22 / 120
矢崎涼①
10:バイト初日④
しおりを挟む
午後2時10分。
遅めの朝食だったため昼の間の休憩では食事を取らず、今から食事を取ろうとメガマートの弁当コーナーへと向かった。
陽子の話では、出勤回数分で清算されるので何だったら出勤しない時でも食券を使って給料天引きにするのも全然大丈夫だと言われた。
ただ、弁当ばかりだと栄養が偏る可能性もあるが、弁当コーナーの人がパッと見て値段が分かるものであれば、例えばサラダや惣菜でもいいんだと教わった。
(とにかくどんなのがあるか一通り見てみよう)
と、ワクワクしながら眺め始めた。
普段は基本的に自炊しているので、特にメガマートの弁当コーナーは見た記憶がなかった。
学校帰りとかで疲れていて弁当でも、と思うよな時は駅向こうのコンビニで買ってしまうからだ。
(へぇ~、結構色々種類があるんだ~)
と感心するぐらい並べられていた。
弁当だけで40種類、他に寿司ものやおにぎりなどがあった。
(おっ、酢豚弁当がある!)
涼は酢豚が大好物で、特に母親が作るパイナップルの代わりに梨を入れたのがお気に入りだった。
自分で作れないことはないが、やはり一人で揚げ物をする気にはなれないもので、そのての物は弁当で食べるのが基本だった。
早速、酢豚弁当をかごに入れ向かいの総菜コーナーにあったサラダも入れた。
そして、惣菜の所で並べ直しているかなり年配そうな女性の店員さんを見つけ、
「済みません、隣の三上書店で今日からバイトで入った者ですが、これでお支払して良いでしょうか?」
「はいはいお待ちくださいね。」
かごと食券を受け取って総菜コーナー側の店員用の出入り口から中に入ってしまった。
1分ほどでビニール袋を持って現れ、
「はいこれね。」
と渡してくれた。
「ありがとうございます。」
軽くお辞儀をしてメガマートを出た。
(どこで食べようかな?)
とりあえず時間もあることだから一旦部屋に戻ろうと思った。
駐車場領域を半分くらい進んだところで、
(あっそうだ。自転車置くとこ聞いておこう。)
書店の方へ向き直して歩き出した。
今後スタッフとしては店左横の倉庫にあるドアから出入りするように言われたのでそちらに向かった。
すると、その真向のフェンスに隣接して駐輪所があった。
ちょっと昔に流行ったチェーンを前輪にかけて鍵が刺さっている部品の上に100円玉を乗せて鍵を引き抜くと100円玉がロックされて鍵がかかるタイプのものだ。
無断放置とセキュリティを考慮したものだ。
(これなら安心だな。今度からは自転車で来よう!)
「さて。」
部屋に戻ろうと思いまた歩き始めた時、倉庫側のドアが開き陽子が出てきた。
「あら、矢崎君、どうしたの?」
「弁当買ってきたので帰ろうと思ったんですが、自転車置き場を確認しようと思ったんです。」
「そうなの。それが置き場だから便利でしょ。」
「そうですね。今度からは自転車で来ますよ。」
「そうね。」
「どこか出掛けるんですか?」
「えぇ、今日はこれから図書館に打ち合わせに行くの。」
「図書館ですか?」
「在庫で古くなった本や中古本として1年売れ残った本は図書館に引き取ってもらっているの。」
「へぇ~、そういうこともあるんですか。」
「勿論、全然値段なんかないようなものだけど、処分されちゃうよりはましでしょ!」
「そうですね。・・・本が好きなんですね?」
「矢崎君も何か思いついたら教えてね。」
「何かですか?」
「そう。何でもいいから、何かひらめいたら教えてね。みんなが働きやすいのもそうだけど、本が色んな人の手に渡れることもしたいの。」
(あの古くなったパソコンも活用すればいいよな)
とふと思った。
「分かりました。もう僕も三上書店の人間ですから、陽子さんに協力を惜しみませんよ!」
胸を張っていった。
「ありがとう、頼りにしちゃうね。」
満面の笑顔で言った。
「可愛いですね。あっ、いえ、あ~・・・任せてください!って言おうとしたんです。ハハハハ」
「あっ、そ、そう」
陽子はあまりはっきり聞こえなかったらしく、ちょっと首をかしげた。
陽子がオレンジ色のデミオに乗りメガマートの敷地から出ていくのを道路沿いで見送ると、アパートの方へ向かって歩き出した。
一緒に乗っていかないかという誘いも図書館が反対方向なのは分かっていたため断った。
いくら暇だからとはいえ図書館まで付いていくのも今日からのバイト人じゃおかしいので、とりあえず駅の方に用事があることにした。
それにさすがにお腹がすいてきた。
部屋に戻ると、冷蔵庫から祭りでもらったペットボトルのお茶を出し、テーブルの上に全部を並べた。
テレビをつけチャンネルを変えてみたが、どこもこれと言った番組はなく、大晦日にやっていたであろう番組の再放送をぼんやり見ながら食べ始めた。
(たぶん恋しちゃうんだろうな・・・)
と考えた。
どう考えても涼のタイプそのものだった。
(年上で、髪がすらっと長く、出来れば美形で、メガネをしていて、スタイルもよく、愛想もよく、社交的で、理知的で、それでいてどこか可愛らしくて・・・だめだ・・・無理だ・・・俺になんとかなるわけはない・・・)
と、さっき恋心に気付いたばかりで早々と勝手に失恋した気分になってしまった。
(・・・でもせっかく出会ったんだから出来るだけ仕事では役に立てるように頑張ろう)
と思い、
(そうだ、とりあえずあのツールを持参しておこう)
まだ途中ぐらいしか食べていない弁当を放っておいて、枕元の棚の中を探し始めた。
5分ほど物をあっちこっちに出しまくった結果それは見つかった。
「あったよ!」
それは1本のUSBメモリーだった。
ちょっと前に自分のパソコンが調子悪くなった時に作った、USB起動のLINUXが入っておりドライブ解析用やメンテナンス用のツールも抜粋して入れておいたのだ。
(まずは倉庫にあるあのパソコンの状態を確認しよう)
ただ、
(午後の仕事前にと思ったけど、さっき陽子さんが出かけてしまったから、閉店後に時間があればだな)
そのUSBメモリーをポケットに入れた。
そして弁当の残りを食べ始めた。
倉庫がちょっと埃っぽかったこともあり軽くシャワーを浴びて服を着替えてこたつに入っていた。
間もなく午後4時30分。
(さて、自転車乗って行くか!)
部屋中の電気を確認して外に出た。
気付かないうちに少しだが雪が降り始めていた。
遅めの朝食だったため昼の間の休憩では食事を取らず、今から食事を取ろうとメガマートの弁当コーナーへと向かった。
陽子の話では、出勤回数分で清算されるので何だったら出勤しない時でも食券を使って給料天引きにするのも全然大丈夫だと言われた。
ただ、弁当ばかりだと栄養が偏る可能性もあるが、弁当コーナーの人がパッと見て値段が分かるものであれば、例えばサラダや惣菜でもいいんだと教わった。
(とにかくどんなのがあるか一通り見てみよう)
と、ワクワクしながら眺め始めた。
普段は基本的に自炊しているので、特にメガマートの弁当コーナーは見た記憶がなかった。
学校帰りとかで疲れていて弁当でも、と思うよな時は駅向こうのコンビニで買ってしまうからだ。
(へぇ~、結構色々種類があるんだ~)
と感心するぐらい並べられていた。
弁当だけで40種類、他に寿司ものやおにぎりなどがあった。
(おっ、酢豚弁当がある!)
涼は酢豚が大好物で、特に母親が作るパイナップルの代わりに梨を入れたのがお気に入りだった。
自分で作れないことはないが、やはり一人で揚げ物をする気にはなれないもので、そのての物は弁当で食べるのが基本だった。
早速、酢豚弁当をかごに入れ向かいの総菜コーナーにあったサラダも入れた。
そして、惣菜の所で並べ直しているかなり年配そうな女性の店員さんを見つけ、
「済みません、隣の三上書店で今日からバイトで入った者ですが、これでお支払して良いでしょうか?」
「はいはいお待ちくださいね。」
かごと食券を受け取って総菜コーナー側の店員用の出入り口から中に入ってしまった。
1分ほどでビニール袋を持って現れ、
「はいこれね。」
と渡してくれた。
「ありがとうございます。」
軽くお辞儀をしてメガマートを出た。
(どこで食べようかな?)
とりあえず時間もあることだから一旦部屋に戻ろうと思った。
駐車場領域を半分くらい進んだところで、
(あっそうだ。自転車置くとこ聞いておこう。)
書店の方へ向き直して歩き出した。
今後スタッフとしては店左横の倉庫にあるドアから出入りするように言われたのでそちらに向かった。
すると、その真向のフェンスに隣接して駐輪所があった。
ちょっと昔に流行ったチェーンを前輪にかけて鍵が刺さっている部品の上に100円玉を乗せて鍵を引き抜くと100円玉がロックされて鍵がかかるタイプのものだ。
無断放置とセキュリティを考慮したものだ。
(これなら安心だな。今度からは自転車で来よう!)
「さて。」
部屋に戻ろうと思いまた歩き始めた時、倉庫側のドアが開き陽子が出てきた。
「あら、矢崎君、どうしたの?」
「弁当買ってきたので帰ろうと思ったんですが、自転車置き場を確認しようと思ったんです。」
「そうなの。それが置き場だから便利でしょ。」
「そうですね。今度からは自転車で来ますよ。」
「そうね。」
「どこか出掛けるんですか?」
「えぇ、今日はこれから図書館に打ち合わせに行くの。」
「図書館ですか?」
「在庫で古くなった本や中古本として1年売れ残った本は図書館に引き取ってもらっているの。」
「へぇ~、そういうこともあるんですか。」
「勿論、全然値段なんかないようなものだけど、処分されちゃうよりはましでしょ!」
「そうですね。・・・本が好きなんですね?」
「矢崎君も何か思いついたら教えてね。」
「何かですか?」
「そう。何でもいいから、何かひらめいたら教えてね。みんなが働きやすいのもそうだけど、本が色んな人の手に渡れることもしたいの。」
(あの古くなったパソコンも活用すればいいよな)
とふと思った。
「分かりました。もう僕も三上書店の人間ですから、陽子さんに協力を惜しみませんよ!」
胸を張っていった。
「ありがとう、頼りにしちゃうね。」
満面の笑顔で言った。
「可愛いですね。あっ、いえ、あ~・・・任せてください!って言おうとしたんです。ハハハハ」
「あっ、そ、そう」
陽子はあまりはっきり聞こえなかったらしく、ちょっと首をかしげた。
陽子がオレンジ色のデミオに乗りメガマートの敷地から出ていくのを道路沿いで見送ると、アパートの方へ向かって歩き出した。
一緒に乗っていかないかという誘いも図書館が反対方向なのは分かっていたため断った。
いくら暇だからとはいえ図書館まで付いていくのも今日からのバイト人じゃおかしいので、とりあえず駅の方に用事があることにした。
それにさすがにお腹がすいてきた。
部屋に戻ると、冷蔵庫から祭りでもらったペットボトルのお茶を出し、テーブルの上に全部を並べた。
テレビをつけチャンネルを変えてみたが、どこもこれと言った番組はなく、大晦日にやっていたであろう番組の再放送をぼんやり見ながら食べ始めた。
(たぶん恋しちゃうんだろうな・・・)
と考えた。
どう考えても涼のタイプそのものだった。
(年上で、髪がすらっと長く、出来れば美形で、メガネをしていて、スタイルもよく、愛想もよく、社交的で、理知的で、それでいてどこか可愛らしくて・・・だめだ・・・無理だ・・・俺になんとかなるわけはない・・・)
と、さっき恋心に気付いたばかりで早々と勝手に失恋した気分になってしまった。
(・・・でもせっかく出会ったんだから出来るだけ仕事では役に立てるように頑張ろう)
と思い、
(そうだ、とりあえずあのツールを持参しておこう)
まだ途中ぐらいしか食べていない弁当を放っておいて、枕元の棚の中を探し始めた。
5分ほど物をあっちこっちに出しまくった結果それは見つかった。
「あったよ!」
それは1本のUSBメモリーだった。
ちょっと前に自分のパソコンが調子悪くなった時に作った、USB起動のLINUXが入っておりドライブ解析用やメンテナンス用のツールも抜粋して入れておいたのだ。
(まずは倉庫にあるあのパソコンの状態を確認しよう)
ただ、
(午後の仕事前にと思ったけど、さっき陽子さんが出かけてしまったから、閉店後に時間があればだな)
そのUSBメモリーをポケットに入れた。
そして弁当の残りを食べ始めた。
倉庫がちょっと埃っぽかったこともあり軽くシャワーを浴びて服を着替えてこたつに入っていた。
間もなく午後4時30分。
(さて、自転車乗って行くか!)
部屋中の電気を確認して外に出た。
気付かないうちに少しだが雪が降り始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる