恋模様

naomikoryo

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三上良子①

2:涼との出会い

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「男手を使って」
そう言われたものの、これまで女性パートさんの人以外に男子学生が働いていた時間帯にはあまりいたこともなく、知っているだろう顔は無いに等しかった。
勿論、店長である父親は朝六時ごろから事務所にこもりっきりで在庫データ整理やら図書の手配やらで忙しくしているであろう。

店内を見渡してみると、丁度良子が立っている列の7mほど奥の絵本コーナーで、棚一番下の引き出しを開け補充をしていたのであろう状態でこちらを見ている青年と目があった。
少しポカンとした間抜けそうな顔に見えたが、仕事であればお客さんであろうが関係業者であろうが何も気負いなく接することのできる、割り切りの物凄い良子は、躊躇うことなく近付いて行った。

「すみません、アルバイトの方・・・ですよね?」
「はい、そうです。」
少し年上であろうその青年は丁寧にお辞儀をしながらそう言った。
「良かった。初めまして・・ですよね?・・・私もここの店長の娘の良子といいます。」
「そうですか。僕は、」
青年が名前を言おうとしたとき、良子の後ろの方から陽子の声が聞こえてきた。
「彼は半年ぐらい前から働いてもらっている矢崎君ね。あなたの二つ年上の大学三年生よ。家も近いから週明けのヘルプにもよく来てもらっているの。」
陽子に紹介されてしまったその青年は、
「矢崎です。」
と言いかけたが、すでに書棚に向かいながら作業している陽子が気付かずにそこにも割り込んで、
「基本は平日の夕方以降だから会ったことはないかもね。」
と更に大声で言った。

「・・・矢崎です。よろしくお願いします。」
もう大丈夫と思ったその青年が良子に向かってそう言いながら、また軽くお辞儀をした。
「こちらこそよろしくお願いします。」
良子もきちんとお辞儀をして挨拶を交わした。
「ではすみませんが、新刊の段ボールの搬入をお手伝いしてもらえますか?」
青年はちらっと店内の時計を見て、ちょっと考えて、
「勿論、大丈夫です。」
ニコッと笑いながらそう言うと、良子と更にその奥にいた陽子の横を足早に通り過ぎて行った。

これといってごく普通の青年なのだが、サラサラの髪とすらっとしたスタイル、おそらく170cmちょっとぐらいな背丈。
本当に取り留めない青年のようなのだがこの笑顔が良子にはとても印象が良かった。
(今まで見たことのない、人懐っこそうな爽やかな笑顔だ)
後に本人に称賛するほどインパクトが強かったようだ。

「彼、午前中しか時間無いから段ボール搬入と週刊誌の入れ替えだけは終わるよう誘導してね。月刊は今日中で大丈夫だから。」
陽子が言い、あちらの方へと走って行った。
「わかったー。よーし!」
良子も倉庫の方へ走って向かうのだった。
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