいてこそ本領を発揮するんだからな!」
と言った。
「はいはい、そうだね・・・・・・・・そんな子が目の前に現れてくれるのを楽しみにしてるんだよ。」
ととりあえず言っておいた。
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