三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

103 とりあえずおめでとう

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 帆船が進むにつれて、その地平線の小さなものが、どんどんはっきりとしてくる。

 茶色の大地、緑色の森林。陸地が姿を現す。

 今まで以上に監視を怠らずに、しっかりと確実に進んでいく。

「え、これ、思ってたのと違うんだけど。」

 サチが少しあきれるように、深く息を吐いた。空を見上げるように、首を上に高く向ける。

「これは、困ったね。上陸できない。」

 シフィルも同じように大きく戸惑って、その対処に困っている。
 目的地に到着した帆船の目の前には、海の底から空まで続いているような、荒々しい高い崖がそびえたっていた。

 上空を羽の長い黒鳥が複数羽旋回している。
 赤茶色の土が、幾層にも積み重なってできたような断層も見える。

 何か、急に山が縦に真二つに裂かれたような地形で、下部は波に削られ反ったような状態。
 登れるような道は全くない。

 絶壁から跳ね返る波が強く、崖近くでは帆船がその度に大きく揺れるため、少し離れた場所に停船させた。

 警戒のために錨は下ろさずにすぐに動かせるようにして、リザが帆船が流されないように、微調整を舵でとる。

「これなら人目につかずに接触ができるだろう。この辺りに案内がいるはずだから、周囲を調べてくれ。」

 リヴィエラが甲板を歩きながら、まわりをキョロキョロ見回して探る。
 前に大きな絶壁があり、背後に大海原があるだけで、周囲にはなにも見あたらない。
 海の中にも目を凝らすが、強い波のため、何も見えない。

「何もないね」

 サチとサチゴン、もんちきも目を凝らして前後左右上下を探すが、何も見つからない。

 しばらく、周囲を調査したが、何も見あたらないため、少し位置を移動する。

 うろうろしながら、海の中を探し、空を見つめ、崖を眺めるのを繰り返す。

 特に怪しいところはなく、近寄る船も無い。

「本当にここであってるのかね?」

 サチがリヴィエラを疑う視線で見つめると、鼻をピクピクと動かす。

「焦げ臭い?」

「確かに。」

 リヴィエラがからだを強く動かして走り、帆船の異変を探す。

 シフィルも船の中に急いで入り、その焦げた匂いの原因を探す。

「おい、あそこだ。あそこが燃えてる。」

 もんちきが指をさすと、それにサチゴンも応えるように吠える。

 その指の先には、崖の一部、海面からある程度の高さまでが、薄い弱い青い炎で覆われており、徐々にその壁が消えていく

 燃えた灰が宙を舞う。

 その先にちょうどこの帆船が通れる程度の大きさの洞窟が現れていた。

「これは絵か。」

 リヴィエラが風で吹き飛ばされた灰を掴むと、手を擦って細かくした。

 指が黒色に汚れ、燃え残りの白色の紙が残る。

「罠かな?」

 サチがひやりとする一言をつぶやく。

「罠でも行くしかないだろ。」

 リヴィエラは素早く操舵場に進むと、船を洞窟へと進めた。


 甲板ではシフィル達が身構え、襲われてもすぐ動けるように準備を整えた。

 船はゆっくりと洞窟に入っていく。自然に出来た鍾乳洞のようだ。

 それからわずかに洞窟を進むと、岩を削って作製された簡易の船着き場が現れた。

 洞窟内は、所々に松明が小さく燃え、必要最低限の視界を確保している。

 リヴィエラがゆっくりとその船着き場に近づいて停船させると、素早く船外に飛び出した。
 慌ててシフィル達も飛び降りる。

「暗くて見えないね。あ・・・ぶねぇ」

 シフィルが濡れた地面のヌメヌメに足を取られて、バランスを崩すと、リザが光の玉と融合した光の円刃にちからを込めて周囲を小さく照らして、足元の視界を確保する。

 それに反応したように、少し離れたところに明かりが灯り、赤色の炎がユラユラと揺れ、徐々に近づいてくる。

 リヴィエラが先頭でそれに対して身構える。

 次第に、その炎がゆっくりと近づくと、レグランドフィアの紋章の入った剣を備えた兵士が視認できる。左手に松明。

「連絡は受けている。無事の到着、とりあえずおめでとう。リヴィエラ。」

 その兵士が声をかける。

「バンクスか?」

 リヴィエラがその兵士の顔を、揺れる炎の影が邪魔になりながらも、じっと凝視する。

「おう。」

 バンクスと呼ばれた兵士は、落ちていた木材を拾い、持っていた松明の炎に近づけて点火するとそれをリヴィエラに渡す。

 バンクスは身長がシフィル達の誰よりも高く、すらっとした体型をしている。話し方から、リヴィエラと同じぐらいの年齢だろうか。

 軽そうな銀色の鎧を身に纏い、腰には長めの剣がぶら下がっていた。その隣に、一人の少女が隠れるようにこっちをじっと見ている。

「幼なじみの感動の再会はちょっとまってくれ。」

 バンクスが言うと、隣の少女が不思議な不気味な色を発する筆を取り出し、洞窟の入り口に向かい、空中で絵を描き始めた。

「幻視、洞窟の入り口を見えなくさせて!」

 幼い少女が空中に洞窟の絵を描くと、それを両手で押すような仕草をして移動させて、洞窟の入り口に貼り付ける。

 あたかも、洞窟が塞がったと錯覚させる。入り口が無くなり、岩のようなごつごつした壁が生まれた。

「彼女はルチカ。俺の妹みたいなやつだ。」

 ルチカはバンクスの後ろに隠れ、足にしがみつきながら頭を下げた。バンクスの身長の半分の子供である。

 長い黒い髪に赤い大きなリボンを結い、くりくりの目をしている。

「改めて、ようこそ、外界へ。」

 バンクスは手袋を外し、皆と握手を交わした。
 特にリザとは長く。リザがそれをあからさまに顔に出して嫌がる。
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