三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

6 一人前 深紅の鞘の剣をもらう

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「ただいま!」

 シフィルが家に着いて勢いよく走り入ると、既に誰からか合格の知らせがあったようで、ぎゅっと母がいきなり抱きついてきた。

「シフィル!合格したって!?おめでとう!!!!」

 シフィルが出来損ないと近所で噂されて一番悔しかったのは母だろう。
 母の喜び方はすごかった。が、少し胸がくすぐったくなると、無理矢理抱きついてきた母を強引に引きはがす。

「これからルタと狩りに行ってくる。」

「ちょっと待ちなさい。」

 シフィルが言うと、落ち着きを取り戻した母は机の上を指さした。

 そこには、鞘に入った2本の剣が準備されており、一本はファルス村でよく使われている新品の光り輝く鋼鉄でできた剣と、もう一本は初めて見る深紅の鞘の剣。

 その深紅の鞘の剣は派手で、正直シフィルの好みではない。シフィルには理解できない真っ赤で派手な色彩の剣であった。美しいかというと醜いというのが率直な感想。

 鞘には大きく炎をあしらったイラストが描かれているが、古ぼけて、醜く赤い塗料が剥げて所々金属の原色がむき出しになってしまっている。

 また、ルタが身に付けていたものと同じような堅い皮の服や薬草/傷薬も用意されていた。

 皮の服は少し小さく感じるが、所々繕われて、なんとか装着することができるがかなりきつい。
 よくよく思い出すと、今朝、母が縫い繕っていたのはこれだと気づいた。
 塗料の剥げた深紅の鞘の剣を手に持ち、母はシフィルに真剣な顔で手渡した。

「いらない。」

 シフィルはその深紅の鞘の剣には眼もくれず、茶色い独特なにおいの有る堅い皮の服を身にまとい、鋼鉄の剣を左腰に付けた。剣を鞘から抜くと、その剣は光り輝き、ぴかぴかと眩しかった。

 自分が強くなった様な気がした。
 全身を震わせて、剣を鞘に納めてから、再び剣を抜いた。

「この剣は、おまえの父から預かった剣なの。試験に合格したら渡してくれと」

「父さんの?」

 唐突に父という言葉が出たため、戸惑ったが、断ってはいけないことはわかった。
 母から父にまつわることを聞くのは初めてかもしれない。
 母は再び深紅の柄の剣を手渡した。

「それにしても派手な鞘だね。」

「ええ、まあねぇ。」

 しぶしぶシフィルがその剣を受け取り、その鞘をじっくり眺めてから、剣の柄をもってぎゅっと力を込めた。

「あれ?」

 だが、どんなに力を込めても抜けなかった。

 鞘から引き抜こうとしても、逆に押してみても、どこかがロックされていないか慎重に見回してみても、どうしても剣を引き抜くことができなかった。

「これ錆びてる?鞘から抜けないけど。やっぱりいらない。」

「ちょっと、もうちょっと頑張りなさいよ。」

 シフィルが深紅の鞘の剣を母に返すと、今度は母がその剣を鞘から引き出すよう、力を込めた。

「ぐぐぐっ」

 全く動かない。引き出せなかった。いくら顔が赤くなるくらい力を込めてもびくともしなかった。

「なんなのこれ!」

 母はいらだち、力を込めて床に叩き付けた。
 それにより床は凹んだが、やはり剣は鞘から抜けなかった。慌ててその剣をもんちきが拾った。

「シフィルもってけ。この剣なんか好きだ。おれ」

 もんちきが両手でシフィルに渡そうとする。このまま放っておくと、もんちきが剣の重さでつぶれてしまうかもしれないので、しょうがなく背負う形で剣を身に付けた。
 剣はとても軽く、背負っているのが感じない。でも深紅の醜い剣をかついでいるのは恥ずかしくもある。

 シフィルが背負った深紅の鞘の剣をもんちきが背中で必死に抜こうと、両手で力をいれたその瞬間、勢いあまってもんちきは床に落ちてしまった。当然剣に変化はない。

「一応、代々受け継がれている剣らしいから、捨てちゃだめだからね」

 相当の力を込めて抜こうとしたのか、未だに息を切らしている母が弱々しい声で言った。

「わかってるよ、行こう!もんちき!」

 床からもんちきがシフィルの足から腰、肩まで一気に駆け上がる。

「気を付けなさいよ!」

「うん!」

 短い挨拶の後、シフィルは村の入り口に向かった。
 今のシフィルには、こんな変な剣よりも、大人の第一歩、狩りのことしか頭になかった。
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