三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

1 シフィルともんちき

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 少年は夢を見ていた。
 そこは暗い見覚えのない場所で、遠くに何か弱い明かり、かすかに人影が見える。
「ふしぎなちから・・・けっかい・・こわれる・・はやく・・こい・・」
 自分が夢でうなされているのが、眠っていてもわかった。

 やがて目を覚ます。
 寝床から起きるのが辛い。からだが重い。しかも気分が重い。
 もう外は夜が明け始めているが、まだ十分うっすらと暗い。

 木でできたベッドの上で、目覚めの悪い不機嫌な表情でゆっくり上半身だけを起こすと、ぎしぎしと木の軋む嫌な音がした。

「おはよう 今日は3度目の試験だな がんばれ がんばれ」

 待ってましたと、その少年の手の拳と同じぐらいの大きさの小型の白色毛を生やした猿が肩に乗った。
 身長の2倍程度ある長い白シッポが特徴的であり、目がまん丸く、愛着のある顔をしている。

「眠い・・・まだ早い・・」

 少年は肩の白猿を手で払うと、もう一度眠ろうと再び横になったが、白猿が今度は顔の上に乗りかかり、小さな手でぺちぺちと顔を叩く。

「わかったよ、もんちき!」

 しぶしぶと首を左右に倒してコキコキと音をさせると、大きなあくびをした。
 もんちきは、意思の疎通ができる、いわゆるサブヒュムと呼ばれる種族の珍しい白猿である。少年が生まれて、物心ついた時から、ずっと一緒にいる。

 少年の名はシフィル。今日でちょうど15回目の誕生日であった。

 シフィル :男性 黒髪 普通の体型。凛々しい顔、マイペースで少し弱気で、色々興味津々な性格。

 寝癖のついた髪の毛を手で梳かすと、肩を回してからちからを込めて、腕の筋肉を軽くギュギュっと揉んで疲れをとる。

 シフィルが暮らすのは、セイシュの民の火を崇める一族の集落である火の村「ファルス村」である。

 ファルス村は人口約100人程度の比較的小さな村であるが、かなり広範囲に離れて点在しながらも共同生活をしている。

 基本的に他の地域との交流は無いが、たまに商人といわれる人たちが現れては物々交換でいろいろものを置いていく。

 その商人が運び込む物は、いつも見たことがない便利なものや、変わった食べ物など、子供だけではなく大人までも興味を引くものが多かった。

 また、この村以外のことを知ることができる貴重な機会であり、シフィルは必ずと言っていいほど、その商人たちが来ると、どこから来たのか、この村の外はどうなっているか話を聞きに行った。

 まあ、それはシフィルだけでなく、多くの村人がそうであったが。
 とはいっても、深い山と山の間に挟まれた低地に作られた村であり、基本的には自給自足で成り立っている村である。

 そして、この村の唯一のサブヒュムが白猿のもんちきである。

 もんちき :シフィルの母が捕まえたサブヒュムの白猿。シフィルの拳ぐらいの大きさ。愛嬌のある顔。長い尻尾。

 通常、サブヒュムは単独でなく、群れをなして暮らすが、どこからか迷い込んだのを、シフィルの母親が捕まえたらしい。

 シフィルが立ち上がると直ぐにもんちきが飛び跳ねてシフィルの肩に飛び乗る。

「じゃあ、散歩行くか。」

 シフィルが笑うと、もんちきが両手を挙げて大喜びをして応える。

 最近、あの変な夢をみることが多い。とは言っても目を覚ますと、あまり覚えていないが。

 下着で眠っていたその上に、軽い外着を纏い、台所に貯められていた樽の水をお椀ですくってそれを手で受け止めて顔を丁寧に洗うと、跳ねた髪の寝癖を丁寧に直し、静かに扉を開いて外に歩いていく。

 まだ低い位置の太陽は、あたりの緑陽樹の朝露を反射させ、その光をみて喜んだのか、鶏が雄叫びを美しいハーモニーで奏でている。

 あの息がつまるような、どんよりする夢を見ると、気分を晴らすため、外に散歩に行きたくなる。
 あの夢を見るまで、早起きに縁の無いシフィルは、このすがすがしい朝を知らなかった。
 それよりも、この朝の特上の喜びは。

「おはよ シフィル!今日も早いのね!」

 隣家に住むシシリーが声をかけた。隣と言っても、ファルス村は広く、隣の家まで少し歩く必要がある。

 シシリー :女性栗色の髪 ポニーテール。シフィルの幼馴染。笑顔がかわいい。おっとりとした性格。動物
の面倒をよく見ている。

 彼女は自分の家が食料店兼動物・植物・魚類診療所兼本屋というなんとも訳のわからない店の手伝いで朝早く起き、夜遅くまで働いている。

 隣の家に住んではいたが、殆ど会話をしたことがなかった。
 同い年であり、気にはなっていたが、今まで話すためのきっかけがなかったというのが、正直のところではあるが。

「おはようシシリー。今日も朝早くから大変だね。手伝おうか?」

 シフィルが近づくと、ニコっと、どんな嫌なことでも忘れさせるであろう、微笑みを浮かべた。
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