恋模様

naomikoryo

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木下このみ①

2:三上書店

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高校生になっても変わり映えのない毎日が1か月ほど続いたある土曜日の午後2時頃。
「このみちゃん、今夜はわたくし達は医学界のパーティーに出席しなければならなくなったのですが、あなたはどうする?」
「そうですね・・・あの退屈な時間は少し耐えられそうにありませんので、出来たら家にいたいのですが・・・」
「わかったわ、お父様には私から話しておくわ。」
「いつも気を使ってくださってありがとう、お継母さん。」
このみは本心からそう思い、笑顔で会釈した。
「そうそう、これで何か参考書と一緒に情報誌でも買うといいわ。」
5000円札をこのみに手渡すと、
「9時までには戻りますから後のことは頼みましたね。」
と居間の入り口に立っている家政婦に言い付けた。

昨夜の食事の際、
「お父様、明日参考書を買いに行きたいのですが?」
「そう、では運転手に書店まで送らせるから好きなものを買っておいで。」
「それと、あの書店には試し読みができるコーナーがありますので、少し時間をかけたいのですが?」
「それなら車で待たせておけば・・・」
「いえ、ゆっくり何冊か読みたいので、一度家に戻らせて2時間ほどしてから迎えに来てもらう風にしたいのですが?」
「そうか・・・」
考え込んでいる父親の腕に隣にいた母親がそっと手を置いて、軽く頷いた。
「わかった。ではそう伝えておこう。」
それを聞いて、このみは継母を見てほんの少しお辞儀をして見せ、継母もまた笑顔で頷くのだった。

継母は、相変わらず異常すぎる過保護な父親をなんとか少しずつ変えていこうとしてくれていた。
このみは小さい頃から成績は良く、現在では学年TOP10には必ず位置する秀才である。
運動神経は人並み以下で、おとなしく控えめで人見知りな性格である。
クラス内でも目立つことはなく、いつも何か本を読んでいる文学少女であるが、親しい友達とはおしゃべりをすることもあるし、お昼御飯も一人で食べることはまずない。
ただ、この過保護のせいで常識があまり分からず、かなり世間知らずなのである。
木下家ではテレビを見る習慣がなく、大きく広い居間にもテレビはなく、ソファーで文学書を読むのかクラシックを聴いているかぐらいであった。
継母は、そういったところも改善しようと居間に50インチの壁掛けテレビを取り付けてみたり、バスルームに防水テレビを付けてみたりしている。
先ほど言った情報誌も、おしゃれやアミューズメントなどに少し興味を持ってもらおうと思い最近よく言ってることだった。
しかし、そういった雑誌を買ってくることはまだ無かった。
参考書を買いに行こうとしている所は三上書店で、これまで何度かは行ったことがある。
奥にあるレストコーナーで試し読みができることも知っていたが、いつも運転手が待っている為そこで時間を使う事は出来なかった。
それが、今日は多少ではあるが自由な時間を与えられたみたいですでにこのみのテンションは上がっていた。
といっても、ちょっと口元が緩んでいるだけなのだが。

・・・

午後5時10分
そろそろ運転手が迎えに来る頃だと思い、このみは棚に本を戻すとあらかじめ選んでおいた参考書を4冊レジのカウンターへ置いた。
「いらっしゃいませ。あっ、え~と・・・木下さん!」
財布からお札を出そうと俯いていたがびっくりして顔をあげた。
「三上先輩!!!」
「おや~・・・参考書ばっかだね~。」
1冊1冊確認しニヤニヤしながら良子はバーコードを読み取っていた。
「こちらでアルバイトされているのですか?」
このみは驚いていた。
現在、副生徒会長を務めていて成績優秀、スポーツ万能の良子は後輩たちの憧れの的だった。
このみ達1年生はまだ入学仕立てではあるがあちこちから噂は聞こえてきていた。
また、入学前の学校説明会の時にこのみがいたグループを先導して説明してくれたのが良子だった。
確かにその時に少し質問をしたが、それだけで名前を憶えてもらっているのは嬉しかった。
「バイトというか、ここ、うちの店だから。休みの日は手伝ってるの。」
「そうなんですか?」
「そう。え~と、3200円になりますね。」
「あっ、はい・・・」
財布からお札を出しお釣りと本を受け取った。
「これからもご贔屓にね!」
「はい!!」
(きっと又休みの日に来れば良子先輩に会えるわ!)
このみはちょっとしたハプニングでドキドキしながら書店を出た。
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