恋模様

naomikoryo

文字の大きさ
25 / 120
矢崎涼①

13:バイト初日終了

しおりを挟む
午後9時
結局書店営業は時間通り行ったが陽子の指示でその後の準備については翌朝でよいということになった。
みんな帰り支度を済ませ、親の迎えで帰る者と陽子さんが送っていく者とに分かれた。
最初は歩いて帰れるからと断ってはみたものの、40cmぐらい積もっている周りの田んぼを見て、素直に送ってもらうことにした。
(このみちゃんはお迎えなのか)
書店前でこちらに手を振っている姿を見て手を振りかえすと、なにやら物凄いベンツがこのみちゃんの前に停まり、運転していた人が降りて後ろのドアを開けてそこに乗り込んでいった。
(はっ??)
びっくりしていると、
「このみは木下病院の院長の娘さんなのよ。」
と涼を呼びに来た陽子が言った。
「そうなんですか。」
と言いながら、陽子の方に振り返り、
「すいません送ってもらうなんて。」
「いいのよ、危ないからね。先に横山君の家の方に回るけど、いい?」
「時間は全然大丈夫ですから。」
「じゃあ、二人とも乗って。」
と言われ、近くの都立国立高校3年生の横山健二と一緒に後ろの席に乗り込んだ。

20分後、駅からさらに先に行ったところで車は止まった。
隣の横山に一言二言声をかけてみたが会話は続かなかった。
「横山君、人見知りだからね。」
陽子さんが言って、それっきり10分くらい無言だった。

「じゃあ、また明日よろしくね。」
「はい、ありがとうございました。」
とだけ陽子に言って横山は車を降りた。
(確かにこのみちゃんの言うように真面目な感じでろくに喋らない子だな)
「じゃあ、次は矢崎君の所ね。どの辺りになるの?」
「え~と、駅からメガマートに向かう途中の今宵川沿いで・・・」
「コインランドリーの近く?」
「そ、そうですね。すぐ近くですね。そこで大丈夫です。」
「わかったわ。」
と言い、車が走り出した。

「どう?書店での仕事は?」
「今日はお客さんが少なかったらしいので何とも言えませんが、おおまかな事は分かりました。」
「そう。・・・じゃああとは慣れてもらうだけね。」
「そうですね。」
・・・
少し沈黙が流れて、
「このみとは仲良くなったのね。」
ボソッと言った。
「はい?・・・あっ、このみちゃん。明るくて良い子ですね。」
「そうなの。あの子は普段はなんかボーっとした感じなんだけど、仕事はきちんとしてるのよ。」
「そうですね!初めはこんな言葉づかいで、と思ったんですけど、お客さん来たらちゃんと応対してて、・・・びっくりしました。」
「去年の春に、本が好きだからって面接に来たんだけどこんな感じで接客されても、って思ったんだけど、いざやらせてみたら違ったのよ。」
「そうなんですか?」
「何をやらせてもすぐ覚えて、・・・まだ二年目なのに新人教育も任せちゃってるくらいなの。」
「それでですか。」
「そう。分かり易かったでしょ?」
「そうですね。確かに。」
ちょっと沈黙が流れて、
「あんな感じの子が矢崎君のタイプなの?」
「えっ?」
(何を言い出したんだろう)
「う~ん、今まで彼女なんていたことなかったから何とも言えませんが、」
(ど~する?とりあえず触りだけ言っておくか?)
「年上でしっかりとして、それでいて可愛い人がいいです。」
(言ってしまった!!)
「そう、・・・」
「まだまだ若いから、恋なんてこれからいっぱい出来るんでしょうね。」
(この人は鈍感なのかもしれないな~?)
鈍感な涼は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...