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矢崎涼②
13:買い物
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1月12日木曜日 午前9時
結局陽子の体調は良くならず、しかも火曜日の夜から熱が出て寝込んでいる、という店長の話だった。
今朝はそれでも少し起きられるようになり、朝はみんなで食事をとったよ、と言っていたので少し安心だった。
何度か電話をしようかと思ってみたが、そんな調子の所にかけるのもと気が引けてしまった。
とにかく涼としてはパソコンの事もそうだが、単純に陽子の顔が見たくて仕方がなかった。
(誰かお見舞いに行こうって言わないかな?)
と思っていたのだが、そんな話は一向に出なかった。
いや、もしかすると単独でそうした人もいたのかもしれないが、少なくとも涼の耳には入ってこなかった。
もうすっかり冬休みモードではなくなった町は普段通りの様相に変わっていた。
涼が働く朝シフトでは学生の姿はなく、主婦やサラリーマンが主な客層になっていた。
今日は一日レジ担当ということで、愛想よく客対応をしているもののちょっとするとため息がこぼれてしまう始末だった。
(なんか・・・もう・・・恋する乙女かってんだよ・・・俺は)
そんなことを思いながら午前中が終わり、倉庫で一人食事休憩をしていた。
丁度食べ終わったころに倉庫のドアが開き外から懐かしい顔が入ってきた。
「陽子さん!!」
「あっ、矢崎君・・・お疲れ様。」
まだ顔色も悪く少しふらっとした感じで陽子が入ってきた。
しかも服装もいつものピシッとした感じではなく、フードつきのトレンチコートに下はロングスカートという格好だった。
「大丈夫なんですか?・・まだフラフラしているようですが?」
近付こうとして、
「えぇ、とりあえずはね。・・・だめよあんまり近付いちゃ・・・・風邪が移ってしまうわ。」
そう言いながら、コートのポケットから素早くマスクを出してつけた。
「ちょっと資料を取りに来たの。すぐに帰るわ。」
そう言いながら事務所の方へ向かおうとしている陽子を見て、支えようかと近づこうとしたが、
「ダメよ、近づいたら!!」
むきになったように言い、差し伸べようとした手を見て、陽子はいらないわ、というように手を振った。
陽子が事務所へ行く様子を見守りながら、仕方なく椅子に座った。
10分ほどして陽子が事務所からファイルを持って出てきた。
事務所にいる間も咳をする声は聞こえていた。
「車で来たんですか?」
涼が心配して聞くと、
「いいえ、バスで来たわ。・・・さすがに運転はまだ無理そうだから・・・」
「言ってくれれば届けたのに!」
「そうは言ってもこのファイルはあなたには分からないわ。」
「まぁそうですけど・・・・・無理しなくても・・・・」
「ちょっと顔を見たかったし・・・・」
「えっ?」
「いえ、何でもないわ!・・・それじゃあ、お店の方よろしくね。」
「それは大丈夫ですけど・・」
「あっ、明後日から実家に戻るのよね?・・・気を付けてね。」
「はい。・・・・・具合が直ったらパソコン買いに行きましょうね?」
「えっ?パソコン?」
「店長に聞いてないんですか?・・・倉庫のパソコン新しくしていいってことになって、陽子さんと二人で買ってきてくれって・・」
「そうなの?・・・・あのケチな店長がね~・・・・なんか家でも矢崎君の話してるから気に入ったのね、きっと・・・」
「そうですか・・・・とにかく、陽子さんの具合が良くなったらでいいですよ、楽しみにしてます!」
「フフ、本当にパソコンとか好きなのね!」
陽子はそう言って力なく笑って、
「じゃあ、行くわね。」
と倉庫のドアを開けて出て行った。
「お疲れ様でした。」
ドアが閉まる前に声を掛け、
「好きなのはパソコンじゃなく陽子さんなんだけどな~。」
と一人呟いた。
結局陽子の体調は良くならず、しかも火曜日の夜から熱が出て寝込んでいる、という店長の話だった。
今朝はそれでも少し起きられるようになり、朝はみんなで食事をとったよ、と言っていたので少し安心だった。
何度か電話をしようかと思ってみたが、そんな調子の所にかけるのもと気が引けてしまった。
とにかく涼としてはパソコンの事もそうだが、単純に陽子の顔が見たくて仕方がなかった。
(誰かお見舞いに行こうって言わないかな?)
と思っていたのだが、そんな話は一向に出なかった。
いや、もしかすると単独でそうした人もいたのかもしれないが、少なくとも涼の耳には入ってこなかった。
もうすっかり冬休みモードではなくなった町は普段通りの様相に変わっていた。
涼が働く朝シフトでは学生の姿はなく、主婦やサラリーマンが主な客層になっていた。
今日は一日レジ担当ということで、愛想よく客対応をしているもののちょっとするとため息がこぼれてしまう始末だった。
(なんか・・・もう・・・恋する乙女かってんだよ・・・俺は)
そんなことを思いながら午前中が終わり、倉庫で一人食事休憩をしていた。
丁度食べ終わったころに倉庫のドアが開き外から懐かしい顔が入ってきた。
「陽子さん!!」
「あっ、矢崎君・・・お疲れ様。」
まだ顔色も悪く少しふらっとした感じで陽子が入ってきた。
しかも服装もいつものピシッとした感じではなく、フードつきのトレンチコートに下はロングスカートという格好だった。
「大丈夫なんですか?・・まだフラフラしているようですが?」
近付こうとして、
「えぇ、とりあえずはね。・・・だめよあんまり近付いちゃ・・・・風邪が移ってしまうわ。」
そう言いながら、コートのポケットから素早くマスクを出してつけた。
「ちょっと資料を取りに来たの。すぐに帰るわ。」
そう言いながら事務所の方へ向かおうとしている陽子を見て、支えようかと近づこうとしたが、
「ダメよ、近づいたら!!」
むきになったように言い、差し伸べようとした手を見て、陽子はいらないわ、というように手を振った。
陽子が事務所へ行く様子を見守りながら、仕方なく椅子に座った。
10分ほどして陽子が事務所からファイルを持って出てきた。
事務所にいる間も咳をする声は聞こえていた。
「車で来たんですか?」
涼が心配して聞くと、
「いいえ、バスで来たわ。・・・さすがに運転はまだ無理そうだから・・・」
「言ってくれれば届けたのに!」
「そうは言ってもこのファイルはあなたには分からないわ。」
「まぁそうですけど・・・・・無理しなくても・・・・」
「ちょっと顔を見たかったし・・・・」
「えっ?」
「いえ、何でもないわ!・・・それじゃあ、お店の方よろしくね。」
「それは大丈夫ですけど・・」
「あっ、明後日から実家に戻るのよね?・・・気を付けてね。」
「はい。・・・・・具合が直ったらパソコン買いに行きましょうね?」
「えっ?パソコン?」
「店長に聞いてないんですか?・・・倉庫のパソコン新しくしていいってことになって、陽子さんと二人で買ってきてくれって・・」
「そうなの?・・・・あのケチな店長がね~・・・・なんか家でも矢崎君の話してるから気に入ったのね、きっと・・・」
「そうですか・・・・とにかく、陽子さんの具合が良くなったらでいいですよ、楽しみにしてます!」
「フフ、本当にパソコンとか好きなのね!」
陽子はそう言って力なく笑って、
「じゃあ、行くわね。」
と倉庫のドアを開けて出て行った。
「お疲れ様でした。」
ドアが閉まる前に声を掛け、
「好きなのはパソコンじゃなく陽子さんなんだけどな~。」
と一人呟いた。
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