三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

102 結界を越える

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 それから、しばらく前後で追従して進んでいくと、先導する船が急に速度を落として進路を横にそらした。そして並走する。

「この先をお進みください!成功を祈ります。」

「任せてくれ。」

 リヴィエラがどんどん後ろに離れていく船に手を振った。それに合わせて、シフィルとサチも大きく手を振る。

「世界をこの手に!」

 リヴィエラが右手を大きく挙げて叫ぶ。

 何事かと、シフィルとサチが驚く。リザも船の後方で操舵しながら身を乗り出してリヴィエラをじっと見ている。

「何でもない。」

 離れていく船では、その男が、リヴィエラと同じように右手を挙げていた。
 リヴィエラが遠ざかる船を眺めると、その場を離れた。

「子供の頃の合言葉か。」

 リヴィエラが誰にも気づかれないように、小さく笑った。


 舟はゆっくりと、確実に進んでいった。

「なんか緊張するね」

 船の先頭でサチが胸を押さえてどきどきしている。

 その横で、シフィルも言葉無くうなずくと、進む先をじっと眺める。

 リザはまっすぐに船を進めて、その後ろでリヴィエラが海図に、先程教わった事項を書き加える。

 他の船に見つからないように、船の全体の光を消したまま走行を続ける。
 周りには誰も居ないはず。星の光が邪魔なぐらい明るい。ほぼ無風。

 波音がそのまま耳に響くように、ザーザーとうるさく聞こえるようになる。

 サチが結界の割れ目が近づくにつれて、からだをブルブルっと震わすと、少しシフィルに近づく。

「ねえシフィル、これ、結界ってのに、ぶつかったらどうなるのかね?」

「ん。結界だからね。船が壊れるんじゃない?」

「結界って海の中までであるのかな?空を飛んだら抜けられるのかな?」

「結界だからな。そう簡単に抜けられないから、海の底から、空まであるんじゃないか?」

「そもそも、結界ってどうなってんだろう?これ、昔のご先祖様が張ったんだよね?」

「俺もさ、いまいち結界ってものがよくわかってないんだよね。サチはわかる?」

「当然わからないよ。っていうか、結界は本当にあるんだよね?」

「そりゃ、当然あるんじゃない?」

「じゃあさ、その部分で海が割れてるってこと?」

「それはないんじゃないかな。海水は通すんじゃない?風も通すし、なんか色々通すんじゃない?」

「そんな都合のいいものなのかね?」

「う・・・ん。見たことないしね。」

「そうだよね。」

 シフィルとサチが頭を抱えて考える。

「でもさ、結界で船が壊れるんだったら、先頭は危なくないか?」

「シフィル、冴えてるね。」

 慌てて、シフィルとサチが帆船後方のリヴィエラ達の操舵場に移動して、合流する。

「お前らな。」

 リヴィエラが呆れた表情をする。

「お二人の会話、聞こえてましたけど、もう結界は無事に越えましたよ。ここは結界外、外界です。」

 リザが優しく伝える。

「そっか。」

「カウントダウンして通りたかったのに。」

 シフィルとサチが顔を見合わせて、安堵の息を吐いた。

 そしてそのまま、夜が明けるまで全員が休むことなく、張りつめた空気のまま、コンパスで方向を確認しながら進んでいった。


 時間が経ち、空が薄っすらと明るくなる。

 視界が開けてくる。

「あーなんかある!」

 シフィルが船の先頭から、はるか前方に何か地平線からニョコっと生えたような、小さなもやもやとしたものを発見した。

 操舵しているリヴィエラを残し、サチとリザも先頭に集まってそれをじっと見つめた。

「まだ遠いですが、方向から考えると、あれが目的地の様ですね。」

 リザが両目を細めてじっくりと観察する。

 船が進むに連れ、どんどん大きくなっていく。

「未知との遭遇だね。」

 サチゴンを抱えたサチが楽しそうに笑うと、ぎゅっと抱きしめる。

 いつの間にかサチゴンと仲良くなっていたもんちきが、サチゴンの頭に乗り、帆船の進む先を背伸びして見つめる。

 もんちきは、航海初日から、ほとんど、シフィルの部屋の中で本を読んでいた。その本はフォーンがくれたもの。
 本の読みすぎで、目がしょぼしょぼして、顔が疲れているように見える。

 海は結界を通過する前も後も、色も音も匂いも揺れも変わらない。
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