三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

2 試験の朝

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「今日はシフィル試験の日でしょ。大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だよ。気分転換になるから。」

 応えると同時に素早くシシリーの足元に山盛りに積まれていた、茶色く細かく刻まれた肉とも魚とも思える不思議なにおいのする物体を、スコップでバケツに詰め込んだ。

 シシリーはまた、ニコっと笑う。

「ありがと。じゃ、あの子達にご飯をあげてくれる?お腹空いたーっ早く食べさせてくれーってうるさいのよ。お願いね。」

 あの子達とは、広い柵の中で一緒に育んでいる鶏、猫、犬、牛などの動物だけでなく、大きく掘られた池の中で跳ねる魚たち、そして朝顔、ひまわりなど季節に関係なく咲く花たちも含んでいる。

 シシリー一家が育んでいるペットのことで、動物病院の客が育てられなくなったり、動物が子供を産んで貰い手が無かったときに、えさ代の支払いを受け、引き取っているらしい。

 同じ庭で育てているが、不思議とけんかもせず、放し飼いでもけっして逃げないそうだ。

 そしてペットのえさは、動物医師であるシシリーの父の発明商品『なんでもフード』という獣も鳥も魚もどのような生物でも食べるえさのおかげで、区別することなく、楽に与えられる。

 シフィルがえさを入れたバケツを両手に抱えて、木の柵を登って中に入った瞬間、そのペット集団がバケツめがけて駆け寄ってくる。

 何度も経験しているが、真っ先に牛が角を突き出して自分めがけて駆け寄るのは心臓に悪い。
 バケツを投げるように置いてすばやく柵の外へ飛び駆け逃げる。

 もんちきは、一本の柵の上で座ってくつろいでシフィルとその動物たちのやり取りを笑っている。
 すべてのペットが好き嫌いなく、仲良く食べる便利なえさだ。池の中に放り込めば、当然魚のえさとなる。

 それよりも植物は水をまくだけで済むのだからもっと楽だが。
 ちなみに、このエサは植物の肥料にもなるらしい。

「ありがと。」

 シシリーが水撒きを終え、じょうろを縦に強く振って水を外に全部出しながら、餌にがっつくペットたちを仕事を終えて満足した笑顔でぼーっと眺めているシフィルの横へ近づいた。

「今日の試験頑張ってね。」

 ついついつられて笑顔になるシフィル。
 近づいた体温をわずかに感じると、自らも少しだけ、気付かれないように小さく、ぎこちなく近づいてから、大きくうなずく。

 それから何気ない話をして、自宅へ戻った。
家の前で両手を挙げて全身に力を込めると、全身にエネルギーが満ちた感じがした。
 
 家では既に木製のテーブルの上に朝食の準備が出来ていた。
 もんちき用のミルクも準備されており、シフィルの肩からテーブルに飛び降りたもんちきは、平たい陶器の皿に注がれたミルクを美味しそうに、上品に小さな木製のスプーンを使用して器用に飲んでいる。

 このミルクはシシリーの家で採れたものだ。シシリーのうちでは飼っている牛のミルクを販売もしている。

 牛肉も販売していて、それをシシリーがナイフを振り回して手際よくさばいているのを見たときは、背筋が凍り、話しかけられずにその場を離れたのは苦い思い出である。

 焼けたばかりのパンを母が木製の皿に載せて手渡すと、手作りのイチゴジャムを付け一気に頬張る。
 その傍らでは、母が忙しそうに、何かを縫い繕いっていた。

 シフィルは母との二人暮らしであった。正確にいうと、二人と一匹での生活が続いている。

 小さい木造の建屋は二人と一匹にちょうどいい大きさ。ところどころ傷んでいるが、それを丁寧にシフィルが修復した。

 シフィルの記憶には父は無かった。小さい頃からいつも二人と一匹であり、その生活に疑問を抱いてはいなかった。
 本当にいつも母には世話になっている。

「今日は試験の日ね、がんばってね。」

 縫物をつづけながら、振り向かずに言う。

「わかってる。」

 短くシフィルが返した。
「おいしかった満足満足。」
 もんちきも続けた。

 食べ終え、食器を自分で洗って水を切り、片づけて一息つくとすぐに自分の部屋へと戻る。
 使い古した木刀を持ち、いくつかの本をカバンにつめた。

 そして、その木刀をじっと構えてから少し静止して全身に力を込めると、少し弱めに、聞こえないようにため息をつく。

「行ってきます。」

 母に聞こえるか、聞こえないかの声の大きさで伝えると、シフィルは重い足取りで試験場所へと向かった。

「気を付けてね。」

 少し大きな声で母の声が聞こえる。

 シフィルの右肩にちょこんと座っているもんちきも少し緊張した面持ちで、シフィルの肩をポンポンと叩いた。

 試験場はシフィルの家からすぐ近くにある、ファルス長老が営んでいる剣術の道場で実施される。
 ちなみにファルス長老とは、このファルス村長を継いだものの肩書きで、本名ではない。
 その言葉通り、このファルス村で一番偉いのがファルス長老である。

 試験は、自分の誕生日に実施される。
 この試験は、男女ともに13歳から受けることが可能であり、この試験を合格すると、大人として認められる。

 村の外に出るのも、この試験を合格すると許されるのである。

 儀式的な意味合いが強いため、よっぽどのことが無い限り、合格することになっているが、シフィルは3回目の挑戦であった。

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