恋模様

naomikoryo

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横山健二①

8:通院5回目

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「57番の札をお持ちの方は3番の診察室へお入りください。」
整形外科前で待っていた健二は受付で発行された『57』と大きく書かれた札の入ったファイルを持っていた。
今日は土曜日なので病院の中は慌しかったが、整形外科は比較的患者も少なく受付から30分かからずに呼ばれた。
診察室の引き戸のドアを軽くノックするとゆっくりとドアがスライドして開いた。
(あれ?これってもしかして!!)
「お願いしま~す!!」
声がちょっと浮ついた感じになってしまった
中に入るとあの看護助手がドアのすぐ横に立っていた。
彼女もまた笑顔で、
「こんにちは。」
と言った。
「すみません。」
と看護助手に言いながら椅子に座った。
もうすでに身体中が火照っているのが分かった。

「顔赤いけど、熱でもある?」
と女医さんに聞かれたが、
「いいえ、大丈夫です!!」
と笑顔で言った。
「おや、もう痛みは全然なくなった?」
と、健二の肘に近づきながら言うので、
「いえ、そうじゃなくて・・・・・だいぶいいですけど、ちょっとした物を持つだけでも痛いです。何もしていなければ、それほどは・・・」
そう聞いて女医さんは前回撮ったレントゲンを見ながら、
「そうねぇ・・・・・」
とちょっと考え込んだ。
健二はさっきから看護助手に気が行っているのでただ黙っていた。

(ようやくだ~!!)
ついついちらっと見るとこちらに笑いかけてくれる。
そのうち健二は自分で自分の動悸を聞いてるように、ドックンドックンという音が頭の中に響いていた。
(今日こそ何かしらの情報を・・・・・)
あからさまに見てはいけないだろうが、胸のネームバッジが見たいのだ。
(あれが見たい・・・・・でも・・・・・胸を見るみたいだし・・・・・・・)
そんなことを考えていると、
「ねぇ、横山君?」
はっと気が付くと、女医さんがこちらに正面向きになっていた。
「えっ・・・・・・・は・・・・・・はい!!」
素っ頓狂な声になっていた。
「やっぱり風邪でもひいてるんじゃない?そんな真っ赤な顔して。」
と言うので、
「い、いえ・・・本当に・・大丈夫ですけど・・・」
とまで言ったところで、
「ちょっとこのみ、体温計持ってきて。」
と看護助手に言った。
(やっぱり、このみ、とはいうんだな・・・でもそれが苗字なのか名前なのか・・・)
すると、
「は~い。」
と言って一旦奥に行き体温計を持ってきた助手さんが健二に近づいてくる。
そして、すぐ目の前まで来てスイッチを入れながら、
「じゃあ、これで計ってみてください。」
と渡してきた。
その時に、いすに座っていた健二の目線でバッジが見えた。
(木下・・・・・って書いてある・・・・・・・っていうか・・・・キティちゃん?)
確か、女医さんも受付の人やリハビリの人もそんな派手なキティちゃん柄のバッジではない。
しかも“木下”と書かれた文字は明らかに手書きで丸文字だ。
「はい。」
言われるままに体温計を脇に刺しながら、
(きっと子供相手なんかもするだろうから子供受け狙いだな・・・・・)
と決めた。

「最初の頃よりは改善してるけど・・・・・もう1ヶ月以上は経ってるから・・・・・手術してみる?」
唐突に女医さんが言った。
「すじゅちゅですか?」
(あっ、言えてない!!)
このみさんがくすっと笑った。
見ると女医さんも笑いをこらえた感じで、
「そ、そう・・・手術。」
体温計がピピッと鳴ったので出してこのみさんに渡した。
「36度です。」
「あら、全然大丈夫ねぇ。」
と女医さんは不思議そうな顔をしながらも、
「じゃあ、今日もとりあえずはいつものようにして、来週はお母さんと来てもらえる?その時によく説明するから。」
「わかりました。」
と言って健二は気が付いた。
「先生も木下っていうんですね。」
本当に何の躊躇もなくすっと出た。

女医さんはちょっとびっくりした顔をしたが、
「あぁ、ここのものだから・・・・・・ちなみにこの子は娘なの。」
と言った。
(何だと!!)
このみさんは笑顔で軽く頷いた。
「そうなんですか。」
大して興味も無いように言ってみたものの内心では、万歳三唱って気分だった。
「良く出来た助手さんですね。」
と言ってみると、
「実はここだけの話・・・・・助手でも何でも無いんだけどね。」
問題発言である。
(はい??)
「それって・・・・・」
「お手伝いなの。」
とこのみさんは可愛く言った。
「そ、そうなんだ・・・」
「君と同じ高校生なんだけど・・・・・あっ学年は一つ下ね。・・・・・たまに家業の手伝いをさせてみてるの。」
「家業??」
「そう、病院の・・・」
「あっ!!」
(ここ・・・木下病院!!)
健二の中で色々とつながった。
(お嬢様か~・・・・・)
これは無理かもしれない・・・と心が騒いだ。
「でも継がないけどね。」
このみちゃんは女医さんにあっけらかんと言った。
「まぁ、別にいいわよ。」
と女医さんも笑顔でこのみちゃんに言った。
(大丈夫かな?)
「まぁ、助手は免許が必要なわけじゃないから。」
女医さんはそう言ったので、
「おうちのお手伝いってことですね。」
そう健二は笑顔で言った。
「そうですわよ。」
と言って、このみはハッと口を塞いだ素振りをした。
(お嬢様だ・・・・・)
「ウフフ。」
とごまかすようにこのみちゃんは笑った。

「じゃあ、お大事に。」
とこのみちゃんに見送られ診察室を後にした。
(まぁ、今日はこれでいいだろう)
健二は清清しい気分で処置室に向かった。
注射はいつもより痛かったがニコニコしている健二を看護師さんは不思議そうに見ていた。
(このみちゃんか~)
まだ自分がすでに恋に落ちているなんて気付かない健二だった。
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