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三上陽子①
5:アルバイト募集
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気になっていた子供たちのそばの看板も無事外している様子を見届け陽子はホッとした。
そして陽子は改めて男の方を向いた。
「私はこのメガマートの一番左端の」
あそこよという感じで指をさし、
(人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗らなくちゃ。)
「三上書店に勤めている三上陽子です。あなたは?」
「僕はあっちの川沿いのアパートに住んでいる矢崎涼と言います。」
涼も方角を指さしながら言った。
「地元の人?」
見覚えのない顔だなぁといった感じで涼の顔をまじまじと見つめながら言った。
「え~っと、」
涼はちょっと困った感じで目線を逸らし、
「2年前にこの町に来ました。」
「そお・・・働いているの?」
「いえ、都内の大学に行ってます。」
「大学生か~。うちの妹も4月から大学生・・・になる予定なの。」
「そうですか。」
と話していると、涼が手ぶらなのに気付いた。
「午前中からいたの?」
「いえ、ついさっきたまたま通りかかったんです。何かやってるな~って思って。」
「そうなんだ。」
「僕もこういう祭りごとが好きで、地元ではよく司会進行役とかにされていました。」
(おぉ!!!)
陽子は、何か背筋がビビッとするのを感じた・・・ような気がした。
「そうなの?今日は餅つきがメインで無料で配っていたのよ。・・・良かったら持っていく?」
「あるならぜひお願いします。今日は朝から何も食べてなくて。何せ貧乏学生なので・・・アハハハ」
お腹をさすりながら笑いながら言った。
「ちょっと待っててね。」
陽子はそう言い受付横のテーブルに置いていた発泡スチロールの入れ物の一つの蓋を開けた。
中には祭り終了後に送迎バスで帰っていく予定のスタッフたちに渡す用の小さめのビニールの手提げ袋が入っていた。
だいたい1つの発泡スチロールに20袋ぐらい入っており、中身は350mlのペットボトルのお茶と割り箸と餅が3種類入ったパックだった。
3種類といっても、きな粉・あんこ・しょうゆにそれぞれ味付けがしてあるというだけなのだが。
(かなり余分目に用意してるし、自分の分もいらないし、あっ良子も少し食べ過ぎているからいらないな。)
と思いながら4袋を取り出すと蓋を閉め、おもむろに一つの袋にまとめた。
涼は周りの様子を見ながらニコニコしていた。
「はい、どうぞ。」
陽子は涼の斜め後ろの方から歩きながら袋を差し出そうとしたが、また突風が吹いた。
「あっ」
風にあおられ少しよろけた感じになった。
「あぶない!」
涼は咄嗟にそんな陽子に手を差し伸べるつもりで両手を広げると、陽子はその腕の中にすっぽりと体を預ける形になってしまった。
「あっ!!!ごめんなさい。」
陽子は自分でもびっくりして、すぐにちょっと後ろにぴょんと跳ねる感じで離れた。
「い、いえ。大丈夫ですか?」
涼は陽子を気遣うように言った。
「えぇ・・・」
陽子は自分ではわからなかったが顔が耳まで真っ赤になっていた。
「あっこれどうぞ。」
ビニール袋を差し出した。
「ありがとう。こんなに!」
パンパンになっている袋を受け取った。
「アルバイトとかしてないの?」
陽子は尋ねてみた。
「今年までは勉学にいそしむようにって親に言われているんです。春からはするつもりなんですけどね。」
「そう。」
少しがっかりしたように陽子は言った。
「正月休みの間しようと思っていたんですが昨日で終わっちゃったんです。それで金銭面ちょっと困っちゃって。」
涼は、アハハハと照れ笑いし、頭をかきながら言った。
「だったら春休みの間だけでもうちでアルバイトしてみない?」
「そこの書店でですか?」
と三上書店の方をちらっとみた。
「ちょうど先週男の子が一人辞めちゃって募集しようと思っていたの。」
「そうですか。いいんですか?」
「良ければ明日にでも面接に来てくれれば詳しい話が出来るけど・・・」
「内容が分かった方が良いですからね。書店とかお店でのバイトはしたことがないので・・・では明日伺います。何時頃がいいですか。」
「そうね。12時ちょっと前ぐらいはどう?今日のお礼に昼食は用意しておくから。」
「本当ですか?ありがとうございます。じゃあ、その時間でお願いします。」
とお辞儀をして、
「でも、お礼と言われても大したことは・・・」
「まぁ、いいじゃない。」
陽子はニッコリと涼の目を見た。
「あっ、履歴書書いてきたほうが良いですよね?」
「用意しておくから明日うちでアルバイトするって事になったら書いてくれればいいわよ。」
「そう、わかりました。」
「じゃあ、明日ね。」
涼もニコッとして
「明日お伺いします。」
又お辞儀をして駐車場の方へと歩き出した。
陽子はその涼の後ろ姿を見つめていた、が
「陽子ちゃん、そろそろ終了だからアナウンス始めて~。」
少し呂律のまわっていない市長の声が聞こえてきた。
「は~い。」
元気よく答え、マイクを手に取った。
さっき涼が使ったマイクを何となくちょっと見つめて、口元へ近づけるのだった。
そして陽子は改めて男の方を向いた。
「私はこのメガマートの一番左端の」
あそこよという感じで指をさし、
(人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗らなくちゃ。)
「三上書店に勤めている三上陽子です。あなたは?」
「僕はあっちの川沿いのアパートに住んでいる矢崎涼と言います。」
涼も方角を指さしながら言った。
「地元の人?」
見覚えのない顔だなぁといった感じで涼の顔をまじまじと見つめながら言った。
「え~っと、」
涼はちょっと困った感じで目線を逸らし、
「2年前にこの町に来ました。」
「そお・・・働いているの?」
「いえ、都内の大学に行ってます。」
「大学生か~。うちの妹も4月から大学生・・・になる予定なの。」
「そうですか。」
と話していると、涼が手ぶらなのに気付いた。
「午前中からいたの?」
「いえ、ついさっきたまたま通りかかったんです。何かやってるな~って思って。」
「そうなんだ。」
「僕もこういう祭りごとが好きで、地元ではよく司会進行役とかにされていました。」
(おぉ!!!)
陽子は、何か背筋がビビッとするのを感じた・・・ような気がした。
「そうなの?今日は餅つきがメインで無料で配っていたのよ。・・・良かったら持っていく?」
「あるならぜひお願いします。今日は朝から何も食べてなくて。何せ貧乏学生なので・・・アハハハ」
お腹をさすりながら笑いながら言った。
「ちょっと待っててね。」
陽子はそう言い受付横のテーブルに置いていた発泡スチロールの入れ物の一つの蓋を開けた。
中には祭り終了後に送迎バスで帰っていく予定のスタッフたちに渡す用の小さめのビニールの手提げ袋が入っていた。
だいたい1つの発泡スチロールに20袋ぐらい入っており、中身は350mlのペットボトルのお茶と割り箸と餅が3種類入ったパックだった。
3種類といっても、きな粉・あんこ・しょうゆにそれぞれ味付けがしてあるというだけなのだが。
(かなり余分目に用意してるし、自分の分もいらないし、あっ良子も少し食べ過ぎているからいらないな。)
と思いながら4袋を取り出すと蓋を閉め、おもむろに一つの袋にまとめた。
涼は周りの様子を見ながらニコニコしていた。
「はい、どうぞ。」
陽子は涼の斜め後ろの方から歩きながら袋を差し出そうとしたが、また突風が吹いた。
「あっ」
風にあおられ少しよろけた感じになった。
「あぶない!」
涼は咄嗟にそんな陽子に手を差し伸べるつもりで両手を広げると、陽子はその腕の中にすっぽりと体を預ける形になってしまった。
「あっ!!!ごめんなさい。」
陽子は自分でもびっくりして、すぐにちょっと後ろにぴょんと跳ねる感じで離れた。
「い、いえ。大丈夫ですか?」
涼は陽子を気遣うように言った。
「えぇ・・・」
陽子は自分ではわからなかったが顔が耳まで真っ赤になっていた。
「あっこれどうぞ。」
ビニール袋を差し出した。
「ありがとう。こんなに!」
パンパンになっている袋を受け取った。
「アルバイトとかしてないの?」
陽子は尋ねてみた。
「今年までは勉学にいそしむようにって親に言われているんです。春からはするつもりなんですけどね。」
「そう。」
少しがっかりしたように陽子は言った。
「正月休みの間しようと思っていたんですが昨日で終わっちゃったんです。それで金銭面ちょっと困っちゃって。」
涼は、アハハハと照れ笑いし、頭をかきながら言った。
「だったら春休みの間だけでもうちでアルバイトしてみない?」
「そこの書店でですか?」
と三上書店の方をちらっとみた。
「ちょうど先週男の子が一人辞めちゃって募集しようと思っていたの。」
「そうですか。いいんですか?」
「良ければ明日にでも面接に来てくれれば詳しい話が出来るけど・・・」
「内容が分かった方が良いですからね。書店とかお店でのバイトはしたことがないので・・・では明日伺います。何時頃がいいですか。」
「そうね。12時ちょっと前ぐらいはどう?今日のお礼に昼食は用意しておくから。」
「本当ですか?ありがとうございます。じゃあ、その時間でお願いします。」
とお辞儀をして、
「でも、お礼と言われても大したことは・・・」
「まぁ、いいじゃない。」
陽子はニッコリと涼の目を見た。
「あっ、履歴書書いてきたほうが良いですよね?」
「用意しておくから明日うちでアルバイトするって事になったら書いてくれればいいわよ。」
「そう、わかりました。」
「じゃあ、明日ね。」
涼もニコッとして
「明日お伺いします。」
又お辞儀をして駐車場の方へと歩き出した。
陽子はその涼の後ろ姿を見つめていた、が
「陽子ちゃん、そろそろ終了だからアナウンス始めて~。」
少し呂律のまわっていない市長の声が聞こえてきた。
「は~い。」
元気よく答え、マイクを手に取った。
さっき涼が使ったマイクを何となくちょっと見つめて、口元へ近づけるのだった。
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